子どもが求め続けるものは何か。少年の数奇な運命が浮かびあがらせる『ルイの9番目の人生』
生まれてからわずか8年の間に8度も生死の境をさまよう経験をし、9歳の誕生日には崖から海へ転落し、昏睡状態に陥ってしまう。そんな数奇な運命を背負った少年が主人公の『ルイの9番目の人生』(原題:The Ninth Life of Louis Drax/監督:アレクサンドル・アジャ)。イギリス人作家リズ・ジェンセンの小説『ルイの九番目の命』の映画化です。
その少年ルイ・ドラッグス(エイダン・ロングワース)のもの悲しげな表情とあいまって、タイトルと設定からダーク・ファンタジー系の世界を想像しても不思議はありません。
けれども、これはサスペンス。ルイが崖から転落していくファーストシーンは、作品のノスタルジックな色調とあいまってどこかファンタジックですらありますが、この転落に事件性を感じた警察が捜査を進めるなか、病院のベッドで眠りつづけるルイのモノローグによって、両親との思い出やこれまでの経緯も語られ、次第にルイの家庭の事情も浮かびあがっていきます。
一方、ルイの母親ナタリー(ザラ・ガドン)は、男たちの視線を集めずにいない美女。父親ピーター(アーロン・ポール)の行方がしれないなか、ルイの担当医アラン・パスカル(ジェイミー・ドーナン)も彼女に惹かれていきますが、二人の距離が近づくにつれて周囲に不穏な気配が…。
昏睡状態にありながら、物語の語り手でもあるルイ。
帝王切開による誕生をトラウマという彼は、ベビーベッドに寝かされていた生後まもない頃から現在にいたるまでに遭遇した、命を落としかけたかずかずの体験を振り返るのですが、その出来事がコミカルに描かれるので、なぜ、ポスタービジュアルのルイが悲しげなのか不思議なほど。
とはいえ、ルイが通わされていたセラピーのカウンセラー(オリヴァー・プラット)とのやりとりから、この少年の繊細さも屈折もうかがえれば、彼の夢に現れる水の中の怪物が、物語にまさにダーク・ファンタジーな香りを漂わせるという具合に、ルイの悲しげな瞳の理由も次第に明らかになっていきます。
ルイの記憶にある8回の死にかけた経験がポップなトーンなのに対し、深層心理をうかがわせる怪物との対話がダークなトーンで描かれている。この対比が、彼が抱える思いをますますせつないものにしています。
そう、この物語に複雑なニュアンスをもたらし、重層的な魅力をもたらしているのは、ルイが心に秘めた想いのかずかず。サスペンスとしても、ルイの不可解な人生に隠された秘密が何なのかということよりも、その秘密を観客にどう解き明かしていくかで楽しませてくれる。そして、子どもにとっての絶対の世界である家族への想いにせつなくさせると同時に、人間の逞しさに驚かせてもくれるのです。
どこか達観したところのあるルイに、エイダン・ロングワースもハマっていますが、サラ・ガドンが男たちの視線を集めずにいない“きれいなお母さん”にハマりすぎるほどハマっている。観客の胸をざわつかせずにいないどこか危うい色香は、さすが近年、立て続けにデヴィッド・クローネンバーグ作品に出演して、クローネンバーグのミューズと呼ばれる存在といったところ。天才子役と呼びたくなるロングワースの今後の成長とともに、ガドンのさらなる飛躍にも期待です。
『ルイの9番目の人生』
1月20日、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開
(c)2015 Drax (Canada) Productions Inc./ Drax Films UK Limited.