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「謝罪動画」信用できる?宴会炎上後の悪対応…”嫌われてもいい”ではYouTuberは尊敬されない

谷田彰吾放送作家
水溜りボンドYouTubeより

 「謝罪動画」

 最近、よく聞くワードではないだろうか。何か過ちを犯したYouTuberや芸能人が動画で謝るのが当たり前になった。と同時に、事務的に「フォーマット化」されてきた印象もある。恐れずに言えば、「謝罪動画出しとけばいいんでしょ」というムードすら感じてしまうのは、私だけだろうか。

 人気YouTuber31人が緊急事態宣言下の6月18日に飲み会パーティーを開催していたことを文春オンラインが報じてから、5日。炎上はまだおさまらない。参加者「31人」、チャンネル登録者総数「約2226万人」という規模の大きさを考えれば当然かもしれない。パーティーは人気女性YouTuber・あやなんの誕生日会だったという。

 このコラムは、YouTuberたちが深夜まで飲み会をしたことについて、善悪を論じるものではない。糾弾するつもりはないし、コロナ禍の自粛一辺倒の空気の息苦しさもわかる。だが、それよりも今回考えたいのは、騒動を起こしたYouTuberのその後の対応、そしてYouTube業界全体としてどうすべきかについてだ。中でもテーマとして取り上げたいのが「謝罪動画」だ。

 一度過ちを犯したら、容赦ないバッシングが待っている。ネットとは、そういう場所だ。炎上したらYouTuberはどうするか。動画で公開謝罪をするのが常だ。正座をしたYouTuberのサムネイルを、一度は見たことがあるのではないだろうか。

 男性ならスーツを着て、金髪なら髪を黒く染め直し、いつものテンションとは真逆の神妙な面持ちで謝罪の言葉を並べる。これが一般的な謝罪動画だ。

 今回の騒動でも、当事者のYouTuberたちが謝罪動画をアップした。だが、全てを信用できるかと言われれば、それは難しい。本当に謝る気があるのか疑わしい者もいれば、もはや”悪ふざけ”とも言える挑発的な動画を投稿した者もいたからだ。

 31人の中でも年長者であり、チャンネル登録者数も多かった水溜りボンドのトミーは動画で、「この度は緊急事態宣言中の東京都内において、私トミーを含む大人数で集まり、深夜まで飲酒とカラオケをしていたことについて改めてお詫び申し上げます」「誕生日会があった会場のお店は、ぼくが経営するお店です。時短要請やお酒の提供停止要請が出ている中で、深夜まで飲食とカラオケを提供してしまったことについても深く責任を感じております。このことも重ねて本当に申し訳ございませんでした」と謝った。謝罪動画定番のスーツ姿で、正座をして冒頭15秒間、頭を下げた。

 誕生日会で祝われる立場だったあやなんは、「緊急事態宣言下で自覚ない行動だったことをすごく反省しています」「今失った信用を取り戻すために、これから努力していくのはもちろんなんですけど、まずは今回一番迷惑をかけている、私の家族である、しばゆーや、息子達としっかり話し合いを重ねて、自分を冷静に見つめ直す時間をつくりたいと思います。今回の行動を本当に悔い改めて、この気持ちを動画だけではなくて、常日頃からしっかりと伝えて、地に足を付けて、自分のやるべきことを、しっかりこなしていきたいと思っています」と謝罪した。

 あやなんは28歳、2児の母だ。幼い子供たちを置いて飲み会に参加したことになる。夫のしばゆーは超人気YouTuber・東海オンエアのメンバーだが、彼はTwitterで謝罪した。原文をそのまま掲載するが、皆さんはどんな印象を持つだろうか?

「誕生日会に僕は不参加だったのですが

 妻が参加していました。

 コロナ禍でこのような催しを行っていた事、憤りを感じざるを得ないです。

 これから妻を強く反省させるように努力します。僕からも謝罪します。

 妻の撮られた写真がブスなコアラみたいな事についても申し訳ないです。」

 最後の一文は、”これから妻を強く反省させるように努力する夫”が、今書くべき言葉なのだろうか?

 二人は夫婦だ。動画やTwitterを投稿する前に、多かれ少なかれ騒動について話し合ってはいるだろう。その上で、「これが今すべき最善の行動だよね」と判断して投稿したはずだ。正直、ともに30歳を目前に控えた社会人の真っ当な判断とは、私は思えない。ましてや二人は、父親であり、母親である。子供たちに見せて恥ずかしくない行動なのか? 疑問が残る。

 さらに、火に油を注ぐような動画を投稿した者もいる。

 飲み会に参加した3人組女性YouTuber・ヘラヘラ三銃士のさおりんは、『謝罪。この度は申し訳ありません』というタイトルで動画を投稿。サムネイルでは、さおりんが頭を丸めた姿に。さも反省しているのかと思いきや、動画の内容は、さおりんが『炎上パンチ』という楽曲を歌うというものだった。歌詞の一部を抜粋する。

 「炎上パンチ! 喰らったら

  謝罪動画上げます定期

  うー、レッツゴー!」

 「君に炎上パンチ! 喰らったら

  解除祭りされて大草原

  取り返しはつかないから

  スーツでも着て土下座しとけ」

 「酒は飲んでも飲まれるな

  文春砲も待った無し」

 「君に炎上パンチ! 効き過ぎて

  低評価荒らしの大行進

  広告収入ゼロだから

  バリカンで頭丸めとけ」

 これでは見る側は挑発された気持ちになってしまう。タイトルやサムネイルで視聴者を騙したこの動画には、非難のコメントが殺到した(頭を丸めたのはカツラだった)。すると、動画は削除され、翌日、新たな謝罪動画が投稿された。2本目には、飲み会に参加していないメンバーが一人で登場。「この度は同じメンバーであるさおりんが飲み会に参加したことを報じられ、本人も反省しております。お騒がせして申し訳ありませんでした」と謝罪した。

 だが、1本目の動画を撮った人間が、本当に反省しているのだろうか?信じて欲しいと言われても無理があるのではないか。そして、前日の動画について、投稿の経緯をこう話した。

 「まず、あの動画をなぜ出したかというと、私が客観的に報道を見た時にさおりんにYouTube上で謝罪させることではないかなと思いました。私の判断で自分たちらしい動画を投稿しようと思い、あの動画を載せました」

 ここでキーワードになってくるのが、「自分たちらしさ」だ。

 謝罪する必要がないからといって、挑発的な動画を出すのが「自分たちらしい」のか。そのポリシーについては置いておこう。では、なぜ炎上中に「自分たちらしさ」を出そうとしてしまうのか?その裏には、「YouTuber=究極のファンビジネス」という背景がある。

 YouTuberも芸能人も人気商売と言われるが、実は大きく違う。芸能人はテレビを中心としたマスメディアが主戦場のため、老若男女を問わず相手にする。だから「嫌われない」ことを重視する。謝罪もできるだけ傷を浅くしようと、型通りの謝り方をすることが多い。しかし、YouTuberは自分のチャンネルが主戦場。ファンだけを相手にしているから、ファン以外の人には「嫌われてもいい」と考える。極論、ファンさえいれば成り立つ仕事なのだ。だから、「自分たちらしさ」を知ってくれていることを前提に、上記のような動画を出す。あやなんの夫・しばゆーのTwitterもそうだ。自分をわかってくれるファンに向けて最後の一文を書いている。事実、「笑った」「おもしろい」というファンからのコメントも多い。

 さらに、ヘラヘラ三銃士以上に「自分たちらしい」持論を展開したのが、3人組YouTuber・えびすじゃっぷ。飲み会参加者の多くが謝罪する中、彼らは謝罪しないことを動画で表明した。「飲み会に参加したこと、ぶっちゃけあんま反省していません。

友達の誕生日会に参加することは悪いことだと思ってないんで」「飲んでるやつが叩かれたりとか、飲み会を開いたYouTuberが炎上したりとか、こういう世の中になってしまったけど、俺はそういう娯楽とか遊びとか、友達の誕生日を祝うとかって、大事だと思ってるんです」「僕たちは、飲み会などは自己責任で行けばいいと思ってます」「この動画で失望する人もたくさんいると思うんですけど、僕らはそれで構わないです、そういう人間なんで」

 大好きな友達を祝うためなら、その他の人も、緊急事態宣言も、関係ないということか。誕生日会に参加することが悪いとは、私も思わない。しかし、今の状況では、長時間の対面飲み会は大好きな友達を感染させる恐れがあるのではないか。飲み会の方が盛り上がるのはわかるが、今は違った方法で祝うことはできなかったのか。YouTuberであれば、そこでアイデアを出して欲しかった。

 「嫌われてもいい」では、いつまで経っても社会の尊敬を集めることはできない。「それ、目指してないから」というのが多くのYouTuberの言い分かもしれないが。誰もが「自分らしさ」を持っている。だが、緊急事態宣言は言い換えれば「今は自分らしさをなんとか抑えてください」という要請だ。ポリシーは人それぞれだから否定はしないが、今は違うのだ。自己責任では片付けられない。

 ここまで参加者の報道後の対応を書いてきたが、ここからはYouTube業界全体としての対応について考えてみたい。

 今回の騒動では、水溜りボンドが所属する大手YouTuber事務所・UUUMが、公式に謝罪したぐらいで、基本的には各YouTuberの自己判断に委ねられているようだ。だが、謝罪動画さえ出せば許されるのか? 厳しいようだが、長々と前述したように、謝罪動画を全面的に信用するのは難しく感じる。

 忘れてはいけないのが、彼らのチャンネルの動画によって”間接的に”ではあるが、迷惑をこうむる人たちがいることだ。YouTubeには、広告を出稿している企業がたくさんある。広告出稿の形は、大きく分けて2つ。ひとつは、YouTubeを運営するGoogleにお金を払って出稿する方法。もうひとつは、YouTuber本人にタイアップ料を払って、紹介してもらう方法だ。前者の場合に迷惑なのは、炎上中のYouTuberの動画の中で広告が流れてしまう可能性があることだ。

 Googleに出稿料を払うパターンの場合は、基本的にターゲティングされている。見て欲しい人をあらかじめ定めているのだ。そのため、同じ動画でも、40代の男性が見るのと、10代の女性が見るのとでは、流れる広告が違う。これはテレビと違うYouTubeのメリットではあるのだが、こういった炎上の中ではデメリット。今、飲み会に参加したYouTuberの動画に広告を出したい企業はほとんどないだろう。しかし、YouTubeのシステム上、流れてしまう可能性がある。

 このデメリットを解消する方法は2つ。Googleが強制的に炎上YouTuberのチャンネルを広告停止状態にすること。そして、YouTuberが自ら、広告を停止することだ。

 Googleは迷惑行為や暴力的な動画、性的な動画には広告を付けない措置をとる。だが、今回のケースでは飲み会に参加したYouTuberの動画は広告停止にはなっていないようだ。これをどう捉えるか。飲み会に参加した程度では、関与しない姿勢なのだろうが、

YouTuberの社会的影響力は増すばかりだ。憧れている子供たちも多い。そんな中、炎上して知名度が上がればより稼げてしまうという構造で、広告主にも悪影響を及ぼすというのは果たしてどうなのか?

 では、YouTuber自身が広告を止めるかといえば、そうでもない。謝罪動画こそ広告を付けないのが常識となっているが、それ以外の動画は付けたまま。今回のケースでは、「しばらくの間、動画投稿を自粛します」というYouTuberもいたが、誰に対する配慮なのか。過去の動画に広告がついていれば、少なからず迷惑はかかる。

 また、YouTuberはこういった時に稼いでいるからこそ叩かれやすい。悪いことをして休んでいても、過去の動画に広告が付いているから稼ぎ続けられるとなれば、納得できない人も多いだろう。いろんな意見があると思うが、一定期間、広告を停止し、収入を放棄すれば、世間の溜飲は少しは下がるかもしれない。企業にも迷惑がかからない。

 飲み会に参加したトップYouTuberたちは、今一度、肝に銘じて欲しい。YouTuberという職業は、まだ賛否の別れる職業だ。そんな中起きた今回の炎上騒動は、さらに大きくイメージダウンさせた。コロナ禍でたまりにたまったストレスがあるのはわかる。だが、人気者である彼らには、業界の未来を担う責任があるはずだ。このままでは、ずっとリスペクトされない職業になってしまうことを自覚して欲しい。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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