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長時間の会見と執拗な質問…レポーターは渡部さんから何を聞けば満足したのだろうか

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:アフロ)

今日午後7時からおよそ100分間にわたって行われた「アンジャッシュ」渡部建さんの謝罪会見。長時間にわたり芸能レポーターたちから執拗に繰り返された質問に、少しただならぬものを感じた方も多かったのではないか。いったいレポーターは渡部さんからどんな答えを聞き出したかったのか。

誤解を恐れずに言えば、今日の会見を見て、一番最初に感じたのは「質問の声のほとんどが女性レポーターのもの」だったことだ。もちろんそれに何の問題もないが、とても印象的だった。会見場に男性レポーターもいたが、会見が始まってから相当な時間が経っても、一度も男性レポーターの質問の声は聞こえてこなかった。渡部さんからの冒頭の説明および謝罪は非常に短く、その後のほとんどの時間は矢継ぎ早なレポーターからの質問が延々と続いた。それはあたかも「渡部さんがした一連の行為が女性に不快感を与えたのだから、女性たちの抗議の声を女性レポーターが代弁して渡部さんにぶつけている」ような構図に私には見えた。

無論、渡部さんがしたことは一定の非難を浴びても仕方がないことである。女性をはじめとして多くの人々に不快感を与えたのも事実だろう。しかし、犯罪ではない。しかも本人が謝罪のために会見を開き、自ら報道陣の前に姿を現しているのに、レポーターが冷静に質問しようとしていない感じがしたのだ。一部、建設的な質問をしている女性レポーターもいたが、感情的で、質問というよりはレポーターの感情や意見をぶつけているようなものが多いように私には感じられた。

それでも渡部さんは懸命に事実関係を説明しようとしたが、関係者に配慮しなければならないわけだから当然言葉を選びながら答えることになる。言えないこともあるだろう。びっしょり汗をかいて答えている渡部さんに、何度も同じような質問が繰り返し聞かれている印象だった。いったいどんな答えをレポーターたちは求めていたのか、私にはよく分からなかった。

私はテレビ局で25年近く報道記者や報道番組の制作に携わってきたが、記者会見は「会見している人の心情や話を聞くために行われる」ものだと思っている。決してレポーターの質問を聞かせるために開かれるものでもないし、質問する側が会見している人を裁くために行われるものでも無論ない。

私が思うに、ABEMAなどインターネットで会見が生中継され、ノーカットで見られるようになってからこのような「長時間にわたり執拗に質問が繰り返される会見」が増えたのではないか。「長時間にわたって生で見て楽しめるコンテンツ」になったことで、かつてのように記者会見が、地上波の番組内で短時間生中継されるか、編集して紹介されるだけだった時代とは「記者会見の質」が変化してきているような気がする。

ひょっとして記者会見が「誰かを袋叩きにして楽しむ場」になっているとしたらそれは恐ろしいことではないか。今一度、我々メディア関係者はよく考えてみる必要があるのではないだろうか。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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