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「自殺という言葉を使わないで」自死遺族たちが報道に望むこと。

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
一般社団法人全国自死遺族連絡会 田中幸子代表理事(筆者撮影)

三浦春馬さんの突然の死。それを受けて、WHOの「自殺報道ガイドライン」が注目を集めている。そして、自殺対策の専門家による報道の問題点についての指摘なども記事にされている。しかし、「自死遺族」たちがどんな報道を望んでいるのかについてはあまり紹介されていない。

果たして自死遺族たちはどのような報道を望んでいるのか?今年3月に取材した一般社団法人全国自死遺族連絡会 田中幸子代表理事の話を要約して再びお伝えしたい。

自死遺族たちは、メディアの報道姿勢にいろいろな疑問を持っている。田中さんは、自らも息子さんを自死で亡くしている。このインタビューをした3月には、学校に行きたくない子どもたちに向けて、一斉に「死ぬな」というキャンペーンをすることについて、田中さんにお話を伺った。

しかし、三浦さんの死を受けて、一斉にメディアが「死ぬな」ということを伝えることで、いま同じような状況が起きているのではないか。そして、「自殺」という言葉を連呼してしまうことについても、自死遺族たちはどう思っているのかを考える必要があると思う。

なぜ自死者だけに「殺す」という言葉を使うのか?

Q:自殺という言葉は、なぜ使わないで欲しいのですか?

A:一般的には「自殺」というと思うんですけれども、「殺す」という言葉が入っていることによっていろいろ偏見・差別があります。自ら進んで「自分を殺している」んだというイメージから生まれるいろんな偏見・差別があるということで、10年くらい前から国が「自死の多くは、追い込まれた末の死である」としているので、ほとんどが追い込まれた末の死であるならば、「自ら殺したのではなく、死なざるを得なかったんだ」ということです。そして、死について言えば、事故死も突然死もみんな死なんですね。自殺だけが、「殺」という漢字を使って表されていますが、私たちの親族の死も、「死」という字を使って表して欲しいのです。

「死ぬな」キャンペーンは「煽る」ことになる

Q:いつも夏休み明けに向かって、「学校に行きたくなければ行かなくていい、死ぬな」というのをメディアが一斉にキャンペーンでやるじゃないですか。あれについてどう思いますか。

A:あれはやめてほしいと思っています。

Q:それはなぜですか。

A:キャンペーンみたいにやるのはやめてほしいんですよ。8月の末、夏休み明けとか、3月が多いとか9月が多いとかとキャンペーンをやるでしょう。キャンペーンみたいにやるのは絶対にやめてもらいたい。煽るような感じがする。

Q:それは、「やめろやめろ」と言うことで…。

A:それ自体がもうむしろ。だから、「やめろ」とか「死なないでね」というメッセージは毎日のようにランダムに届けていいと思っていて。何でそこだけに集中するのかなと。そうすると何か、苦しい人に聞いたんだけれども、「死ななきゃいけないのかなと思っちゃう」と言っていました。むしろ、反対に。

Q:なるほど。

A:うん。やっぱり心が弱っている人はね、死んだほうがいいのかな、死ななきゃいけないのかな、そういう時期だしと、流行じゃないけれども、むしろそんなふうに思い込むから、あれはやめてもらいたいというのは、精神的に病んでいる人たちからはたくさん聞きます。

自死を選ぶのは「特別な人」じゃない

Q:じゃ、もう、一斉にみんなで言うんじゃなくて、日頃から。

A:はい。毎日のように日頃からいろんなところでやっていくことがすごく大事だと思う。

全国でいろんな方法で届けていくことが大事だと思います。で、日常生活、普通のところで自死の問題が語られるような社会であってほしい。あのキャンペーンが一番嫌なんですよ、私。あれだと、もう、何か特別な人みたいでしょう?

Q:はい。

A:「8月末に亡くなる子どもたちは特殊な人たちだから」みたいな感じの、3月もそうでしょう。何とかキャンペーンとか自殺予防キャンペーンとかやるんだけれども、あれも、そうじゃないでしょう。

身近に、もしかしたらうちの家族も、もしかしたらうちの子どももとか思って、やっぱ心を引き締めて、やっぱり人間生きていってほしいなと思っているんですよ。私とは関係ないじゃなく。それにはキャンペーンとかじゃないんですよ。あれは、むしろ差別化を生んでいるような気がします。だから子どもたちが死ぬんじゃないかなと、むしろ私は追い込んでいるような気がします。

Q:なるほど。

自死を「きちんと」報道してほしい

A:最近は、すごく規制がかかっているふうに思っていて。きちんと報道してほしいというふうに思っているんですね。未成年者に関して報道するのは、いろいろあるでしょうけれども、私はできればきちんと報道してもらいたいというほうです。

Q:なるほど。それはなぜですか。

A:やっぱりある程度の抑止力になるというふうには思っています。そして飛び込んだ人がいたときに、単に「飛び込みだ」とか思わずに、「何歳ぐらいの人が亡くなった」とか「会社員だった」と出すことによって、どこまで出すかですけれども出すことによって、「ああ、何かあったんじゃないかな」とか、「この会社で何かあったんじゃないかな」とか、そういうことがよく分かるようになってほしい。身近に感じられるようになっていくんじゃないかなと私自身は思っています。

Q:つまり、おっしゃっているのは、個人名を出せということではなくて…。

A:なくて。

「支援者の声」ばかりが取り上げられる

Q:どういう方がどういう事情で亡くなったのかということですね。

A:そう。ある程度。そしてあとはマスコミに対しては、労災に関してもそうだし、いじめに関してもそうだけれども、権力がある側の話だけを聞いて一方的に報道しているような気がして。

もっと遺族や当事者にも話を聞いて、そして両方の話をちゃんとコメントを出してもらいたいと思って。今はすごく不平等だなというふうに思っています。

Q:なるほど。そういう姿勢が、ある意味で自死が多いということにつながっていると。

A:私はそう思います。で、子どもの親がどんなに苦しむかとか、私の子どもがこんなことで苦しんで亡くなったんだよということがいろんなところで報道されていくと、多分もっと身近に感じることができる。

私なんかもそうだけれども、遺族に突然なったときに、あんなことしておけばよかったって、私の身には起こらないとみんな思っているわけです。でも、実際は突然起こるんですよ。

だからこそもっと身近に感じてほしい。そのためには遺族の声をどんどん取り上げるべきだと思いますけれども、最近はものすごく少ないなと思います。

支援者の声だけが載るの。支援をしてる人たち、ボランティアさんとか。そういう人の声と写真だけがいっぱい載るんだけれども、遺族や当事者の声があんまり載らないんです。

「自死者を否定的に扱いすぎる」ことで、さらなる苦しみが

そして、自死遺族の方々が苦しめられているもののひとつに、“事故物件サイト”があるという。

Q:今は結構ウェブの記事にもよく事故物件サイトが出てきていて、メジャーな存在になっていますけれども、皆さん何が一番困っていらっしゃるんですか。

A:そうですね、賃貸物件に関しては、運営者がよく主張しているように、借りる側の人のためにとかということで、それはそれで「まあ、まあ」という感じはするんですけれども、持ち家や持ちマンションについても書いてあるんです。それは売買に出していない物件なので、本当に個人のものですよね。

Q:はい。

A:それなのに、事故物件として住所が載ります。名前だけが載ってないだけで。で、今それを基にして、実際に訪ねてくる人が全国からいます。

心中とか、例えばセンセーショナルな、自分を包丁で刺してとか、そういう衝撃的な死であればあるほどやっぱり全国から車で訪ねてきて、「ここが事故物件の家だよね」と、「幽霊が出ているんじゃないか」という人が結構たくさん来ます。

夜、カーテンを開けていられないんですよ。

Q:そうなんですか。

A:そういう被害を受けている人が実際にいるんです。それってやっぱり個人情報だし、個人の尊厳の侵害だと私は思っているんです。

賃貸物件に関しては、それは借りる側の利益のためもあるでしょうから、大家さん側とかが賃貸物件に関して出してもいいのかもしれないけれども、少なくとも持ち家や持ちマンションに関しては、やってはいけないことを事故物件サイトはやっているというふうに思っています。

乗っている車のナンバーまで掲載

Q:なるほど。死因というか、どうやって死んだということまで詳しく載っているんですか。

A:そうですね、死因も全部詳しく載っています。焼身で亡くなったとか、心中だとか。で、すごく進化していて、今は書き込みができるようなサイトになっていると思います。

なので、新聞とかに記事が出るとサイトに書き込む人がいるわけです。そうすると、私の知り合いで現在被害を受けている人なんかは、賃貸に住んでいるんですけれども、今乗っている車のナンバーも出ちゃっているんです。現在乗っている車ですよ。

Q:それは誰かが書き込んでいるんですね。

A:そうです。多分ご近所の人だと思います。亡くなって新聞に出た途端にばーっと出て、で、車のナンバーも出て、住所も全部出て、写真入りで一戸建てが出ちゃっていて。

そこに現在も住んでいるわけですよね。そうするとそこに本当に全国から人が来て、それでまたいろんなネットで騒がれて……2ちゃんねるとかあるでしょう。

「人が住んでるのか行ってみたんだけれどもカーテンが閉まっていた」とか、そういうことをがんがん書く人がいて。「最近なんか親子の幽霊が出るらしいよ」とか。

そういうことがやっぱりあるんです。それでそこに住めなくなってしまって、実際に引っ越した人もいるんですよ。

持ち家を掲載するのは違法ではないか

Q:住んでいられなくなった。

A:それはどうなのかなというふうには思います。

彼の言い分もものすごくよく分かるけれども、やっぱり持ち家に関しては、私は違法だというふうに思っているんです。

賃貸のほうも、別に、亡くなったからといってだからどうなのという話なんです。事故物件サイトがやらなくても、事故物件として告知義務があるので、不動産屋さんは必ず告知はするのでそれは事故物件サイトがやらなくてもいいことで。

それなのに死因まで書いてあるわけです。首を吊ったとかそういうことまで、そこまで書く必要が果たしてあるのかなと思いますし。あとは、住所まで残ってしまうのは、名前が出ていないだけというのは、それでいいのかなというふうに思います。

Q:なるほど。

A:みんな死ぬんですよ、誰しもが。気持ち悪くないかといったら気持ち悪いかもしれない、それはね。でも、そうやってあおるものではなく、ちゃんと告知義務としてあるのだから、別に事故物件サイトがなくてもいいのかなと思うし、何であれを不動産屋さんが文句を言わないのかなというふうに、非常に思います。

人間は必ず死ぬわけなので、それが気持ち悪いということになったら日本国中どこでもみんな気持ち悪いし、で、それを利用してまた安く賃貸物件を半額にしろとか3分の1にしろとか言っている人たちもいるわけじゃないですか。それは、人の死に便乗した商売だなというふうに思っています。

三浦さんの自宅を「明かす」必要はあるのか

今回も、三浦さんが自ら死を選んだとされる、三浦さんの自宅周辺を報道陣が取材することで、三浦さんの自宅マンションの外観はおろか、ネットではマンションの名前や家賃までが明らかにされている。

こうした報道姿勢には、果たしてどんな意味があるのだろうか?我々は、WHOの「自殺報道ガイドライン」のみならず、こうした自死遺族たちの声にも耳を傾け、改めて自死に関する報道のあり方について、考えてみる必要があるのではないだろうか。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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