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“事故物件サイト”に怒る自死遺族 「住めなくなり引っ越すしかない」悲痛な叫び

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:アフロ)

去年(令和元年)自ら死を選んだ人の数は2万169人と、統計を取り始めた昭和53年以降過去最少になったというニュースがつい先日報じられた。しかし、10代の自死者は増えているなど、依然日本における自死の問題は深刻だ。そして、自死遺族たちは、愛する人を失った苦しみだけではなく、社会からの偏見や差別にも二重に苦しめられている。

そして、自死遺族の方々が苦しめられているもののひとつに、“事故物件サイト”があるという。一般社団法人全国自死遺族連絡会の田中幸子代表理事にお話を聞いた。田中さんは、自らも息子さんを自死で亡くしている。

全国から人が来て、カーテンを開けていられない

(Q が筆者、A が田中幸子代表理事)

Q:今は結構ウェブの記事にもよく事故物件サイトが出てきていて、メジャーな存在になっていますけれども、皆さん何が一番困っていらっしゃるんですか。

A:そうですね、賃貸物件に関しては、運営者がよく主張しているように、借りる側の人のためにとかということで、それはそれで「まあ、まあ」という感じはするんですけれども、持ち家や持ちマンションについても書いてあるんです。それは売買に出していない物件なので、本当に個人のものですよね。

Q:はい。

A:それなのに、事故物件として住所が載ります。名前だけが載ってないだけで。で、今それを基にして、実際に訪ねてくる人が全国からいます。

心中とか、例えばセンセーショナルな、自分を包丁で刺してとか、そういう衝撃的な死であればあるほどやっぱり全国から車で訪ねてきて、「ここが事故物件の家だよね」と、「幽霊が出ているんじゃないか」という人が結構たくさん来ます。

夜、カーテンを開けていられないんですよ。

Q:そうなんですか。

A:そういう被害を受けている人が実際にいるんです。それってやっぱり個人情報だし、個人の尊厳の侵害だと私は思っているんです。

賃貸物件に関しては、それは借りる側の利益のためもあるでしょうから、大家さん側とかが賃貸物件に関して出してもいいのかもしれないけれども、少なくとも持ち家や持ちマンションに関しては、やってはいけないことを事故物件サイトはやっているというふうに思っています。

乗っている車のナンバーまで掲載

Q:なるほど。死因というか、どうやって死んだということまで詳しく載っているんですか。

A:そうですね、死因も全部詳しく載っています。焼身で亡くなったとか、心中だとか。で、すごく進化していて、今は書き込みができるようなサイトになっていると思います。

なので、新聞とかに記事が出るとサイトに書き込む人がいるわけです。そうすると、私の知り合いで現在被害を受けている人なんかは、賃貸に住んでいるんですけれども、今乗っている車のナンバーも出ちゃっているんです。現在乗っている車ですよ。

Q:それは誰かが書き込んでいるんですね。

A:そうです。多分ご近所の人だと思います。亡くなって新聞に出た途端にばーっと出て、で、車のナンバーも出て、住所も全部出て、写真入りで一戸建てが出ちゃっていて。

そこに現在も住んでいるわけですよね。そうするとそこに本当に全国から人が来て、それでまたいろんなネットで騒がれて……2ちゃんねるとかあるでしょう。

「人が住んでるのか行ってみたんだけれどもカーテンが閉まっていた」とか、そういうことをがんがん書く人がいて。「最近なんか親子の幽霊が出るらしいよ」とか。

そういうことがやっぱりあるんです。それでそこに住めなくなってしまって、実際に引っ越した人もいるんですよ。

一般社団法人全国自死遺族連絡会 田中幸子代表理事(筆者撮影)
一般社団法人全国自死遺族連絡会 田中幸子代表理事(筆者撮影)

持ち家を掲載するのは違法ではないか

Q:住んでいられなくなった。

A:それはどうなのかなというふうには思います。

彼の言い分もものすごくよく分かるけれども、やっぱり持ち家に関しては、私は違法だというふうに思っているんです。

賃貸のほうも、別に、亡くなったからといってだからどうなのという話なんです。事故物件サイトがやらなくても、必ず事故物件として告知義務があるので、不動産屋さんは必ず告知はするのでそれは事故物件サイトがやらなくてもいいことで。

それなのに死因まで書いてあるわけです。首を吊ったとかそういうことまで、そこまで書く必要が果たしてあるのかなと思いますし。あとは、住所まで残ってしまうのは、名前が出ていないだけというのは、それでいいのかなというふうに思います。

Q:なるほど。

A:みんな死ぬんですよ、誰しもが。でも気持ち悪くないかといったら気持ち悪いかもしれない、それはね。でも、そうやってあおるものではなく、ちゃんと告知義務としてあるのだから、別に事故物件サイトがなくてもいいのかなと思うし、何であれを不動産屋さんが文句を言わないのかなというふうに、非常に思います。

人間は必ず死ぬわけなので、それが気持ち悪いということになったら日本国中どこでもみんな気持ち悪いし、で、それを利用してまた安く賃貸物件を半額にしろとか3分の1にしろとか言っている人たちもいるわけじゃないですか。それは、人の死に便乗した商売だなというふうに思っています。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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