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「スーパーJチャンネル」に育ててもらった私が、今回の「やらせ」に思うこと

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

あまりに悲しかった「古巣のやらせ」

 テレビ朝日の「スーパーJチャンネル」で「やらせ」があったというニュースを聞いて、とても悲しかった。なぜなら「スーパーJチャンネル」は若い頃にディレクターとして5年間、そしてその後ニュースや企画のデスクとして6年間在籍した、まさにテレビマンとして私を育ててくれた番組だからだ。16日の20時から緊急会見を行った篠塚浩常務も長田明広報局長も、かつては「スーパーJチャンネル」で一緒に働いた先輩たちだ。さぞ辛かっただろう、と心境が想像できるし、できればこんな原稿は書きたくない。しかし、テレビ制作を続けながら、テレビのことについて原稿も書いて生きていく、と決めたからにはこの問題から逃げたくはないので、あえて書かせてもらうことにする。

番組の制作体制はどうなっているか

 まず「スーパーJチャンネル」という番組の制作体制について簡単に説明しよう。番組は大きく「ニュース枠」と「企画枠」に分かれていて、「ニュース枠」はテレビ朝日の局員と外部の制作会社から派遣されたスタッフ(基本的に毎日テレビ朝日に常駐している)の混成部隊で制作されており、基本的にすべてテレビ朝日の局内で編集作業も行われていて、局員のニュースデスクたちがすべての制作過程をチェックしている。

 一方で「企画枠」はいくつかの外部の制作会社が特集ごとに制作を担当している。「完パケ納品」と呼ばれる方式で、コーナーVTRの制作には基本的に制作会社が責任を持つシステムだ。スタッフの席はテレビ朝日の内部にも用意されているが、すべてのスタッフが局内に常駐しているわけではない。「チーフ」と呼ばれる制作会社の制作責任者などは局内にほぼ常駐しているが、ディレクターたちは基本的にめいめい取材ロケを行い、局内外の様々な場所で思い思いに編集作業を行っている。局の「企画担当デスク」が何回かプレビューや内容のチェック、修正指示などを行うが、基本的には制作会社の「チーフ」が制作過程を逐一チェックすることになる。

もし私だったら今回の「やらせ」を見抜けたか?

 いわば「2つの別の番組」が重なったような形で1つの番組となっているわけだが、今回問題が起きてしまったのはこの「企画枠」である。私もかつて「スーパーJチャンネル」で「企画デスク」をしており、企画内容のプレビューやチェックを担当していたが、もし私が今回問題となったVTRのチェックをしていたら「やらせ」であることが見抜けたか?と考えてみると、残念ながらその答えは「NO」であると言わざるを得ない。

 今回のように出演者を「仕込まれて」いたら、まずはどんなに慎重に企画書を読んでもそのおかしさに気づくことはできないと思う。千載一遇のチャンス頼りみたいな「無茶な内容の企画書」であれば、実現可能性の面から無理が生じると思いストップをかけることはできるが、「スーパーでお客さんを見つけ、話を聞く」というのは十分可能そうだ。ストップはかけないだろう。

どうしたら「再発」を防げるのか?

 では、プレビューの時点でおかしさに気づくか?と言われるとこれもまず難しいだろう。よほど「様子がおかしい」とか「不自然な点がある」とかではない限り、普通にオッケーしてしまうはずだ。では制作会社のチーフは制作過程のチェックで「やらせ」に気がつくことができたのか?というと、たぶんこれも、ほぼ無理だ。ディレクターが確信犯で取材対象者を「仕込んで」しまったらもう制作過程で気がつくことはほぼできないとしか私には考えられない。

 ではどのようにして今後このような「やらせ」が発生することを防ぐのか?かなり難しいことではあると思うのだが、全く方法がなくはない。それは多分、遠回りのようだが制作環境を改善することだと思う。

 まずなんと言ってもスタッフの人数が足りていないと、現場は追い込まれる。企画を考えるのも、取材ロケをするのも、編集をするのも、すべて時間に追われることになり、チーフ以下スタッフ全員が疲弊していく。今回のケースがどうだったかは私には分からないが、私の知る「スーパーJチャンネル」企画班のスタッフにも、かなりの激務で「大変だよなあこの人。よく頑張ってるなあ。」と思う人はたくさんいる。まず彼らの負担を軽減できるようにすべきなのだろうと私は思う。

現場にかかるプレッシャーを軽減すべき

 そして今回の制作を担当していた制作会社はテレビ朝日映像だが、実際の担当ディレクターはテレビ朝日映像の社員ではなく別の会社からの派遣社員だったようだ。昨今のテレビ制作現場では、ある制作会社が制作を担当していても、その制作会社への派遣スタッフが大部分でチームを編成しているケースがよくあるのが現実だ。しつこいようだが、今回のケースがどうだったかについては私は知らないが、一般論として外部のスタッフには「面白いものを作らなければクビになるかも」というプレッシャーがかなりかかる。お給料も内部スタッフに比べて安い場合が多い。こうした環境も改善していかなければ、疲弊したスタッフにいつ「魔がさす」とも限らないのだ。

 「スーパーJチャンネル」には、本当に一生懸命に頑張っているスタッフがたくさんいる。私はそれがよく分かっている。現在のテレビを取り巻く厳しい環境下では、予算もなかなか厳しいだろうとは思う。しかし、他のメディアに記事にされるのでもなく、自ら会見を開いて問題を明らかにしたことも、真摯な姿勢の表れだと思う。ぜひ、「スーパーJチャンネル」にも、テレビ朝日報道局にも、失われた信頼を早く取り戻して、良い番組を制作し続けて欲しいと、OBの1人として強く希望している。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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