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ネチネチ嫌味で進学を諦めさせる、12歳の少年のトイレ監視―公務員のやること?織田朝日さんトーク

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
クルド難民の子ども達が描いた絵と織田朝日さん 筆者撮影

 今月18日から21日まで、東京都杉並区のギャラリーで、日本で暮らすクルド難民と、在日外国人・難民認定申請者の支援を行っている織田朝日さんの共同の絵画展が行われた。23日には、会場にて織田さんがクルド難民の子ども達と共にトークを行い、出入国在留管理庁(入管)の理不尽さについて、その思いを語った。

〇露骨に差別されるクルド難民

 トルコやイラク、シリア等に2000~3000万人が暮らしているクルド人は、「国を持たない最大の民族」とも言われる。とりわけ、トルコでは、現地政府やマジョリティのトルコ民族の住民達から迫害を受け、日本にも難民として避難してきている。だが、トルコが親日国であるためか、ただでさえ「難民認定率が低い国」とUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)年次報告で名指しされている日本の難民認定審査においても、特に差別的に扱われているのが、トルコ国籍のクルド人なのだ。1982年に日本が難民認定による受け入れを開始してから、全く難民認定されないという異常事態が続き、今月9日、難民不認定の不服裁判で勝訴したクルド難民一名が、国内初の認定を受けたばかりだ。

クルド民族を象徴する旗を手にポーズをとる少女 イラク北部アルビルにて筆者撮影
クルド民族を象徴する旗を手にポーズをとる少女 イラク北部アルビルにて筆者撮影

〇「入管は僕達の未来を潰そうとしている」

 織田さんは、2004年から入管問題に取り組み、理不尽な対応に苦しむ在日外国人や難民認定申請者達を支援し励ましてきた。そうした中で、難民の子ども達の声を、彼ら自身の表現から知ってもらいたいと思い、今回、クルド難民の子ども達と、織田さん自身が描いた絵を展示したのだという。展示された絵には、「みんな同じなのに、なんで、私たちだけいじめられるの?」と日本語で書かれたものもあった。

クルド難民の子どもが描いた絵 筆者撮影
クルド難民の子どもが描いた絵 筆者撮影

 織田さんは「小学校などで、他の子と顔が違うからといじめられるケースも多くて、登校拒否になったりすることもあります。学校側がいじめに対して、ちゃんと対応しないことも少なくありません」と言う。いじめ自体が許されないことなのだが、より悪質なのは、国家公務員である入管職員による暴言や嫌がらせが繰り返されていることだ。「今、20代半ばのクルド難民の女性は、高校までは成績が優秀だったのですが、定期的に行かなくてはならない入管で、職員に『どうせ日本にはいられないから、大学なんか行っても無駄』と嫌味を言われ、結局、進学を諦めてしまいました」(織田さん)。難民として認められなくても、大学に進学すれば、在留資格を得られる場合もあるだけに、こうした入管職員の暴言は「許せない」と織田さんは憤る。

 21日のトークでは、クルド難民の子ども達も発言した。その一人、現在12歳の男の子のA君は、父親が難民認定申請をしていたが、不認定となり、一家は在留資格が無い状態となった。「僕達の家族が入管に呼ばれ、東京入管に行くと大勢の入管職員達がいて、『あなた達は今、捕まっています』と言われた。入管職員がお父さんに事情を聞いている間、僕は兄弟とトイレに行ったのだけど、その時も入管職員達が監視していて、先に僕が家族のところに戻ろうとしたら、入管職員がぐいっと僕の腕を掴んできました。逃げようとした訳じゃないのに」(Aくん)。

 Aくんが日本に来たのは、9年前。物心ついた時は、日本にいた。「僕はトルコでの生活は知らないし、言葉も出来ない。向こうに言ったら、勉強にもついていけないし、多分、いじめられると思う。それなのに、入管職員は僕にも『帰れ』と言います。入管は僕達の未来を潰そうとしているのだと思います」(Aくん)。 

自分や家族の境遇を語るAくん 筆者撮影
自分や家族の境遇を語るAくん 筆者撮影

〇追い詰められる難民の子ども達

 欧米では国籍は出生地主義を取る国も多く、また幼い時に連れてこられた移民の子ども達に対する救済措置的な制度もある。だが、日本では、Aくんの様に親が難民不認定となった時点で、子ども達も在留資格を失うことになる。そうした子ども達は、最悪の場合、入管の収容施設に収容され、そうならなくても「仮放免」というかたちでの、極めて不安定な立場となる。前出の織田さんは「仮放免は『住民票が無い』ということになるので、公立高校の無償化の対象にならず、難民の子ども達が進学する際に重い負担となります」と話す。「仮放免では就労することもできないので、ただでさえ生活が厳しいものとなります。国民健康保険にも入れないので、コロナ等、病気になっても治療費を払うことが難しく、結局、病院にも行けないことがよくあります」(織田さん)。Aくんも「お父さん、あちこちで借金して、大変」と訴える。難民として認定されず、しかし迫害の恐れ等から帰るに帰れない人々、そしてその子ども達の、日本における状況は極めて過酷なのだ。織田さんは「せめて、働けるようにして、難民達が自力で生活したり、国民健康保険にも入れるようにしたりして欲しい」という。

〇「大人は子どもを守れ」

 Aくんの様なケースは、難民条約上の義務を日本があまりにも軽視しているというだけではなく、同じく日本が批准している、子どもの権利条約から見ても大きな問題があると言えるだろう。国連児童基金(UNICEF)によれば、子どもの権利条約には4つの原則がある。

・生命、生存及び発達に対する権利

すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。

・子どもの最善の利益

子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えます。

・子どもの意見の尊重

子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。

・差別の禁止

すべての子どもは、子ども自身や親の人種や国籍、性、意見、障がい、経済状況などどんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。

https://www.unicef.or.jp/about_unicef/about_rig.html

 これらの原則から見て、現在の入管の制度及び運用は、あまりに非人道的なのではないか。織田さんは「子どもを守るのは大人の役目」だと訴える。法務省・入管も、政治家達も、そして私達、有権者も、日本の難民の子ども達の状況に、もっと真剣に向き合うべきなのだろう。 

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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