日本のジェンダーギャップと少子化。この二つはリンクしているとずっと言い続けてきた。日本は世界経済フォーラムが算出するジェンダーギャップ指数では156カ国中120位と先進国では最下位。下から数えた方が早い。先進国に限ってはジェンダーギャップ指数と出生率がリンクしていることがOECD(経済協力開発機構)の分析でわかっている。

2020年4月の内閣府政策統括官(経済社会システム担当)の資料には、「ジェンダーギャップ指数が高い(男女格差が少ない)ほど、出生率は高まる傾向」を示すグラフが掲載されている【図1】。女性が社会進出をすると一旦は少子化になるが、その後回復するかどうかは、ジェンダーギャップをいかに埋めるかにかかっている。

図1ジェンダーギャップ指数(総合)と合計特殊出生率の関係参考資料②より 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)。
図1ジェンダーギャップ指数(総合)と合計特殊出生率の関係参考資料②より 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)。

先進国では女性の社会進出が進むと一度は合計特殊出生率が落ちる。しかしその後「ジェンダー平等」を社会全体で進めることで出生率が回復する。日本と韓国はジェンダーギャップ指数が低く、ジェンダー格差が大きい。そのような国は回復せずに落ちていくままである。それでは日本ではどのような政策が必要なのか? 具体的に4つの項目を立てて解説したい。

1.地方消滅 町から女性が消える

 昨年、コロナによる緊急事態宣言の合間に兵庫県豊岡市を訪れた。豊岡市は「ジェンダーギャップ解消宣言」をしている都市なのだ。今まで地方創生に「ジェンダーギャップ解消」を宣言した地域は見たことがない。

 前から「女性議員が多い地方は出生率が高い」という論考はある。しかし多くの地方には女性議員ゼロ議会も多く、女性経営者や女性管理職も少ない。女性の生き方は制限されている。そういう地域からは女性は流出する。

 行ってみて驚いた。豊岡市は地方創生の成功モデルだった。城崎温泉はインバウンドを6年で45倍にしているし、「観光と芸術」の専門職大学も2021年に開校した。なぜ、成功した都市がジェンダーギャップに取り組むのか?

 前市長の中貝宗治氏によると、「男性は戻っても女性が戻らない」ことに気が付いたからだ。高校卒業時に出ていく若者たちの20代をみると、男性は半分戻るのに、女性は25%しか戻ってこない。「豊岡市は女性に選ばれていない」と実感したことが政策転換のきっかけとなった。

 地域が豊かになれば男性は戻る。しかし「男尊女卑」が根強い地域には若い女性は 戻らない。つまり「穴のあいたバケツに水を汲む」ようなものだ。私もその地に住む母親が不幸だと娘を地域から逃す実例を見てきた。

 出産可能な20代、30代の女性が出ていくことを「地方消滅」と定義したのは『地方消滅 東京一極集中が招く人口急減』(中公新書、 増田寛也著)である。私も、まち・ひと・しごと地方創生本部の第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に少子化の会議の座長として参画したが、東京一極集中が大きな課題となっていた。東京に若者が出てくる原因は「やりたい学びや仕事ができる場所が東京だった」ということだ。ふわふわした「東京への憧れ」ではない。男女差としては女性の方が出ていって帰ってこない。女性が地方を出ていく理由の第2位が「親元を離れたい」だった。

 ある県で高校生から社会人までの女性が集うイベントに呼ばれ講演をしたことがある。ふと思いついて高校生に「卒業したらこの県から出て行きたい人」と挙手を募ったら、ほとんど全員の女子高生の手が上がってしまい、県の担当者が愕然としたことがあった。

 地方がうたうのは「子育てしやすい町」だが、それでは出ていく女性たちを引き止めることができない。女性の生き方を限定しないこと、女性が最低賃金ではなく、高い賃金で安定して働ける職場を増やすこと、男性が育児をすること、男尊女卑の風土を廃していくこと。これこそがまず少子化対策の第一歩目なのだ。

2.経済 結婚出産は経済的リスクにもなり得る

 かつては「誰もができた結婚」という思い込みのため、日本の少子化対策には「結婚」が欠かせないが、現代の結婚観はすでに大きく変わっている。日本の婚外子はわずか2%。法律婚以外の形で子どもが生まれる比率が5割程度の北欧やフランスとは違い、日本では「非婚化、晩婚化」が少子化の要因でもある。政府の少子化対策の中に「婚活」事業の予算があるのはそのせいだ。団塊世代は95%が法律婚をしていたという稀有な世代だが、現代にそのような国はありえないし、もう出産適齢期をすぎる団塊ジュニアの未婚率が高いことで、日本は大幅に出生率が回復するチャンスをすでに失った。

 「いずれは結婚したい」という希望が8割ぐらいを占めるが、それは「良い人がいれば」という条件付きだ。希望が叶わなければ未婚のままで「晩婚化=未婚化」という専門家の見方がある。女性たちにすれば、「リスクの高い結婚をするぐらいなら、しない方がいい」ということではないか?

 結婚すれば子どもを持ち、家族ができる。しかし今の日本では、そのライフイベントで女性は「収入ゼロ」になるリスクがある。第一子出産後に仕事を辞めない女性がやっと52%までになったが、半数は一度は収入ゼロになる。子育て後に正社員になる道は厳しく、女性の就労が増えたとはいえ非正規の55.5%が女性だ。つまり結婚、子育ては女性にとって、収入を失い、不安定な非正規労働に追いやられるリスクがある。当然そのリスクを相殺する意味で、パートナーとなる男性には安定した経済力が求められてしまう。

 まち・ひと・しごとの会議で、各県の30代独身男女の年収を出してもらったが、どこでも女性は200万円代、男性は300万円代。2人で仕事を継続すれば年収600万円弱で子育てもできるが、女性が非正規で仕事を辞めれば300万円代となる。女性が仕事を辞めることで生涯では1億〜2億円の減収となるのだ。フランスで取材したとき、パリに住む日本女性が「ここには産める空気がある。子どもを産んでも大丈夫という気がするんです」といった。今の若い方たちは「結婚して子どもを持ちたい」といいながら、「結婚や子育て」にリスクを感じている。「産んでも大丈夫」な空気がない。

 第一は経済的な不安をとりのぞくことだ。男性だけの整備ではない。男性大黒柱型結婚が終焉しかかっているのだ。鍵となるのは地方に多い非正規雇用の女性の収入アップや就業継続だ。正規雇用が増えるのが一番いいが、まずは出産しても収入ゼロ円にならないこと。非正規女性の第一子の後の継続率はわずか25%(正規女性は7割が継続)。今回の育児介護休業法改正で、「有期契約労働者の育児休業の取得要件の緩和」は前進と言える。英国、フランス、カナダでは「出産にともない減収があった」ことで給付がある。参考にしたい制度だ。

 また仕事を辞めた後に子どもを抱えて離婚となれば、貧困層となってしまう。「親が離婚した未成年の子は毎年20万人ずつ生じており、未成年人口1000人に対する割合は、この20年ほど概ね10で推移している」というデータもある。つまり子育て中の「家族の多様性」の中には「ひとり親家庭」「LGBTQの家庭」(実感としては子どもを持つ同性カップルも増えている)もあるわけで、標準世帯という考え方自体が政策の基本になっていることが大きなズレを生むのだと思う。

図2 内閣府男女共同参画局「結婚と家族をめぐる基礎データ」より。
図2 内閣府男女共同参画局「結婚と家族をめぐる基礎データ」より。

 コロナでサービス業などの非正規女性が失職やシフト減になったことで、シングルマザー家庭は危機に陥っている。二人親も、今や非正規の妻が担う家計の割合は3割という試算もあった。子どもを持つシングルマザー家庭が幸せでなければ、誰がリスクの高いライフイベントに思い切って飛び込むことができるだろうか?

 まずコロナ下の緊急の給付が必要だ。困窮家庭に食料を届ける支援をしている渡辺由美子さん(NPO法人キッズドア理事長)は何回も政府に緊急の現金給付を要請している。日本には「給食がなくなると痩せる」子どもたちがたくさんいるのだ。

コロナで失業した女性は男性の1.8倍であり、自殺率も増えている。今をしのげる支援、同時に平時のジェンダーギャップ、特に男女の賃金格差の是正が必要だ。日本の大学進学率は男女半々だが、女性の賃金は男性の7割ぐらいだ。その格差は非正規の多さや、賃金の高い安定した仕事に移動できないことに起因する。この賃金格差を放置したままだと、女性にとって結婚や子育てのライフイベントは、リスクが高いものとなってしまう。ジェンダーギャップが大きな国では女性は貧困になりやすい。女性が一人の男性の人柄や賃金に依存する設計の家族形成は、今の時代には無理がある。いつかは結婚したいと言いながらも、女性たちは「この結婚をして本当に生存の確率が高まるのか」という無意識のジャッジをしていると思う。

 この問題は「賃金の低い男性は結婚できない」ことの裏返しでもある。ただでさえ日本の女性が全部結婚したと仮定しても300万人の男性が余る計算になるのだ。

後編へ続く

月刊公明2021年10月号 特集「特集 希望と活力あふれる未来を開く」に寄稿した原稿を許可を得て転載しました。