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Amazonブラックフライデーで激安モバイルバッテリーを買ってはいけない。家が燃えても損害賠償拒否

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
モバイルバッテリー火災のイメージ。AI「Stable Diffusion」作画

 Amazonでブラックフライデーが始まり、さまざまな商品が安くなっていますが、激安のモバイルバッテリー、互換バッテリーは購入しないようにしてください。最悪、家が燃えます。

モバイルバッテリーは爆発する恐れがある商品

 まず大前提として、リチウムイオンバッテリーを搭載している全ての製品は爆発したり、火災を起こしたりする危険性があります。これは商品の高い安いや製造メーカー、製造場所は関係ありません。

 たとえば日本で多くの人が利用しているiPhoneにおいても車のダッシュボード上で爆発したり、ズボンのポケットのなかで爆発したりといった事故が海外で起きています。

 これはiPhoneに問題があるわけではなく、リチウムイオンバッテリーを搭載している全ての製品で起きる可能性があるものです。

激安モバイルバッテリーは安全性に問題がある

 「じゃあ、何を買っても結局は爆発するんじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、そのうえで激安モバイルバッテリーや互換バッテリーの購入はおすすめしません。

 なぜなら、激安モバイルバッテリーは安全性に問題を抱えている可能性が高いからです。

 “安い”ということはどこかでコストカットが行われています。

 外装が燃えやすいものだったり、安全性を高めるための制御ICチップなどが省かれていたり、“安い”ことにはそれなりの理由があります。

 独立行政法人の製品評価技術基盤機構が2019年に発表した情報によると、2013年度から2017年度にかけての5年間にリチウムイオンバッテリーを搭載した製品の事故は582件起きており、そのうち402件(69%)では火災も発生しています。

 そしてこの事故が起きた製品のなかで最多はモバイルバッテリーの150件であり、火災は106件起きています。

国がモバイルバッテリーをPSEマークで規制するも無許可でつけるメーカーも

 このように安全性に問題を抱えているモバイルバッテリーの火災・爆発事故が多く発生したことから、国は2019年2月からモバイルバッテリーに対してPSEマークの表示を義務付けることにしました。

PSEマーク。電気用品安全法 法令業務実施ガイドより
PSEマーク。電気用品安全法 法令業務実施ガイドより

 PSEマークとは電気用品安全法に基づいて自主的、もしくは外部機関によって適合性検査を行ったことを経済産業省に届け出をし、それが認証されたことを示すもので、表示されていない製品の販売は法人・個人に関係なく禁じられています。

 しかしながら、中国製のモバイルバッテリー製造メーカーの一部ではこのPSEマークを無許可でつけるところが現れており、これを受けてAmazonもPSE審査を実施しているのですが、なぜか「PSEマークがない」、「PSEマークが偽物だった」といった声が後を絶ちません。

 また、デジタル製品を輸入販売しているトリニティ株式会社によると、中国の工場に検査を依頼したところ、モバイルバッテリーの安全性に関係ない電磁波ノイズ試験(EMI)の結果が送られてきており、この検査で日本向けに出荷もされていた事例もあったそうです。

 もちろん全てのモバイルバッテリーがそのような安全性の低い製品であるわけではありませんが、価格の安い製品であるほどその可能性は高くなると言えます。

メーカーに損害賠償できない可能性

 そして筆者がこうした製品をおすすめしない最大の理由は、実際に火災事故、爆発事故が起こったとしてもメーカーの責任を問えない(取らない)可能性が高いからです。

 以下で紹介するのはAmazonで購入したモバイルバッテリー(Aukey製)により2017年に自宅マンションで火災が発生した人の事例ですが、モバイルバッテリーの販売メーカーに対して損害賠償を求めたところ相手側は「製造メーカーは別」だとして責任を認めず、なのにその製造メーカーは特定できず、Amazonも交渉の仲介を拒否してきたそうです。

 こうした対応を受けて被害者はAmazonに対して消費者保護を怠ったとして損害賠償を求める訴訟を起こしましたが、一審は棄却されたため控訴して現在も争われています。

 簡単に説明すると、中国企業はモバイルバッテリーによる火災の責任を作った工場のせいにして、でも作った工場はわからず、プラットフォーマーであるAmazonはワイは売る場所を用意しただけであとは知らんとなっている状況です。

 上記以外にもYouTuberの方が工具の互換バッテリーが充電中に爆発したために倉庫が全焼してしまったという報告も2020年にありました。

 こうした事故が起きた際に、国内メーカーであれば製造物責任法(PL法)により損害賠償を求めることができますが(事例1事例2 ※どちらもPDF)、海外企業の場合は上記の例のように請求先がわからなかったりコストの面で難しかったりします。

 これが、激安モバイルバッテリーを買ってはいけない理由です。

 激安モバイルバッテリーや互換バッテリーで節約できる金額は数百円から数千円でしょう。しかし、いざ事故が起きたときに失う金額はそれをはるかに超えるものです。失った物への思い入れはもとより、金銭面でも取り戻すことができません。

 モバイルバッテリーは信頼できるメーカーの製品を購入することをおすすめします(中国製のモバイルバッテリーが全てダメというわけではありません)。

 また、工具の純正バッテリーはたしかに高いですが、こちらも互換バッテリーの購入はおすすめしません。高い理由は、安全性が高いからです。安い理由は、安全性が低いからです。

 このあたりの解説は、YouTuberのイチケンさんによる解説動画が詳しいです。こちらを参考にしてください。

 ちなみにこの記事は下記のツイートが9,000件以上拡散したため、詳しい解説が必要だと判断して書きました。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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