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羽生結弦さんの離婚をめぐる衝撃と週刊誌報道ーーいったい何が真相なのか

篠田博之月刊『創』編集長
羽生結弦さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

衝撃の離婚発表と事情説明見解への様々な声

 最近衝撃のニュースといえばフィギュアスケートの羽生結弦さんの離婚だろう。結婚してわずか105日の離婚、しかもその理由としてプライバシー侵害があげられていたからだ。

 羽生さん自身がX(旧ツイッター)で離婚を発表したのは11月17日深夜(実際には18日未明だったようだが)だった。微妙な文面なので全文引用しよう。

《応援してくださっている皆様へ

 いつも暖かいお言葉や応援、ご声援、本当にありがとうございます。

 私事ではありますが、皆様にお伝えしたいことがございます。

 私は、一般の方と結婚いたしました。

 互いを心から尊敬し、大切にしていく覚悟を持って結婚いたしました。

 それぞれを守るために様々なことを考えながら共に乗り越え、過ごしてきました。

 そんな生活の中で、お相手は、家から一歩も外に出られない状況が続いても、私を守るために行動し、支えてくれていました。

 現在、様々なメディア媒体で、一般人であるお相手、そのご親族や関係者の方々に対して、そして、私の親族、関係者に対しても、誹謗中傷やストーカー行為、許可のない取材や報道がなされています。生活空間においても、不審な車や人物に徘徊されることや、突然声をかけられることもあります。

 私たちは、共に思い悩みながらも、このような事態から、互いをなんとか守っていけるように努めてきました。

 しかし、私が未熟であるがゆえに、現状のままお相手と私自身を守り続けることは極めて難しく、耐え難いものでした。

 このような状況が続いていく可能性と、一時改善されたとしても再びこのような状況になってしまう可能性がある中で、これからの未来を考えたとき、お相手に幸せであってほしい、制限のない幸せでいてほしいという思いから、離婚するという決断をいたしました。

 これからは、お相手、そのご親族や関係者の方々、また、私の親族、関係者に対しての誹謗中傷や無許可の取材、報道等、迷惑行為はおやめください。

 心より、お願い申し上げます。

 この先も、前に進んでいきます。

 これからも、よろしくお願いいたします。     羽生結弦》

 離婚せざるをえないほど相手女性などを苦しめる報道や誹謗中傷がなされていたとしたら、これは大きな問題で、これを機に改めてプライバシー報道について議論する必要があるはずだ。

 ただ、その後の週刊誌報道などを見ると、実際はそう単純でないという見方が提示され、しかもそれがエスカレートしている。プライバシー報道の一翼を担っていた報道側にすれば自分たちが離婚の原因を作ったというのは認めたくないという思いもあるだろう。また、例えば離婚の説明の中の「許可のない取材や報道がなされています」という文言にはジャーナリストの中で違和感や反発を表明する人も少なくないようだ。全て許可を得ないと取材や報道ができないという考え方はどうなのか、というわけだ。

羽生さんの表明を受けて、離婚発表直後には、マスコミ批判が噴出していたように思う。ただ、その後、いろいろな情報が錯綜している。

 果たして、いったい真相は何なのか。

相手女性についての報道はどうなされてきたか

 一連の経緯を少し整理しておこう。

 8月4日に羽生結弦さんの結婚が発表された時は、お相手が一般人だとして、その女性についての情報がいっさい伏せられていた。たぶん当事者たちの思いを反映しての対応だったのだろう。この情報の伏せ方があまりに徹底していたために、逆にいったいどういう人なのかと興味を抱かせ、ネットや週刊誌があれこれ詮索する結果につながったのではと指摘する声もある。もしかするとそういう面も多少はあったのかもしれない。

 女性についての比較的詳しい情報を最初に報じたのは9月16日の『週刊女性PRIME』だった。そしてそれに続く19日には彼女の出身地のローカル紙「日刊新周南」(新周南新聞社発行)が、有料会員向けのWEB記事で女性の実名を報道。以降、各メディアで実名や写真が報道されていった。今回の離婚で「日刊新周南」には抗議や問い合わせがあったらしいが、媒体側は、女性は地元で有名な人で、祝福の声があがっていることを報じただけで、実名報道が間違っていたとは思っていないとコメントしている。

 その「日刊新周南」に取材した内容をウェブニュース「現代ビジネス」が11月20日付で報じているが、紹介しておこう。ちょっと口が滑っているのではという感じもあるが、女性の地元が結婚や今回の離婚をどう受け止めているかがうかがえる。

《彼女の名前が公になり、取材が殺到したら『じゃ離婚します』と。『いや、ちょっと待ってくれ』という思いです。我々からすれば地元の子が泣かされた。最後までまゆちゃんを守ってくれよ。男なら最後まで守り抜けよ。それが素直な気持ちです。》

《わずか3ヵ月で…。私が彼女の父親なら訴えています。彼女のお父さんのことはよく知っていますが、天国でガッカリしていますよ。大事に大事に宝物のように育てていましたからね》

当初の『週刊文春』(下)と『週刊新潮』の報道(筆者撮影)
当初の『週刊文春』(下)と『週刊新潮』の報道(筆者撮影)

 この地元紙が実名を報じたのを機に、その後、週刊誌なども女性の実名や顔写真を報じるようになった。ネットには女性の写真がかなり出回ることになった。

 今回の離婚報道にあたっての実名と写真の扱いはどうかというと、『週刊新潮』11月30日号は女性の実名と写真を掲載しているが、『週刊文春』11月30日号は女性を匿名にし、写真も顔をぼかして掲載。記事中でこう断った。「小誌も実名で報じてきたが、離婚を受けて匿名とする」。媒体によって対応が分かれた。

 17日に羽生さんの個人事務所(株式会社team Sirius)がマスコミ向けに「これ以上の取材等はぜひとも控えていただきたく、心よりお願いいたします」と見解を表明しており、新聞やテレビなどでは相手女性に触れないメディアも多かった。

週刊誌は離婚をどう報じたのか

 この件についての週刊誌報道の最初は『週刊新潮』と『週刊文春』11月30日号だった。見出しは『週刊新潮』が「親族が語った“当惑”“違和感”『羽生結弦』電撃離婚の陰に母・姉支配』」、『週刊文春』は「羽生結弦105日離婚、8歳上妻が入れなかったファミリー企業」。メディアの問題が指摘されているが、離婚の原因はもっと複雑ではないかという主張だった。

 例えば前述した個人事務所team Siriusは、『週刊文春』によれば、2018年に羽生家と付き合いのあった政木道夫氏が代表取締役に就任、羽生さんがプロ転向した後、2023年1月1日付で羽生さん本人と姉が取締役になった。さらに8月4日の結婚発表から約1カ月後の9月1日に、3月末に中学校の校長を退職した羽生結弦さんの父親と、母親も取締役に就任した。文字通りのファミリー企業だ。

 ここで『週刊文春』が問題にしたのは、結婚によって羽生家に入った相手女性が取締役欄にないことだ。見出しの「8歳上妻が入れなかったファミリー企業」とはそのことを指しているのだが、つまり妻は結婚して以降もファミリーに受け入れられていなかったのではないかと言いたいらしい。それについての同誌の問い合わせに対して事務所の答えは「回答は控えさせていただきます」だったという。

『週刊新潮』の記事によると、羽生さんの母親はずっと息子のスケート人生に寄り添い、またメディア対応は姉が担っていたという。つまり母親と姉の意向が強かったというのだ。「電撃離婚の陰に母・姉支配」という見出しはそういう見方を反映したものだ。

 要するに、2誌とも、その母親や姉と息子の緊密な関係に、結婚した嫁が入れなかったことが離婚の背景にあるのではと言いたいようだった。

 そうした見方は、日を追うごとに広がり、翌週発売の『女性自身』や『女性セブン』ではさらに顕著になった。

『女性自身』12月12日号は「羽生結弦懊悩(おうのう) 元妻と母『凍った関係』」。『女性セブン』12月14日号に至っては「羽生結弦 完無視された嫁の追い出し部屋」だ。「凍った関係」「追い出し部屋」などすさまじい見出しだ。

『女性自身』記事で匿名の関係者がこう証言している。「もともと羽生さんのお母さまは、今回の結婚には賛成していなかったそうです。羽生さんはそれを押し切って結婚したのだとか。離婚にもお母さまの影響があったのでは、と心配している関係者が大勢います」。母親が本当に結婚に反対していたかどうかはわからない。

 見出しがすさまじい『女性セブン』12月14日号の報道(筆者撮影)
 見出しがすさまじい『女性セブン』12月14日号の報道(筆者撮影)

 また『女性セブン』の記事では匿名の関係者がこうコメントしている。「深夜の練習に帯同するのは羽生さんの両親と姉だけで、自分の出る幕はない。昼夜逆転する羽生さんとは生活リズムも異なりましたから、外出できず家ですることも一切ないとすれば、愛の巣もただ孤独なだけで、いつか出て行くだろうと予期される“追い出し部屋”のように感じてしまっていたとしても不思議ではありませんよ」。見出しの「追い出し部屋」の表現はこのコメントからつけたものだ。

 こうした見方はネットニュースなどにも広がっているが、真相はわからない。羽生さんの母親や姉にしてみれば、こうした報道自体が、さらに家族を追いつめている許しがたいものと映っているかもしれない。

 前述した離婚発表の文章で「許可のない取材や報道がなされています」との記述は、羽生結弦さんと母親や姉の、そして事務所の認識を反映したものだろうが、これはプライバシーを守られる権利ともうひとつパブリシティ権を念頭に置いているとみられる。つまり羽生さんは写真や動画なども大きな商品価値を持っており、事務所に無許可で写真を撮影したり報道するのは問題だという認識だ。

 それともうひとつ状況をややこしくしているのは、離婚原因として指摘された「誹謗中傷やストーカー行為」というものだ。これが取材・報道と同列に置かれてしまうからわかりにくいのだが、例えば『週刊文春』11月30日号にはこういう関係者のコメントが載っていた。

「ストーカーのようなファンが来たり、逆に先輩・高橋大輔のファンから誹謗中傷を受けたりして、精神的に不安定になった時期もありました。アイスショーの打ち上げで、ホテルで宴会をしていたところ、向かいのホテルからファンがカメラで覗いていたことも。それに気付いた羽生はもの凄い形相になり、ご飯も食べず自室へと戻ってしまいました」

 向かいのホテルから知らない人がカメラ越しに覗いていたというのは確かに恐怖体験に違いない。離婚の理由説明では、こうした一部ファンの行き過ぎた行為も取材・報道も同列に並べ、具体的な記述がなされなかったために、問題点がわかりにくくなってしまったかもしれない。取材・報道のあり方を論じるうえで、当事者本人がそれをどう感じたかというのは大事な要素だから、それを含めて議論しなければいけないが、そのためには実際にどんな取材・報道がなされ、どう不快に感じたのか、もう少し具体的に指摘してほしかった気もする。

 誹謗中傷やストーカー行為があったとされる事態やメディアのプライバシー報道については、きちんと議論しなくてはいけない気がするからだ。

なかなかいい話だった祖母のコメント

 さて一連の報道の中で感心したのは『週刊現代』12月2・9日号「羽生結弦・祖母が語った『誰にでも失敗はある。もっと強くなりなさい』」だ。羽生結弦さんの母方の祖母がインタビューに応じているのだが、なかなかいい話なのだ。

 そもそも孫からは結婚についての事前の説明はなく、相手の名前すらも明かされなかった。ようやく相手女性との顔合わせが決まり、その日を楽しみに待っていたところへ突然の離婚発表がなされたのだという。その祖母の話はこうだ。

《今回の件がネットを騒がせていることは知っています。相手側から見たら、『ゆづ(羽生のこと)はとんでもない男』と世間様からは言われているようですが、当然だと思います。

 お相手とその家族からすれば、『捨てられた』ような気持ちになるでしょう。私にとってゆづは大事な孫ですが、お相手の方も家族にとって大事なお嬢さんでしょう。お気持ちを考えると本当に胸が痛いです。》

《娘(羽生の母)から『会わせることができなくなった』と説明されたとき、本人と話したい、と伝えました。そこでやっと、直接話ができました。でも、『二人で決めたことで』と言うばかりでした。》

《可愛い孫だからもちろん心配しています。でも、向こうにも家族がいるんです。》

《いろいろありますが、相手への思いやりを忘れずに。相手ではなく自分を責める。『誰にでも失敗はある。自分で決めたことなんだから、もっと強くなりなさい』。いまはゆづにそう伝えたいです。》

 いいおばあちゃんだ。

 今回の離婚をめぐっては、プライバシーや取材・報道のあり方などいろいろ議論すべき問題がある。羽生さんやその家族、事務所の方々も含めて、この際、取材・報道のあり方も考えてほしいという考えがあるのであれば、それに沿ってもう少し具体的な問題提起をしていただけないかと思う。

 メディアの問題を指摘した当初の見解に対して、週刊誌は反発しているようなのだが、その後の報道のエスカレートや混乱には、週刊誌側の感情も反映されていると思われ、それを勘案しながら検証しないといけない。一連の離婚騒動、もう少し冷静な検証が必要だと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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