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目[mé]インタビュー 超高層ビルの展望施設で、ちっとも作品然としていない作品を発表

新川貴詩美術/舞台芸術ジャーナリスト
作品越しに渋谷の光景が広がり、作品と景色が渾然一体となる 画像は主催者提供

目下、渋谷にあるSHIBUYA SKY 46F 屋内展望回廊「SKY GALLERY」にて、展覧会『SKY GALLERY EXHIBITION SERIES vol.5「目[mé]」』が開催中だ。

目[mé]は、アーティストの荒神明香(こうじん はるか)と、ディレクターの南川憲二、そしてインストーラーの増井宏文による現代アートチーム。彼らはこれまで、たくみなたくらみに満ちた作品の数々を仕掛けてきた。

そんな目[mé]が、超高層ビルの展望施設SHIBUYA SKYで、どんな作品を展開中なのか。荒神と南川に、まずは初めて展望フロアに下見に来た時の感想を聞いてみた。

南川 日常から非日常に登り、「気づき」を得て、また日常に戻る。というこの施設のコンセプトを聞かせてもらいながら下見をしました。14階にチケットカウンターがあって、そこで近景というか、人が誰か特定できる距離感の渋谷の景色を見ました。その後、46階のフロアに行くと、いきなり突き放されるような感じがして、ふっと日常から抜ける感覚を覚えた。一瞬、いろいろと日常のことを忘れられて、ぼうーっとできた。で、都市の真ん中でぼうーっとすることに関して何かできないかというのがスタートでした。

荒神 日常の悩みやいろんなことを忘れられて、ぼうーっとできる場所だと感じました。頭がからっぽになって考えごとができて、通いたいなと思ったくらいでした。もともと展望施設がわりと好きなほうで、渋谷は行ったことある場所や知ってる建物も多いので、それらが俯瞰して見られるのもよかった。フォーカスもできるし、俯瞰もできる面白さもあって。

2019年から制作を続けてきたシリーズだが、今回は素材を変えた 画像は主催者提供
2019年から制作を続けてきたシリーズだが、今回は素材を変えた 画像は主催者提供

──そうした感想から作品プランに至ったプロセスはどんな感じでした?

南川 ぼうーっとするのは難しい。メールが来たらつい読んじゃうし。だから、ぼうーっとする時間をちょっとでもキープできるような作品があればいいと考え始めました。

荒神 その感覚がどうやればお客さんに伝わるかを考えました。美術館に来る人とはまったく違う方も多く来ますから、作品を見るというより、景色を見たりぼうーっとすることにシフトしてもらうにはどうすればいいか、会場のスタッフの方々とともにチームで取り組みました。

南川 初めは全然違うプランで、図書館をつくりたいとか言ってたんですが、何回もミーティングを重ねるうち、だんだんいまの形になりました。

ムクドリの群れのフォルムに想を得て造形したインスタレーション 画像は主催者提供
ムクドリの群れのフォルムに想を得て造形したインスタレーション 画像は主催者提供

さりげなく、風景に添えるような作品のあり方を目指した

では、「いまの形」とは、どんなものなのか?

本展は、いかにも展覧会然とした展覧会ではまったくない展覧会である。そして、作品そのものも、ちっとも作品然としていない。

たとえば、荒神が撮りためた、どこにでもあるような風景写真を随所に展示。あちこちのモニタにはスクランブル交差点など、渋谷の景色が映される。そうかと思うと、クシャクシャとした紙切れが、ゴミも同然に床にぽつんと置かれている。

おまけに、展覧会の開催を高らかに謳うバナーもない。よって、展覧会が開催中だと気づかない入場者や、「あれ、作品なんてあったっけ?」と思う人たちも続出しそうだ。

床にぽつんと置かれ、作品然としない作品。バーコードを読み取ると、そこには…… photo takasix
床にぽつんと置かれ、作品然としない作品。バーコードを読み取ると、そこには…… photo takasix

南川 ここは眺望が圧倒的なので、風景に添えるような作品のあり方を目指しました。「作品を見てーっ!!」って感じだと風景の邪魔になるし。さりげなく、そっと作品がある、という工夫をしました。

ただし中には、作品然とした作品もある。たとえば、きらきら光る素材が数多く吊されたインスタレーション。だが、この作品越しに渋谷の光景が眺められる。おのずと風景と作品が渾然一体と溶け込み、風景と作品の区別があいまいとなる。

荒神 風景が作品に介入すると言いますか、風景とともに見てもらえれば。

──作品に気づいてくれない人が多い状況を提示するのは、アーティストとして勇気がいると思いますが、どうでしょう?

荒神 ええ、私たちもそうですし、運営されている方も含めて勇気が必要だったと思います。

南川 美術館と比べ、商業施設では初めて作品を見る人に向けて、解説文を添えたりしがちですが、思い切って非言語でやりたいと提案しました。解説どころか作品のタイトルすら添えてなくて。

入場者のものの見方を変容させる体験

そうした手法は、施設側としてもチャレンジングだったに違いない。この施設のディレクターで、本展の出品作も共同制作した有國恵介(ありくに けいすけ)は語る。

有國 普通の展望施設だと、どうしてもただの観光施設になりがちです。でも、そうじゃなくて、ここから文化発信をしていくという構想がこの施設にはあります。SHIBUYA SKYはあくまでハコであって、そこにさまざまなカルチャーコンテンツを年間を通じて展開しています。今回の場合、美術作品が主役にならなくても、初めてアートに触れる入場者に対して、何か新しい気づきを与えられるような体験を一緒につくりたいと考えました。

──目[mé]を起用した背景は?

有國 ずっとご一緒したかったんです。展望施設と目[mé]は確実に親和性がありますから。目[mé]なら、入場者のものの見方を変容させる体験が表現できると期待しました。

作品は、見てもらえなくてもいい

これまでの目[mé]の作品に、多くの鑑賞者はびっくりした。腹を抱えて笑った。つまり、エンタテインメント性も備えた体験を鑑賞者にもたらしてきた。

だが、今回はそんな作風がいっさい封印されている。目[mé]は今年でちょうど結成10年。新しいステップに入ったのかもしれない。

南川 ええ、いつもだとできないことを割り切った感じはありますね。

荒神 これまでの制作とは全然違うので、ちょっと思い切らないとできない作品だと思いました。設営が終わって会場を回ったときにそう感じましたね。

南川 もうひとりのメンバーの増井が「"つくってない"を"つくる"」とよく言ってて、つまり、"つくってない"ように見える作品が理想なんです。だから、作品を見てもらえなくてもいいという思いで制作してて。それがひとつの新しい"見る"ってことにつながるという思いもあって、説明しなくても伝わると信じたいんです。

目[mé]は、今年の10月から始まる「さいたま国際芸術祭2023」のディレクターを務める。今年は初めて続きが多い一年となりそうだ。

南川 芸術祭のディレクターがこんなに大変だなんて思ってもみませんでした。いままでわがまま言ってきた罰が全部返ってきた思いです(笑)。

アーティストの荒神明香とディレクターの南川憲二 photo takasix
アーティストの荒神明香とディレクターの南川憲二 photo takasix

SKY GALLERY EXHIBITION SERIES vol.5「目 [mé]」

会期:2023年1月13日(金)〜3月24日(金)

時間:10時~22時30分(最終入場は21時20分)

   会期中無休

会場:SHIBUYA SKY 46F 屋内展望回廊「SKY GALLERY」

SHIBUYA SKY 入場チケット料金:WEBチケット(チケット予約)

                大人(18才以上)1800円(2000円)

                中・高校生1400円(1600円)

                小学生900円(1000円)

                幼児(3~5歳)500円(600円)

                3歳未満無料

                ※カッコ内は当日窓口料金

美術/舞台芸術ジャーナリスト

出版社に勤務した後、執筆活動を開始。国内外の現代アートをはじめ演劇やダンスなど舞台芸術に関して、雑誌や新聞、ウェブメディアなどに執筆。主な著書に『残像にインストール 舞台美術という表現』(光琳社出版)、主な編書に『蓬莱山 蔡國強と大地の芸術祭の15年』(現代企画室)などがある。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院情報通信専攻修了。多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。プロフィール画像撮影:松蔭浩之

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