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DEAN & DELUCA(ディーン&デルーカ)のパンが変わった

清水美穂子ブレッドジャーナリスト
食材店ならではのベーカリーの裏側に迫る(筆者撮影)

パンを買うときに、自分好みの店まで足をのばせたらいいが、毎度そうもいかない。ターミナル駅のベーカリーはそんなとき、利便性がよい。駅ビルもデパートの地下食品売り場並みのクオリティの店が軒を連ねる時代だ。筆者も駅ビルでパンを買うことがよくある。最近、DEAN & DELUCA(ディーン&デルーカ)が選択肢に入った。すぐに食べるパンも、数日かけて食べきるパンも、駅周辺のチェーン店ではなかなか満足できるパンが見つからなかったのに、ここのベーカリー部門は何かが変わったと感じたからだ。そこでDEAN & DELUCAに事情を聞いてみた。

「気づいていただき、うれしい限りです。今、ベーカリーがとてもいい状態です」コミュニケーションデザイン室、統括の菅野幸子さんは言う。

DEAN & DELUCAは1977年、アメリカ・ニューヨークのソーホー地区でジョルジオ・デルーカとジョエル・ディーンにより、食材やキッチンウェアも販売するチーズ専門店として創業。日本では2003年、世界の食のセレクトショップとしてオープン。当時のパン売り場は、小売店から納品されたものを日替わりで販売していた。オリジナルのベーカリーは15年前から。現在では全国に50店舗近くを展開している。そのうち、パン工房を備えた店舗は8店舗。そのほかにセントラルキッチンが2つ稼働している。筆者がパンを買ったのはパン工房を備えていない店舗。焼きたてが命のバゲットやクロワッサンを始め、クオリティが保たれているのが、今回注目したポイントだった。

栗とピスタチオのバゲット、カンパーニュノアレザンフィグ、モーニングブールなど食事系のパン(筆者撮影)
栗とピスタチオのバゲット、カンパーニュノアレザンフィグ、モーニングブールなど食事系のパン(筆者撮影)

現在、カフェ・ベーカリー部門を統括し、開発チームをまとめる酒井杏子さんは料理人。パンは関西や東京の有名店で研修を受けた。「パンはそれだけでは完結しないと思っています。目指す先に食卓は絶対にある。食材店としてのベーカリーの形があると思うんです」

DEAN & DELUCAは世界の食材のほか、カフェ部門やテイクアウトの惣菜や菓子、飲料も充実しており、食材が豊富。たとえば流行中のピスタチオも、飲料からパンまで幅広く用いる。料理人と菓子職人とパン職人が、厨房でボーダーレスにアイデアを出し合うのは、普通のベーカリーではなかなかできないことだ。各分野のプロが揃う職場環境は、パンだけで完結したくないという想いを持つパン職人を呼ぶのかもしれない。現在は都内有名店出身の職人たちが集まってきて、ベーカリー部門の重要なポストを受け持ち、それぞれの得意分野や技能を生かした新商品の開発に取り組んでいる。

「パンは王道の目線すぎない開発を心がけています」と酒井さんは言う。「外麦と内麦でどちらかを良いと決めつけるのではなく、ブラインドテストで食べ比べて決めます。ヨーロッパのパンの常識を踏襲することを目指すのではなく、スペインのパエリアがアメリカではジャンバラヤになったような感じで、今ここで、どうしたらよりおいしくできるかを突き詰めることを大事にしています」

メープルチェダークロワッサン、カヌレはフュージョン系のヒット商品(筆者撮影)
メープルチェダークロワッサン、カヌレはフュージョン系のヒット商品(筆者撮影)

「これはたまたま、ちょうどいい型があったからなんですけれど」ヒット商品のカヌレ(340円)は一般的なカヌレの2〜3つ分くらいの大きさで、ドーナツのようなリング型に焼かれている。

「メープルチェダークロワッサン」(390円)もフュージョン系。クロワッサンにチェダーチーズとメープルシロップがトッピングされてカリッと香ばしく、甘じょっぱさがやみつきになる。6、7年前からの定番オリジナル商品だが、最近、ベースとなる折込み生地をフランス産の輸入冷凍生地からオリジナルレシピに変更した。さらに丁寧に生地を折り込んで仕上げることで、内側はふわっと、外側はパリパリになり、食感のコントラストがきわだっておいしくなった。

こうした自由な商品開発は多国籍感を生み、それはそのままこの店の故郷のニューヨークの感じを醸しているのかもしれない。

アメリカンタイプのマフィンはざっくり、ほろほろした食感が楽しめる(筆者撮影)
アメリカンタイプのマフィンはざっくり、ほろほろした食感が楽しめる(筆者撮影)

アメリカンタイプのマフィンに使われるブルーベリーなどのフルーツは冷凍ではなくフレッシュ。青果店が毎日、新鮮な果物を持ってきてくれるベーカリーはそうそうないと思う、と酒井さんは言う。ブルーベリーはトッピングする分はコンポートに、中身には生のまま入れて形状と果実味を活かしている。

「栗とピスタチオのバゲット」(490円)など何か入ったバゲットは、フランス・ソローニュ地方のタルトタタン発祥の街で出合ったリンゴ入りのバゲットがきっかけだった。冬はリンゴ、夏はレモン。旨味を感じさせてくれるバゲットは、長時間発酵で2日かけてつくられる。

料理人が多い職場内で「ローストビーフに合わせるカンパーニュをつくってほしい」などの注文が入ることもある。そのとき、パンの味わいを強くするためにスモークしてみたというから、奇抜な発想が面白い。それは窯に匂いがついてしまうという失敗に終わり、代わりにライ麦やローストした大麦を入れることで、ボディをしっかりとさせ、ローストビーフに負けないカンパーニュの生地が生まれた。

日常向けのシンプルな白いパンでは、水分量が粉対比100%でふんわりもっちりした「モーニングブール」(360円)が人気だ。

美しい焼き菓子も見逃せない。季節のタルトは、パティシエの後藤祐一さんと仲村和浩さんによるユニット、Tangentes(タンジェント)とのコラボ商品。クリスマスに向けて、ベラベッカや各種シュトレンも出揃う。

サクサクのタルト生地、ヘーゼルナッツやピスタチオのナッティなペースト、フレッシュフルーツなどが堪能できる繊細な焼き菓子(筆者撮影)
サクサクのタルト生地、ヘーゼルナッツやピスタチオのナッティなペースト、フレッシュフルーツなどが堪能できる繊細な焼き菓子(筆者撮影)

一般的なベーカリーとは異なる、食材豊富な環境で生まれる、一味違うパンの数々。その自由な厨房を目指して集まってくるパン職人たち。そして、定番商品のレシピも常に更新されていることが、この店のパンのおいしさ、新しさの裏側にあった。

ブレッドジャーナリスト

東京出身。2001年より総合情報サイトAll Aboutでガイドを務めることにより、パンに特化した取材執筆活動を開始。注目のベーカリーとつくり手についてWeb、TV、ラジオ、新聞、雑誌等メディアで発信、紹介する一方で、消費者動向やトレンド情報を業界に提供、ベーカリーと消費者の相互理解を深める活動をしている。取材執筆、企画監修、講師、各種コンテスト審査員、コンサルティングなども行う。主な著書『BAKERS おいしいパンの向こう側』(実業之日本社)『日々のパン手帖 パンを愉しむsomething good』(メディアファクトリー)『おいしいパン屋さんのつくりかた』(ソフトバンククリエイティブ)他

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