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「出産前には夫の下着を用意し、常備菜を作っておく」…人口減の韓国でソウル市サイトに批判集中

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
『ソウル市妊娠・出産情報センター』サイト。

出産を控えた妊娠女性に対し、夫の下着を整理するなど家庭内の仕事を優先するよう指導したソウル市の妊娠情報サイトが、韓国社会の批判を浴びている。

●「女性は家政婦ではない」

話題となっているのは、同市が2019年6月から運営している『ソウル市妊娠・出産情報センター』の内容だ。妊娠末期の取るべき行動として、「常備菜の用意」や「夫の下着を用意する」、「生活必需品を点検する」といった内容があった。

「常備菜の用意」については、「冷蔵庫にある時間が経った食べ物は捨て、家族がよく食べる材料で常備菜を3〜4種類用意しておく。レトルトカレー、ジャージャー麺、スープなどのインスタント食材をいくつか準備しておけば、料理が苦手な夫が便利に使える」と書かれていた。

「衣服の用意」では「3日または7日程度の入院期間に合わせ、夫と子どもたちが着替える下着・靴下・ワイシャツ・ハンカチ・服などを準備し、引き出しにきちんと整理しておく」とあった。

また、「生活必需品の点検」では「トイレットペーパー、歯磨き粉、歯ブラシ、洗剤などの残量を確認し、残された家族が不便でないようにする」とされていた。

他にも妊娠初期の体重管理のコツを記した「家事はその都度おこない、運動量を増やす」という項目では「掃除や洗い物といった家事を後回しにせずにその都度やれば、特別な運動をせずとも体重管理に役立つ」と説明されていた。

これらの内容に対し、韓国のSNSなどでは厳しい批判が相次いだ。

韓国各紙が引用している反応の例を挙げると、「いまだに女性を夫の家政婦程度に考えているのか」、「子どもを産みに行く前に夫から支えるのか」、「臨月は息をするのも大変なのに、夫の下着と食べ物まで用意しろというのか」、「こんな性差別的な認識を含んだ内容を『情報』と記載しておくソウル市の認識に驚く」、「男性も女性も馬鹿にしている」といった指摘だ。

●なぜ子どもを産まなくなったか

韓国は昨年、年間の死亡者(30万7764人)が出生者(27万5815人)よりも多くなり、史上初の人口減少となった。

合計出生率も2019年は0.92、20年第一四半期は0.92、第二四半期では0.84と減少を続けている。経済協力開発機構(OECD)加盟国の中ではダントツの最下位だ。

今月3日、韓国の行政安全部が発表した下記の表にあるように、出生者数は11年の47.8万人から年々下がり続けている。20年は19年よりも10.65%減った。新型コロナウイルスによる社会不安とも重なり、今年の合計出生率は0.7台に落ちるのでは、との見立てもある。

黄色い線が合計出生率。2012年は1.297だったが、2019年には0.92まで低下した。橙色の棒グラフは2019年以降反映されていないので、下記の表を参照に。統計庁提供。
黄色い線が合計出生率。2012年は1.297だったが、2019年には0.92まで低下した。橙色の棒グラフは2019年以降反映されていないので、下記の表を参照に。統計庁提供。

2011〜20年までの出生者および死亡者の統計。出生は青線で11年47.8万から20年には27.6万人まで減った。死亡者は橙線。この双方が交差する「デッド・クロス」現象が起きた。行政安全部提供。
2011〜20年までの出生者および死亡者の統計。出生は青線で11年47.8万から20年には27.6万人まで減った。死亡者は橙線。この双方が交差する「デッド・クロス」現象が起きた。行政安全部提供。

こういった女性が出産を忌避する背景に、今回のソウル市の記載内容に象徴されるような社会の認識があるという見方が強い。

リベラル政党で第二野党の正義党は「女性だけに家事や育児の責任をなすりつけるこんな世の中で、女性達がいったい出産をしたいと考えるだろうか(中略)ソウル市は女性たちがなぜ『非婚』と『非出産』を選択するのか分からないようだ。ソウル市は謝罪と再発防止対策を立てるべき」と批判した。

また、新生政党の時代転換も党の公式Facebookで「ソウル市が『必ず知っておいて』とした内容は全て間違っている。いくら考えてもエイプリルフールが1月5日になったという話(記載内容が批判を浴びた日)は聞かない」と皮肉った。

批判が集中する中、ソウル市は未だ公式な対応をしていないが、韓国メディア『JTBC』の電話取材に対し「保健福祉部が管理する妊娠育児総合ポータルの過去資料を元に作成した」、「担当職員たちが新型コロナで派遣されている状態で余裕がない。細密に検討すべきだったのに申し訳ない」と弁明した。

なお、該当サイトの記載内容は現在、ソウル市によってすべて削除された状態だ。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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