韓国「最強」検察に疑念の目…チョ・グク氏騒動に潜む韓国の'宿題'

文大統領(左)と尹錫悦(ヨン・ソギョル)検察総長。写真は青瓦台提供。

連日、韓国メディアのトップを飾るチョ・グク法務部長官人事をめぐる騒動。その傍らで、強制捜査を繰り返す検察への視線が厳しくなっている。今回の騒動の「目玉」をまとめた。

●「記者懇談会」の翌日に

チョ候補が10時間を超える記者懇談会を敢行した翌日の9月3日、チョ候補夫人の情景芯(チョン・ギョンシム)氏が教授として勤務する東洋大(慶尚北道栄州市)に10人余りの検事や捜査官などが押し寄せた。

理由は、チョ候補の娘が2013年に同大から表彰状を貰う過程における不正の有無を確かめるためだ。表彰状には総長の印が押してあるが、総長は「決裁した覚えはない」と発言し、にわかに文書偽造疑惑となっている。これを情氏が主導した疑いだ。

「そんな疑惑で」と思うかもしれないが、この表彰状が娘の釜山大学医学専門大学院入学に一役買ったとされており、娘の大学不正入学が「正義を主張する平素からの所信と異なる」と批判されるチョ候補にとって、痛い部分を付くものである。また、文書偽造は犯罪でもある。

情氏には他にも、親類が管理し、国策事業に投資することで利益をあげた私設ファンドへの不正投資疑惑も持たれている。こうした一連の疑惑を解明するため、検察は情氏のパソコンのハードディスクや文書を押収していった。

こうした検察の行動は、前日のチョ候補の記者懇談会での「弁明」をまったく顧みないものと言ってよい、事実解明に向けた直線的なものと位置づけられる。

●相次ぐ強制捜査ともう一人の「政権の顔」

検察がチョ候補周辺に対し初めて強制捜査に乗り出したのは、8月27日のことだ。捜査はソウル中央地検の特別捜査2部が受け持った。いわゆる特捜部、検察における最精鋭である。

この捜査は異例だった。各部長官や公正取引委員長など高位公職者に対し、国会が適性検査をおこなう「人事聴聞会」制度が2000年に導入されて以降、同会が開かれる前に検察が強制捜査に乗り出したことは無かったからだ。

だが当時、検察は捜査に消極的な姿勢を見せていた。

文在寅大統領がチョ氏を法務部長官に指名した8月9日以降、数々の疑惑が噴出し野党や政権に批判的な関連団体などがチョ候補を告訴・告発する動きが相次いだ。これに対しチョ候補側も関連するウェブサイトを閉鎖するなど対応を急いだが、検察は動かなかった。

そんな状況が続く中、保守メディアを中心に検察を批判する声が挙がった。例えば韓国の日刊紙『韓国経済』は8月23日付けの記事「チョ・グクの疑惑を明かす『スモーキングガン(確証)』が無くなるというのに…捜査に二の足を踏む検察」で、急ぎ捜査する必要性があるという法曹界の声を紹介していた。

尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長。検察庁HPより引用。
尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長。検察庁HPより引用。

当時のこうした批判はさらに、7月25日に就任したばかりの尹錫悦(ユン・ソギョル)検察総長へと向かった。尹総長はチョ候補とならぶ文政権の「顔」の一人だ。

保守政権の李明博・朴槿恵政権時代(08年3月~17年3月)に権力の顔色をうかがう「政治検察」であることをよしとせず不遇をかこったものの、「人に忠誠を誓わない」と言い放ちあくまで法と組織を重視する姿勢を崩さず注目された人物だ。

その後、朴大統領による国政ろう断疑惑の捜査に抜擢され、文政権の誕生(17年5月)と共にソウル中央地検長の要職に就いた。さらに7月に検察のトップとなった。

確かに文大統領は任命の際、「聖域の無い捜査」を尹総長に注文していた。とはいえ、尹総長が文大統領の肝入り人事であるチョ候補の周辺に対し、数回かけて50箇所以上にわたる場所への強制捜査を行っている事は、韓国社会でも異様な状況として映っている。

文大統領はまだ任期を半分以上残した「生きた権力」であるからなおさらだ。なお、今日5日までチョ候補本人への捜査は行われていない。

●与党・共に民主党や青瓦台の「反発」

検察に強く反発しているのは、チョ候補をサポートする与党・共に民主党だ。何度も検察に関する批判を公にしている。

『月刊朝鮮』の8月29日付けの記事によると、同党の李海チャン(イ・ヘチャン)代表は捜査開始翌日にあたる8月28日の党の会合で「候補者(チョ氏)が自ら辞退するよう望む圧力と考える」、「法務部や青瓦台(大統領府)もまったく知らず、メディアだけに知らせて電撃的に31箇所を強制捜査するのは『巨大な作戦を行った』と評しても過言ではない」と否定的に語ったという。

さらに「これまであったものが、メディアによる(チョ氏疑惑の)過剰報道・フェイクニュースだとしたら、これから出てくるニュースは最も悪い検察の『積弊』といえる被疑事実の流出だ」とし、「(流出させた)当事者を必ず暴き出し、その機関の責任者までも厳重に責任を問わなければならない」と述べたという。同紙はこれを「尹検察総長を狙ったもの」と解釈していた。

与党・共に民主党の李海チャン(イ・ヘチャン)代表。写真は同党HPより。
与党・共に民主党の李海チャン(イ・ヘチャン)代表。写真は同党HPより。

同党は9月4日にも「検察は違法と妥協するな」という書面を検察に向けて発表、その中で野党・自由韓国党の議員と結託し、チョ氏の娘の個人情報を流出させた検察内部の人物を捜査するよう求めた。

また、青瓦台も検察の動きに反応した。

8月30日に姜ギ正(カン・ギジョン)政務主席秘書官は会見の質疑応答の中で、「捜査過程で被疑事実を流出させる場合、これは犯罪だ。検察が流出させたのか、または取材する記者がある目的と意図をもって記事を作成したのかは分からないが、尹総長ならば必ず捜査をするべきだと考える。尹錫悦だからこそ、そう思う」と意味深長な発言をした。

このひと言はさっそく韓国メディアに取り上げられ「青瓦台が検察に捜査ガイドラインを提示しているのではないか」(中央日報)と批判を浴びた。

●見方は様々…「検察共和国の復活」とも

今回の検察の激しい強制捜査を「検察クーデター」と表現する人物もいれば、検察の権勢が最高潮だった過去の権威主義的政権時代を例え、「検察共和国の復活」と評するメディアもある。

こうした言葉を理解するためには、韓国の検察が持つ強大な力を知る必要がある。韓国の検察は捜査権や捜査指揮権、さらに令状請求権や起訴権などを独占しており、世界でも類を見ない存在と評される。

そして渦中のチョ・グク候補こそが、この検察を改革する切り込み隊長の役割を自任していた。捜査開始前日の8月26日にも韓国でいわゆる「検警捜査権の調整」と称される改革を表明していた。

「検察共和国の復活だ」と掲げる週刊誌『時事IN』の記事。検察の動きを見極めるためチョ・グク特集を一週間遅らせることを発表した。同紙記事をキャプチャ。
「検察共和国の復活だ」と掲げる週刊誌『時事IN』の記事。検察の動きを見極めるためチョ・グク特集を一週間遅らせることを発表した。同紙記事をキャプチャ。

これは、検察が独占している捜査権や捜査終了権、起訴権を警察と分け合うものであるが、検察が一貫してこれに不満を示してきたことで、世間の疑念を呼んでいる。

つまり、検察を指揮する法務部の長官に検察改革を掲げるチョ候補が任命される場合、検察の力が弱まることが自明であるため、これを恐れた検察側が「組織防衛」のために強制捜査を連発し、チョ候補の落馬を力づくで狙っているという見方だ。

このような検察の動きをどう見るか。

韓国の司法に詳しいある法科大学院教授は5日、匿名を条件に筆者との電話インタビューで以下のように答えた。

――強制捜査は通常の範囲と思うか。

人事聴聞会前の強制捜査は前代未聞で、異例の状況であることは確かだ。検察はまた、こうした事件の場合に刑事部で捜査するのが普通だが、今回は特捜部で捜査している。特捜部とは「認知捜査」すなわち、捜査対象をみずから決めて捜査する機関だ。当然、尹検察総長の裁可が必要になるため、ここに検察の目的を読む人もいる。

――検察の勢いをどう見るか。検察クーデターと言う人もいる。

検察の捜査も異例のスピードだ。知人の検察官も驚いているほどだ。いくら「聖域のない捜査」としても、大統領が注文した範囲に収まっているのかは疑問だ。しかし、検察クーデターというのは行き過ぎた表現だ。

――検察内部に反発があるのか。

検察内部の反発は否定できない事実だ。自身の権力を分け与えたくないのは当然だろう。

――検察は今も「最強」なのか。

そうだ。上命下達の組織としてのまとまりも強い。チョ氏が日頃から抱いていた問題意識もこの部分にある。民主主義社会において、国民が投票して権力を委任した訳ではない上に任期も定められていない検察が、なぜ強大な捜査権力を行使するのかという点だ。これこそが改革の基調といえる。

――今後の見通しは。

捜査結果の発表を待つ他にない。結果を見て検察の立場を解釈することになるだろう。

●検察があぶり出した「本質」

ネット上で検察と尹総長の縦横無尽ぶりは、三国志の猛将・趙雲に例えられている。特にチョ候補の支持者たちは「機密を流出させる尹総長を処罰せよ」と青瓦台に請願を寄せ、ここに約5万人の署名が集まっている。

また、やはり莫大な資産を持つ尹総長の「疑惑」を独自に追及する動きも一部に見られるほどだ。

こうした尹総長そして検察への反発の底には、2009年に自死した盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の存在がある。同氏が自死を選んだ原因の一つに、検察による意図的な捜査情報の漏えいを苦にしたとの認識、そしてトラウマが盧武鉉―文在寅と続く支持者に共有されている。

強大な検察をいかに改革するのかは、長く韓国社会における「未完の課題」となってきた。生涯を韓国の民主化に捧げた故金大中(キム・デジュン)大統領の「検察が正しく立ってこそ国が正しく立つ」という言葉は象徴的だ。

盧武鉉元大統領(左)と金大中元大統領。2003年2月、盧大統領の就任式。写真は大統領記録館より引用。
盧武鉉元大統領(左)と金大中元大統領。2003年2月、盧大統領の就任式。写真は大統領記録館より引用。

数々の疑惑やスキャンダルの中、検察の「猛攻」により図らずも今回のチョ氏任命における「本質」、つまり金大中―盧武鉉―文在寅と続く司法改革への執念が浮かびあがってきた。

一方、改革を望まない検察側の一部とチョ氏任命に反対する野党側には、目に見えない連携があるだろう。明日6日の聴聞会でどんな「爆弾」が飛び出すのかで検察の本音の一端が見えるはずだ。

だが真実は常に一つである。いずれにせよ、保守・進歩両陣営の権力をめぐる争いに加え、入試制度の不平等、さらに「積弊の本丸」とされる検察問題まで、チョ候補の任命をめぐる騒動は韓国社会のあらゆる問題をあぶり出している。(了)