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文大統領「いつかは越えるべき山」…「ホワイト国除外」に対抗措置の予告も(発表全文訳)

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
8月2日午後、国務会議で発言する文在寅大統領。政府広報テレビをキャプチャ。

2日午前、日本政府による「ホワイト国」除外を受け、同日午後に韓国の文在寅大統領が立場を表明した。全文訳を掲載する。対話での解決を望むとしつつも、「日本に勝つ」という強い覚悟を感じさせるものだった。

●「隣人で友邦なのに失望」

2日午後、文大統領は緊急に開かれた国務会議(閣議に相当)の冒頭で、約8分間にわたり発言した。

内容はまず、日本政府による「ホワイト国」除外を「無謀な決定」と見なし、深い遺憾を表明するものだった。

さらに「日本は対話を望む韓国や、交渉する時間を持とういう米国の提案にも応じなかった」とし、「状況を悪化させてきた責任と、これから起きる事態の責任のすべてが日本政府にある」と明かした。

日本側の意図についても、「大法院(最高裁判所)の強制徴用判決に対する明確な貿易報復」と位置付け、「『強制労働禁止』と『三権分立に基づく民主主義』という人類の普遍的価値と国際法の大原則に違反する行為」と見なした。

また「日本がG20会議で強調した自由貿易秩序をみずから否定する行為」であると共に、「個人請求権は消滅しなかったと日本政府自身が明らかにしてきた過去の立場とも矛盾する」ものと指摘した。

こうした基本的な立場を維持しつつ、「日本政府の措置がわが経済を攻撃し、わが経済の未来の成長をふさぎ、打撃を加えようとする明確な意図を持っている」と受け止め、「最も近い隣人であり友邦としてきた日本がそのような措置を採ることがとても失望的で惜しい」と表明した。

●「応酬の悪循環は望まず」も、強力な対応を予見

その上で、文大統領は「不当な経済報復措置に対し相応する措置を断固として採る次第」と韓国政府の方針を明かした。

「加害者である日本の『賊反荷杖(道理に合わない意)』の立場で、逆に大きく出る状況を決して座視しない」とし、「日本政府の措置状況にしたがい私達も段階的に対応措置を強めていく」という立場を示し、「私達の経済を意図的に打撃するならば日本も大きな被害を甘受しなければならないだろう」と警告した。

文大統領は一方で、「対応と応酬の悪循環を望んでいない。止められる道はただ一つ、日本政府が一方的で不当な措置を一日も早く撤回し対話の道に出てくること」という解決の糸口を提示することを忘れなかった。

だがこれは現実的に有り得ないと考えているのか、今回の事態を「力で相手を制圧してきた秩序」という過去の秩序に例えつつも「いつかは越えるべき山」という表現を使って、「日本に勝つこと、日本経済を飛び越えること」が可能だと強調した。

この日の文大統領の発言は、全体的に日本政府を非難しつつも、「過去を克服する機会が来た」と今回の出来事を歴史的に位置付け、国民の闘争心を刺激する内容だったと見てよい。互いに譲らない日韓政府のプライドが激突する様相だ。

●[全訳]文在寅大統領・国務会議冒頭発言(8月2日)

文在寅大統領・国務会議冒頭発言(8月2日)

非常な外交・経済状況に対応するために

緊急に国務会議を招集しました。

今日午前、日本政府は

わが国を「ホワイト国」国家から排除する決定を下しました。

問題解決のための外交的努力を拒否し

事態をより悪化させるとても無謀な決定で、

深い遺憾を表します。

外交的な解法を提示し、

行き止まりの道に向かわないよう警告し、

問題解決のために頭を寄せ合わせようというわが政府の提案を

日本の政府はついに受け入れませんでした。

一定の時限を定め

現在の状況をこれ以上悪化させずに

交渉する時間を持つことをうながす

米国の提案にも応じませんでした。

わが政府と国際社会の外交的な解決努力を無視し

状況を悪化させてきた責任が

日本政府にあることが明確になった以上、

これから起きる事態の責任も全的に

日本政府にあるという点を明確に警告します。

どんな理由で弁明しようとも、

日本政府の今回の措置は

わが大法院(最高裁判所)の強制徴用判決に対する明確な貿易報復です。

また「強制労働禁止」と「三権分立に基づく民主主義」という

人類の普遍的価値と国際法の大原則に違反する行為です。

日本がG20会議で強調した自由貿易秩序を

みずから否定する行為です。

個人請求権は消滅しなかったと

日本政府自身が明らかにしてきた過去の立場とも矛盾します。

私達がより深刻に受け止めているのは

日本政府の措置がわが経済を攻撃し

私達の経済の未来の成長をふさぎ、打撃を加えようとする

明確な意図を持っているという事実です。

私達の最も近い隣人であり友邦としてきた日本が

そのような措置を採ることが

とても失望的で惜しいです。

日本の措置は

両国間の長い経済協力と

友好協力関係を毀損するもので

両国の関係に対する重大な挑戦です。

また、グローバル供給網を壊し

世界経済に大きな被害をもたらす利己的な迷惑行為で

国際社会からの指弾を免れないでしょう。

日本の措置により私達の経済は

厳重な状況に困難さが加わりました。

しかし私達は二度と日本に負けないでしょう。

私達は数多くの逆境を勝ち抜き今日に至りました。

少なくない困難が予想されますが

わが企業と国民たちにはその困難を克服する力量があります。

過去にもそうであったように、私達は逆境を逆手に取って

跳躍する機会とすることでしょう。

政府も素材・部品の代替輸入処や在庫物量の確保、

源泉技術の導入、

国産化のための技術開発と工場の新・増設、

金融支援など

企業の被害を最小化するために

できるだけの支援を果たします。

さらに素材・部品産業の競争力を高め

二度と技術覇権に揺るがないようにするのはもちろんのこと、

製造業強国の位相をより高める契機といたします。

政府と企業、大企業と中小企業、労使

そして国民が共に力を合わせるならば

十分にできることです。

政府とわが企業の力量を信じ、

自信を持って、

共に不当な経済報復措置に対し相応する措置を

断固として採る次第です。

いくら日本が経済強国といえども

わが経済に被害を及ぼそうとするならば、

私達もやはり、対応する方案を持っています。

加害者の日本の「賊反荷杖(道理に合わない意)」の立場で

逆に大きく出る状況を決して座視しません。

日本政府の措置状況にしたがい

私達も段階的に対応措置を強めていきます。

すでに警告したように、

わが経済を意図的に打撃するならば

日本も大きな被害を甘受しなければならないでしょう。

わが政府は今も

対応と応酬の悪循環を望んでいません。

止められる道はただ一つ、

日本政府が一方的で不当な措置を一日も早く撤回し

対話の道に出てくることです。

韓国と日本、両国間には

不幸な過去事(過去の出来事)による深いキズがあります。

しかし両国は長いあいだその傷を縫い合わせ、

薬を塗って包帯を巻いて、

傷を癒そうと努力してきました。

しかし今になって加害者である日本が逆に傷をえぐるならば、

国際社会の良識が決して容認しないという点を

日本は直視するべきです。

国民の皆さんにもお伝えします。

私達は今年、特別に

「3.1独立運動」と「臨時政府樹立100周年」を記念し、

新たな未来の100年を決意しました。

力で相手を制圧してきた秩序は過去の遺物に過ぎません。

今日の大韓民国は過去の大韓民国ではありません。

国民の民主の力量は世界最高水準で、

経済も比べようのないほどに成長しました。

どんな困難も十分に克服する底力を持っています。

今すぐは困難があるでしょう。

しかし挑戦に屈服したら歴史はまた繰り返します。

今の挑戦を逆に機会ととらえ

新たな経済跳躍の契機とするならば

私達は十分に日本に勝つことができます。

私達の経済が日本経済を飛び越えられるでしょう。

歴史に近道はあっても省略はないという言葉があります。

いつかは越えるべき山です。

今この場で立ち止まるならば、

永遠に山を越えることができません。

国民の偉大な力を信じ、政府が前に立って進んでいきます。

挑戦を勝ち抜く勝利の歴史を

国民と共にもう一度作ります。

私達は成し遂げられます。

政府の各部署も企業の困難と共に歩むという

非常な覚悟で臨むようお願いします。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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