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南北政府が無視する北朝鮮住民の人権…国連UPRを振り返る

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
5月9日にスイスで行われた北朝鮮人権UPRの様子。国連サイトをキャプチャ。

北朝鮮の人権をめぐる5年に一度のイベントが一段落した。9日、スイス・ジュネーブで公開審査が行われた上に、14日には実務グループによる報告書が採択された。一連の動きの中での焦点をまとめた。

●UPRの現場

UPR(Universal Periodic Review、普遍的定期審査)という制度がある。先日の記事でもその詳細を説明したように、国連人権委員会に所属する193の国家すべてが、4年半に1度ずつ人権状況のチェックを受ける制度だ。

(必読参考記事)国連で5年ぶりに北朝鮮人権「審査」…問われる韓国および各国政府の立場

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20190508-00125268/

ジュネーブの国連人権委員会で9日午後、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)に対するUPRが約4時間にわたって行われた。審査は、北朝鮮代表の演説、94カ国の発言(各80秒)、そして各国発言の間の北朝鮮代表の発言という順序で行われた。

○北朝鮮代表の発言

UPRの冒頭、北朝鮮の韓大成(ハン・テソン)駐ジュネーブ大使は演説の中で、「DPRK(北朝鮮)は主体(チュチェ)思想を具現した社会であり(中略)人を国家と社会の主人とし、人民の利益が再優先順位に来る」とした上で、「金正恩国務委員長の尊重し愛する政治の実現により、人民の利益のために献身的な努力を傾けることが北朝鮮政府のあらゆる活動の根幹になる」と主張した。

さらに、「報告期間中(過去5年)、国連人権委員会と国連総会に北朝鮮人権決議案が連続して上程されたが、これは真の対話と協力ではなく、不信と対立を助長することに関心がある敵対的な勢力によるものだった」との見解を述べた。

北朝鮮の韓大成(ハン・テソン)駐ジュネーブ大使。国連サイトよりキャプチャ。
北朝鮮の韓大成(ハン・テソン)駐ジュネーブ大使。国連サイトよりキャプチャ。

そして国際社会に対して、「我々は何度も繰り返したように、これらの決議案を拒否する。それはこれが脱北者の虚偽の証言を出処とする、でっち上げの情報に拠るものだからだ。政治的な目的により作られた報告書は北朝鮮の実際の現実を歪曲し、政治化し選別的なダブルスタンダードの極端な発現として、北朝鮮に対し邪悪なレッテル貼りをするものだ。これらは真の人権保護と増進とは無関係なものだ」と突き放した。

その上で、「人権保護と増進のための対話と協力の重要性を認める点には変わりがない。しかし、極度に政治化した決議案に対しては強く反対し、今後も我々に対する敵対と圧迫に対し強く対応していく」との立場を強調した。

北朝鮮政府のこうした態度は、今年4月にUPRに先駆け国連人権委員会に提出した報告書にある、「自国の人権保護能力が、国連人権委員会や一部の国家による『残酷な』北朝鮮制裁により、深刻な障害と挑戦に直面している」という立場とつながるものだ。

○各国代表の立場

各国代表の姿勢は、人権状況の改善を求める側と、現状を評価する側に分かれたが、概ね厳しく改善を求めるものだった。

米国代表は事前質疑書にも含めたように、「すべての政治犯収容所の撤廃と、すべての政治犯の釈放」ならびに「収容所で行われている拷問や強制労働を廃止」を行うよう勧告した。さらにオーストリア政府は「政治犯収容所を閉鎖し、児童の栄養状況を改善し労働搾取を無くすことを」を勧告した。

また、ベルギー代表やフランス代表は「女性への暴力・性的差別や死刑の執行猶予や撤廃」を、豪州代表は「軍事費よりも人権」をと勧告した。日本代表は「拉致被害者問題の早期解決」を勧告した。さらにハイチなどいくつかの国は「成分制度の廃止」を勧告した。

UPRに臨む各国代表。国連サイトよりキャプチャ。
UPRに臨む各国代表。国連サイトよりキャプチャ。

なお、「成分制度」について国連の北朝鮮人権特別委員会(COI)は2014年の報告書で、「国家が定めた社会階級と出生により住民を分類する差別システム」と位置づけ「住居、教育(特に大学)、食糧配給、配偶者の選択などで決定的な要素となる」と見なしつつ、「市場経済の広がりと外貨などにより複雑に変化している」ともしている。

一方、ベトナムや中国、ベネズエラやキューバ、ボリビアなどは北朝鮮の改善努力を評価し、擁護に回った。だが、これらの国家も「国連との協力」や「子どもの栄養改善」、「農村環境の改善」に加え、拷問禁止条約など国連人権条約への追加加入などを指摘した。

○韓国代表の発言は「遠慮」

各国代表に混じり、韓国政府代表も発言した。白芝娥(ペク・チア)駐ジュネーブ大使は「北朝鮮による障害者権利条約(CRPD)の批准、そして最近の女性差別撤廃条約(CEDAW)ならびに子供の権利条約(CRC)への協力」を評価した。

そして、「CRPD履行審査への参加を含め、障害者の権利をさらに保護すること」や「拷問等禁止条約(CAT)や人種差別撤廃条約(ICERD)を含む、他の国際人権文書の批准」、さらに「北朝鮮が国連ならびに国際社会と協力して、健康への権利の実施を含むSDGs(持続可能な開発目標)を達成すること」などを勧告した。

韓国の白芝娥(ペク・チア)駐ジュネーブ大使。国連サイトよりキャプチャ。
韓国の白芝娥(ペク・チア)駐ジュネーブ大使。国連サイトよりキャプチャ。

一方、離散家族についての言及もあった。これを「緊急の人道的および人権問題」とし、北朝鮮政府に「南北首脳会談で行われた約束の履行」や「問題解決のために引き続き韓国と協力すること」を勧告した。

その上で最後に、「拉致被害者や戦時捕虜の問題に取り組むことを勧告する」とした。

なお、2014年の前回のUPRで韓国政府は「政治犯収容所の閉鎖や成分制度に基づく差別の撤廃、国連の北朝鮮人権特別報告官および国連人権メカニズムとの協力」などを勧告していた。韓国政府の発言に変化が目立つ。

○北朝鮮の「中間報告」

北朝鮮代表団は、各国代表団の発言の合間に一度、発言の機会を与えられた。その際に、食糧問題については「法律的に可能な措置は採り、農場で生産と経営を独自にできるように環境を整備した」と述べた。

さらに「過去3年間、農業生産が持続的に上昇し全体的に価格も安定化した。食糧価格も毎年下がっており18,19年に最低価格となって食糧問題解決に進展がある」と強弁した。

付記すると、これは最近提出された国連機関による報告書にある「北朝鮮の食糧生産が過去10年で最低」で、「住民の約40%が飢餓の危機にある」という立場とは大きく異なるものだ。

全国に5箇所ある政治犯収容所の位置を示した図(赤丸。白丸は閉鎖)。韓国の国策シンクタンク・統一研究院の報告書『北朝鮮人権白書2018』より引用。
全国に5箇所ある政治犯収容所の位置を示した図(赤丸。白丸は閉鎖)。韓国の国策シンクタンク・統一研究院の報告書『北朝鮮人権白書2018』より引用。

北朝鮮代表はまた、成分制度について「憲法でみな同じ権利を保証されている」と反駁し、政治犯収容所についても「刑法と刑事訴訟法に該当する表現自体が存在しない。教化所(刑務所)だけがある。スパイ、テロ分子、制度に反対する者、反国家犯罪者たちを教化所で一般犯罪者と隔離して収監しているだけ」と説明した。

収監施設での強制労働の指摘についても「法の要求によるもので合法的なもの。思想的な教養改造のための労働は強制労働ではない。日曜日と祝日には休ませている」と弁明した。

さらに、死刑制度について「死刑は反国家犯罪者と極悪犯罪者だけに行うよう規制している。死刑裁判は道(県に相当)裁判所だけででき、死刑判決は18歳以下には下されず、妊娠女性には執行しない。死刑は非公開でやるが、ごく稀に住民が公開処刑を望む場合に行うそれを検討して行う場合もある」と事情を説明した。

そして「社会生活のすべての分野で人民大衆が中心となっており、これは国家の最高原則だ。人権蹂躙行為への指摘はあまりにもひどいでっち上げだ」とした。

●報告書の採択

これまで見てきたようなUPRの過程を踏まえ、スイス・ジュネーブの国連人権委員会で14日、UPR実務グループの報告書が採択された。今後、これを土台に北朝鮮UPRの結果が文書としてまとめられ、9月の国連人権委員会で公式な結果物として採択されるプロセスとなる。

報告書について、米政府系メディアの『VOA(ボイス・オブ・アメリカ)』は14日付けの記事で、北朝鮮が今回のUPRで採択された262の勧告案のうち、63について「『北朝鮮の尊厳を攻撃し現実を深刻に歪曲し提示した』と拒否する意思を示した」と伝えた。

さらに、「拒否した勧告案の中には、米国が提案した政治犯収容所の解除、公正な裁判の保証、拘禁施設に対する妨害と制限のない接近、宗教の自由の侵害に対する刑事法改定などが含まれた」とした。また、前述した韓国政府の勧告のうち「拉北者と国軍捕虜の送還についても北朝鮮は拒否した」と伝えた。

「北朝鮮、言葉だけでは足りない」というアムネスティ韓国支部のHPイメージ。UPRに合わせ提出した意見書を掲載したページだ。同団体HPよりキャプチャ。
「北朝鮮、言葉だけでは足りない」というアムネスティ韓国支部のHPイメージ。UPRに合わせ提出した意見書を掲載したページだ。同団体HPよりキャプチャ。

一方、韓国の『聯合ニュース』は15日付けの記事で「北朝鮮はドイツ・オランダなどが勧告した政治犯収容所および強制労働廃止などの勧告について、『注目する(note)』との立場を明かした」と報じた。さらに「受け入れる(accept)という明確な表現ではないため、外交的には拒否に当たる」と説明した。

この記事によると、北朝鮮側が拒否した項目の中には「日本政府による拉致被害者問題の早期解決」の他に、「すべての拘禁施設に対する妨害と制限のない接近」や「宗教の自由に対する刑事法の改定」などが含まれる。

また、「北朝鮮側は『拷問等禁止条約や国際労働機関(ILO)加入、国連人権機構との持続的な対話』など199の勧告については『9月の国連人権委員会までに立場を整理する』としている」とも報じた。

なお、北朝鮮政府は09年のUPRで167項目の人権改善勧告案のうち81項目を受け入れている。また、14年のUPRではやはり269項目の勧告案のうち、117項目を受け入れ83項目を拒否している。

●脱北者人権運動家の反応は「失望」

今回のUPRを韓国に住む、北朝鮮出身の人権運動家たちはどう見たのか。

過去、トランプ大統領と面会経験もある人権NGO「NAUH」のチ・ソンホ代表は9日晩、ソウル市内で記者団を前に「今回のUPRにアムネスティ韓国支部の支援を受けて、報告書を提出した」と話を切り出し、「北朝鮮政府に直接声を届けることが大切だと感じた」と語った。

その上で「北朝鮮側もUPRに際し多くの準備をしてきたことが分かった。話にならない論理で反駁する北朝鮮政府の立場を見て、残念であり情けないという想いがあった。人権侵害の被害を受けた脱北者の声が、なぜ国際社会で重要なのかが確認できた」と述べた。

韓国ベースの人権NGO「NAUH」のチ・ソンホ代表。北朝鮮の「コチェビ」出身だ。9日、筆者撮影。
韓国ベースの人権NGO「NAUH」のチ・ソンホ代表。北朝鮮の「コチェビ」出身だ。9日、筆者撮影。

また、朝鮮戦争時に北朝鮮の捕虜となり、その後北朝鮮から戻れなくなった国軍捕虜の名誉回復問題や行政問題を扱うNGO「6.25国軍捕虜家族会」のソン・ミョンファ氏は16日、筆者のインタビューに応じ、「国軍捕虜の問題は小さく扱われただけだ。韓国政府は(戦時捕虜の取扱いを定めた)ジュネーブ協約について北朝鮮政府に強く言わなければならない。韓国が言わずに国際社会が助けてくれるはずがない」と語った。

一方、NGO「北朝鮮人権増進センター」のイ・ハンビョル代表もやはり16日、筆者のインタビューに対し「兄が2009年から政治犯収容所に収監されている。政治犯収容所が無いという北朝鮮の弁明は受け入れられない」と語った。さらに、「北朝鮮は抑留している韓国国民の釈放勧告も拒否した。韓国政府は、3度の南北首脳会談で北朝鮮人権問題を取り上げなかった。人権対話をするべき」と提案した。

16日、国会で北朝鮮に拉致された国民の送還と、被害者中心の北朝鮮人権改善を求める北朝鮮人権運動家たち。後列左から2人目がイ代表、4人目がソン代表だ。16日、筆者撮影。
16日、国会で北朝鮮に拉致された国民の送還と、被害者中心の北朝鮮人権改善を求める北朝鮮人権運動家たち。後列左から2人目がイ代表、4人目がソン代表だ。16日、筆者撮影。

●専門家インタビュー「北朝鮮は敏感に反応」

今回のUPRを全般的にどう評価するべきなのか。前回の記事でもUPRについて詳しい説明を行ってくれた、ソウルを基盤とする国際NGO「転換期正義ワーキンググループ」の李永煥(イ・ヨンファン、41)代表に17日、電話でインタビューを行った。

――韓国政府は金正恩氏が指導者となった2011年以降も北朝鮮に拉致された韓国国民について、言及しなかった。

現在、名前が分かっているだけでも6人、身元不明の1人まで合わせて7人が抑留されているにも関わらず、韓国政府が言及しなかったことはとても深刻な問題だ。事前質疑書も提出しなかった。

――他の国が北朝鮮による拉致に言及した。

韓国政府にとって恥ずかしいことに、ウルグアイとアイスランドが、1969年のKAL機拉致事件と、その被害者の名前に具体的に言及しながら被害者の送還問題を取り上げた。

※KAL機拉致事件:1969年12月、乗客47名と乗務員4名を乗せた国内線がハイジャックされ、北朝鮮に強制的に着陸させられた事件。1970年2月、板門店を通じ39人が送還された。乗務員4名と乗客8人(うち一人は犯人)は北朝鮮による拉致被害者となり、現時点での詳細な生死は不明だ。

――韓国政府のUPRプロセスを評価すると。

批判を受けるほかにない。2014年のUPRよりも勧告案の水準を大きく引き下げた。その上に、人道支援に対する世論の反応が良くないことを意識してか「持続開発目標」に言及したが、最も重要な自国民を保護する問題や拉致被害者、国軍捕虜の問題は曖昧に言及しただけだった。外交部が北朝鮮政府だけでなく、韓国の文在寅大統領の顔色を窺って低姿勢を一貫したと見る他にない。

※なお、政治犯収容所に閉鎖について言及しなかった理由について、外交部は13日、自由韓国党の鄭亮碩(チョン・ヤンソク)議員室に対し、「発言を申請した会員国に与えられた発言時間がそれぞれ1分20秒に過ぎなかった上に、北朝鮮に拷問禁止協約(CAT)加入を促すなど、(問題を)包括的に指摘した」と説明している。

ソウルを基盤とする国際NGO「転換期正義ワーキンググループ」の李永煥代表(左端)。16日、筆者撮影。
ソウルを基盤とする国際NGO「転換期正義ワーキンググループ」の李永煥代表(左端)。16日、筆者撮影。

――やはり見どころの一つとした強制労働の問題については進展があったか。

児童労働・強制労働の問題については、いくつかの会員国がしっかりと指摘した。ILOへの加入や、労働における最低基準の導入など、過去のUPRに比べ勧告内容が具体的になった。だが、北朝鮮政府は依然として政治犯収容所など、収監施設での強制労働を一切否定している。

――北朝鮮政府は勧告案をどう受け入れると見るか。

北朝鮮政府が検討すると明かした勧告案は、その大部分が外部からの支援を期待できる障碍者・児童・女性に関する事案だ。拉致や政治犯収容所、拷問や処刑など深刻な国際人権犯罪として国際社会が糾弾する問題はすべて拒否し、否認している。

――北朝鮮政府はUPRにどう臨んだと見るか。

注目すべきは、北朝鮮政府がUPRに参加するにあたって、一連の「言い訳」を書面で綿密に検討し、それを現場でしっかりと朗読した点だ。今回のUPRを控え、10か国が出した事前質疑書とメディアの報道などを参考にして、政治犯収容所や超法規的な処刑など焦点になる部分を前もって予想し、これについて敏感に準備してきたことが伺えた。

――今回のUPRの成果は何か。

北朝鮮政府は依然として嘘の弁明を並べているが、その態度から、根本的な人権問題を国際社会が重要な事案としていることを明確に認識していることが分かる。これ自体が、一つの成果といえる。

そして韓国の文在寅政府の北朝鮮人権問題に対する消極的な姿勢をこの機会に再確認し、これから追及していけるようになった点も付帯的な成果と見る。金正恩氏と3度会った文在寅大統領が、北朝鮮内部の人権問題を後回しにしているという批判があったが、抑留・拉致された国民の釈放と送還問題まで回避している点は、韓国政府にとってどんどん大きな負担となるだろう。

――今後の見通しは。

今回のUPRを通じ、金正恩政権による可視的で真摯な変化に向けた取り組みが見えないという点を再確認できた。しかし逆に北朝鮮の弁明が、一つのとっかかりになると見ることもできる。

例えば、北朝鮮政府は「国内の教化所(刑務所)の状況はとてもよい」とその内容を列挙したが、今後、国連の特別報告官や関係者が北朝鮮を訪ねる際に、教化所の訪問を要求できるだろう。

食糧支援を担当するWFPなどの国連機関も同様に、教化所内部での栄養と保健衛生状態の確認を要求できるだろう。その口実を北朝鮮側が与えた。

9日、ソウル市内で行われたUPRをモニタリングする会合の様子。多くの人権運動家とメディアが詰めかけた。9日、筆者撮影。
9日、ソウル市内で行われたUPRをモニタリングする会合の様子。多くの人権運動家とメディアが詰めかけた。9日、筆者撮影。

●韓国政府の公式な立場「開放してこそ人権改善」

筆者はUPRを控えた今月初頭、韓国政府で北朝鮮人権問題を主管する統一部に対し、北朝鮮人権問題をどう捉えているのか質問し、17日にその答えを受け取ることができた(UPRの直接の担当は外交部)。

いくつかの質問と回答のうち、大切な2点だけを以下にまとめる。

――北朝鮮人権問題を提起することが北朝鮮を刺激するという視点がある。韓国政府もしくは統一部は2018年の北朝鮮との対話再開以降、北朝鮮に対し北朝鮮人権問題を公式に提議したことがあるのか。

韓国政府は、人類普遍の価値として人権を重視し、北朝鮮住民の人権増進のために持続的に努力している。特に韓国政府は最近のUPRで、北朝鮮人権の実質的な改善のためには、北朝鮮が国際社会と協力できるように督励する必要があるとの認識下に、北朝鮮が実質的に改善できる分野に焦点を合わせ、勧告内容を提示した。

――統一部で北朝鮮人権問題と関連し、重点的なテーマと考えているのは何か。政治犯収容所のような至急な問題があるとされるが。

韓国政府は北朝鮮住民の生活の質と、人権の実質的な改善に焦点を当てている。その方法は、南北間の協力と国際社会と北朝鮮の間の協力などを通じ、北朝鮮が開放の道に進み、正常国家となることだ。

今後もより活発な対話と通じてこそ、北朝鮮住民の生活の質と人権を実質的に改善させられるという立場の下、国際社会と共に多角的な努力をしていく。

筆者は2000年に韓国の大学に入学して以降、今日に至るまで、長いあいだ北朝鮮人権問題と関わり、ウォッチしてきた。それだけにこの問題が単純な問題で無いことは誰よりも分かっているつもりだ。だからこそ、今後もこの問題を正面から取り上げていくつもりであり、簡単な結論を下したくない。

その上で、この記事のタイトルについて、他に表現すべき言葉を見つけられなかった旨を明記しておきたい。(了)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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