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したたかな金正恩外交…北朝鮮メディアが「中朝経済協力合意」の存在を示唆か

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
5月7日から8日にかけて大連で会談を行った中朝両国首脳。写真は朝鮮中央通信。

米朝首脳会談を6月12日に控え、朝鮮半島の利害関係国による外交戦が過熱する中、金正恩委員長と習近平総書記との間で何らかの「経済協力合意」が存在している可能性が高まっている。

南北・米朝、そして中朝

北朝鮮が連日、し烈な外交戦を米韓相手に仕掛けている。

16日未明、北朝鮮は国営メディアと南北通信チャンネルを通じ、米韓合同空軍演習「マックスサンダー」や元駐英公使テ・ヨンホ氏が国会で講演したことなどを理由に、同日に予定されていた南北閣僚級会談の中止(無期限延期)を韓国政府に通告した。

また、米国に対しては、やはり国営メディアで金桂冠(キム・ゲグァン)第一外務次官の口を借り、最強硬派とされるボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)の「リビア式核廃棄」を「国の崩壊をもたらす」と痛烈に批判。「一方的な核放棄だけを強要する場合には米朝対話に応じることを再考せざるを得ない」と警告を発した。

これとは対象的なのが中朝関係だ。

「中国内の経済建設および改革・開放の成果を参観する」ことを目的に、中国共産党に招待された朴泰成(パク・テソン)朝鮮労働党中央委員会政治局委員を団長とする朝鮮労働党親善参観団の一団が、5月14日から中国を訪れている。参観団は16日に習近平総書記と会うなど、厚い待遇を受けている。

中朝最高指導者間「合意」の存在を示唆

北朝鮮の朝鮮中央通信は17日、参観団が前日に北京の人民大会堂で習総書記に会った際の様子を詳細に伝えた。

同通信によると習総書記はこの席で「中国が両国間に血潮で結ばれた伝統的な友好を新時代の要求に即して、さらに高い段階へと促す活動をとても重視している」点に言及した上で、「金正恩委員長同志が朝鮮党第7期第3回総会で新たな戦略的路線を打ち出したこと」に対して「高く称揚する」と述べたとのことだ。

4月20日に行われた朝鮮労働党の同総会で金正恩委員長は、「経済建設と核武力建設並進路線の偉大な勝利」を宣布し、今後は「社会主義経済建設に総力を集中すること」を明言し、「核・ICBM試験の中止と、核実験場を廃棄」を宣言した。

だが筆者が注目したのはこの記事の最後尾にある、北側の朴泰成副委員長が「両党の最高指導者同志が成し遂げた合意を実践に移すために各分野における交流と協力を強めると語った」という一文だ。

「合意」に経済協力は含まれるのか

両党の最高指導者とは、言うまでもなく中国共産党の習近平総書記と朝鮮労働党の金正恩委員長を指す。両者は3月28日に北京で、今月7日には大連でそれぞれ首脳会談を行っている。ではこの両者が「成し遂げた合意」とは何か。

中朝の国営メディアなどの報道を総合すると、「朝鮮半島の非核化堅持、対話を通じた解決、関係各国が北朝鮮への敵対政策と安全に対する脅威を無くすこと」程度に整理できる。言わば、非核化(核・ミサイル問題)と平和維持の問題に限定されていた。

だが筆者は、今回の朝鮮中央通信の記事にある「各分野における交流と協力を強める」という核・ミサイル問題とはかけ離れた表現を見て、「何か別の経済協力に関する合意があるのではないか」という疑いを強くした。

それと同時に、日本の読売新聞が14日の記事で、「非核化の中間段階でも経済支援を受けることが可能かどうか習氏に打診したことが明らかとなった。習氏は米朝首脳会談で非核化合意が成立すれば、段階的支援が可能との考えを伝えた」と報じていたことを思い出した。

韓国の中国専門家「中朝は経済協力で合意しているだろう」

17日夕方、筆者はこの疑問を、韓国有数のシンクタンク・世宗研究所の鄭載興(チョン・ジェフン) 安全戦略研究所研究委員にぶつけてみた。

世宗研究所の鄭載興(チョン・ジェフン) 安全戦略研究所研究委員。
世宗研究所の鄭載興(チョン・ジェフン) 安全戦略研究所研究委員。

鄭研究委員は「中朝の内部では当然、経済協力を行うことで合意しているだろう」との見方を示した。そうした上で「ただ、それをいつ実行に移すかには二つのシナリオが考えられる」とした。

一つ目はまず「米朝が首脳会談を通じ、非核化に合意し、その内容が正常に履行される場合」というもの。二つ目は「米朝会談が決裂し、北朝鮮への経済制裁が維持または強化される場合」というものだ。

一つ目のシナリオでは「中朝が言うように『段階的・同時的』に履行される場合、ある段階で北朝鮮への経済協力が行われることになる」とする。

一方、二つ目のシナリオについては「会談が決裂する場合、中国は『北朝鮮は十分に譲歩した』と、その責任を米国に求めるだろう。これはその後、経済制裁に同調しない名分を中国に与えることになる」とし、「この場合には中朝間で経済交流が拡大するしかない」と見通した。

つまり、どう転んでも中朝の経済的な結びつきは強まる他にない。ということだ。

鄭研究委員はこうした状況を作り出したのは金正恩氏だとし、「金正恩外交はスマート。懸案の経済制裁に対抗するための中朝関係を、南北・米朝との外交を利用し改善しているとも見える」と評価した。

「その後」へ

米朝首脳会談を約一ヶ月後に控える中、米朝合意の成否に興味が集まっている。成否を分けるのは「条件(対価)」と「時間(スケジュール)」であるが、そこには当然「履行可能性」、つまり不確かな未来を双方がいかに信じ、確認できるかという点も関わってくる。

現在、利害関係国間でどのようなやり取りが行われているのか、明らかになっているのは一部に過ぎないと見る。ただ、最も弱い立場と見られてきた金正恩氏が、様々なセーフティネットを張り巡らせている事は間違いない。「熱い」やり取りはまだまだ続く。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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