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【ラグビーW杯2023フランス大会】イングランド戦、勝敗の分岐点は?サモアに勝つために何が必要か?

斉藤祐也元ラグビー日本代表/ラグビー解説者
ラグビーワールドカップ2023フランス大会 SH流大は効果的なキックを繰り出した(写真:ロイター/アフロ)

 イングランド代表は、私も出場したラグビーワールドカップ2003年のオーストラリア開催で欧州唯一の優勝国となり、前回大会の2019年日本開催では準優勝するなど実績あるチームである。日本代表との対戦成績は10戦全勝ではあるが、日本が2015年大会のイングランド開催にて南アフリカ代表や前回大会のアイルランド代表を破ったことで、勝てないと見做された時代が終わり、日本代表勝利の可能性を見出していたのは確かである。

キック戦略の攻防

 イングランドは、予想通り日本陣内で戦うことを重視しキックを多用してきた。これは想定内だが、日本も対抗するかのようにキックの比率を上げていた。初戦チリ戦のキック数を見ても明らかだった(チリ戦25回/イングランド戦37回)。

 キックを使ってイングランド陣内で長く戦い、スコアに繋げたかったと思うが、エリア比率を見ると試合全体で39%、終了10分間は13%で厳しいゲームを強いられていたことが分かる。

 キックには大きく3通りあり、相手のエリアに侵入する①ロングキックと②ハイパント(高いボールを蹴り上げ競り合うキック)やショートパント(ディフェンスの背後を狙うキック)による再獲得を目的とするキックがある。また、フィールドの外側にポジショニングする選手に渡す③キックパスがある。それ相応の技術力が必要とされ簡単ではない。

後半65分、イングランドのトライはSOジョージ・フォードのキックパスにより生まれた。

 日本は、ハイパントとショートパントを駆使したが再獲得率が低く、相手にボールを渡す機会が増えた。競り合った結果、溢れるボールへの反応や対応はイングランドが一枚上手だったのだ。キックは相手にボールを渡す、もしくは自らアンストラクチャー(ディフェンスが崩れた状況)を生み出すきっかけでもあり、リスクの高い戦術と言える。

 高いボールに対して強い選手が対応できれば、リスク回避に繋がりチャンスを作り出すことは可能だ。

55分に起きたヘディングから生まれたトライ

 前半、ミスはあるものの1本の失トライを除き、最小限に抑え9−13で折り返す。後半52分、日本がPG(ペナルティゴール)を決めて12−13の1点差として迎えた55分に珍しいトライが生まれた。

 日本のハイパントをFB(フルバック)フレディ・スチュワードがキャッチし、7フェーズ目にそれは起きた。イングランドの手に当たったボールが2人目の頭に当たり、前に落ちたボールを拾い上げてインゴールに持ち込んでトライとなったのだ。TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)の判定により1人目の手に当たったボールは後方に落ちたと判断され、頭はノックオンの対象外であることからトライが認められたのだ。

 この瞬間、チリ戦の最初のトライを思い出した。ノックオンとセルフジャッジしたかのようにリアクションが遅れたように見えたからだ。このヘディングから生まれたトライも落ちたボールに対して、空気が止まったかのように選手の体が止まっているように見えた。

ラグビーワールドカップ2023フランス大会 イングランド主将コートニー・ローズ
ラグビーワールドカップ2023フランス大会 イングランド主将コートニー・ローズ写真:ロイター/アフロ

試合のターニングポイント

 ラグビーにはゲームの流れというものが生じる。1つのミスや反則によってエリアを挽回され、長い時間を自陣に釘付けにされることがある。打開策はエリア回復やスコアに繋げる好プレーが必要となる。

 まさにこの55分のトライが悪い流れを生み出したと考えているが、この流れを断ち切るプレーは58分、松島幸太朗のランプレーであっただろう。キックカウンターからディフェンスラインを切り裂くようにスピードに乗り、相手をかわすステップで大きく前に出ることに成功した。しかし、その後の継続はミスによって良い流れを引き寄せることはなかった。

 結果12-34日本代表敗戦。

ラグビーワールドカップ2023フランス大会 松島幸太朗のランプレー
ラグビーワールドカップ2023フランス大会 松島幸太朗のランプレー写真:ロイター/アフロ

強豪国(格上)に勝つために必要なこと

 ワールドカップは世界が注目する最高峰の大会であり、強豪国に勝つことに偶発的なものはない。周到な準備とゲームを読む力が必要とされる。

 イングランド戦での敗戦は、ハンドリングエラー(ノックオンなどによって相手にボールが渡る)が多くあり、トライの起点になるラインアウトのミスが多くあった(成功率67%)。ラグビーにミスのない試合は皆無であるが、ミスが起きた時の次のプレー(リアクション)が重要である。ミスをミスでなくすためにボールを取り返すプレーが必要となるのだ。

 日本はイングランドを相手にスクラムで善戦するまで強くなった。一人ひとりのタックル精度も上がりターンオーバー(相手のボールを奪うプレー)の機会が増えている。今後、必要なことは少ないチャンスを物にするサポート力とミスをカバーする運動量を80分間通して継続することである。

 イングランド戦の敗戦は、決して悲観するものではない。ビクトリーロードはこれから切り開くのだ。

サモアに勝つために何が必要か?

 サモアは伝統的にフィジカルとスピードに長けており、アンストラクチャー(ディフェンスが崩れた状況)を得意とするアタック力のあるチームである。そのため、日本のキック後のカウンターアタックに要注意だ。

 イングランド戦のタックル成功率は82%だったため、90%以上の成功率が求められる。前で止めるタックルが1つの鍵を握る。

 日本は、サモア陣内で戦う時間を長くし、相手の反則を誘う継続性のあるアタックが必要だ。着実にPGを重ね、相手のフラストレーションが溜まれば日本のペースに持ち込めるであろう。

 決勝トーナメント進出を掛けた大事な一戦となる。

元ラグビー日本代表/ラグビー解説者

高校1年からラグビーを始め、若干2年で高校日本代表に選出される。東京高校では、攻撃の要である NO.8(ナンバーエイト)として活躍し、全国高等学校ラグビーフットボール大会(花園)へ初出場の立役者となる。明治大学時に全国大学ラグビー選手権に出場し優勝。4年時には主将を務める。2000年にサントリーに入社、一年目のシーズンからレギュラーを獲得し、「日本ラグビーフットボール選手権大会」連覇などタイトル獲得に貢献。2002年フランス1部リーグ・ USコロミエに海外移籍。フォワードとして日本人初のプロ契約選手となった。帰国後、プロ契約選手として、神戸製鋼、豊田自動織機などで活躍した。

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