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違法デモが日常になりつつあるフランス。年金制度改革反対運動と警察暴力

プラド夏樹パリ在住ライター
警察の催涙弾が飛び交うデモ現場(写真:ロイター/アフロ)

3月16日に年金制度改革が強行採択されたフランスで、市民の反政府デモが活発になってきている。中でも、市民は年金受給開始年齢が現在の62歳から64歳に引き上げられることに反対を示しており、各地でストライキ、デモが相次いでいる。パリ市では、清掃業者がストをしているために未回収のまま路上に放置されているゴミに放火され、手のつけられない状態に。下記のようなシーンは「普通」になってきている。

この改革には国民の約3分の2が反対しており、なかでも高校生や大学生が多いことが特徴だ。ここ10年で、環境問題やジェンダーに関する教育を受けた子どもたちが、政治に敏感な若者に育ったのだろうか? 下記は、「カオス的な状況を作っているのはあなた方、政府です!」と言う高校生徒組合のリーダー、マネス・ナデル氏、なんと15歳。

不穏な雰囲気を察知したパリ警視庁は18日から、国会議事堂に近いコンコルド広場、シャンゼリゼ大通り界隈の公道で集会、デモを禁止した。

しかし、それに対抗する形で、市民は「違法デモ」あるいは「自然発生的なデモ」をあちらこちらで行なっており、ル ・モンド紙のような中道左派の日刊新聞でも、『非合法デモ・無届けデモに参加する市民の権利。Q&A』といったタイトルで、逮捕された場合に知っておくべき法的知識について記事を発表している。

市民に「違法デモ」に参加する権利はあるか

通常、デモを組織する場合は市役所にルートを届けなければならないが、今回、市民は堂々と届出無しの「違法デモ」に参加をしている。「政府が強行採択するならば、私たちもデモを強行する」という論理である。ちなみに違法デモを組織するのは違法であるが、暴力的な行為なしに違法デモに参加することは違法でない。

この「違法デモ」は政府に反対を表明したい人々が自然に広場に集まる、集団で道を歩く、SNSで連絡して集まった数人が数十分で大きな群衆に膨れ上がるというものだ。どこで、いつ始まるのかわからないので警察は対応に追われ、焦り、イラついて通常以上に暴力的になるだけではなく、たまたまそこにいたジョギングをする人からツーリストまで十把一絡げに殴打し、勾留するという事態が起きており、Twitterでは「これほど警察暴力がひどいデモは初めて」と言う人が多い。

共和国を建設したのは群衆

これに対し、マクロン大統領は21日、与党議員を前に「選挙によって選ばれたあなた方議員とは違い、群衆の意思表現は合法的ではない」と、2021年に起きた米連邦議会襲撃事件などを引き合いに出して違法デモをする人々を批判する演説をし、市民の怒りに油を注ぐ結果になった。

というのは、フランスでは「革命の末に王政を倒し共和国を建設したのは無名な群衆である自分たち」という意識が、現在も一般市民の中に確固としてあるからだろう。革命という「成功体験」はしっかり根付いており、その後も、普仏戦争の講和に反対した市民が蜂起して自治政府を成立し(1781年)、学生が中心となった1968年5月革命は社会を根底から覆し、2006年には、国会で採択され憲法院でも合憲と判断されて成立した若者対象雇用契約法案(CPE)が、2ヶ月にわたるゼネストの末に葬られた。「革命」は常に「あり得る」ことで、選択肢の一つとしてあるようだ。

最後に、下記は這う這うの体で引き上げ、衝突事故を起こす警察車。マクロン政権の現状といってもいいかもしれない。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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