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フランス 「肉食する男性たちと環境破壊の関連性」はクソフェミの妄想か?

プラド夏樹パリ在住ライター
(写真:アフロ)

フランスは圧倒的に肉食派が多い国である。私の自宅の周囲を見渡しても、肉屋4店に対して、魚屋はスーパー内の魚売り場1店のみ、好きな料理ランキングでも必ず肉料理が上位に挙がる。

ところで8月末、フランスのグルノーブル市で欧州エコロジー党(EELV)党の集会が開かれ、その一環として「食肉消費と環境問題」というテーマで話し合いの時がもたれた。しかし、その折に、同党所属の国会議員であるサンドリン・ルソー氏が「BBQした牛肉を食べることは、これまで男らしさのシンボルだったけれども、今後は環境問題解決のために、男性のこうしたメンタリティーを変えていかなくては」と発言したことが、メディア上で炎上した。

このルソー氏は、一部の人々から「クソフェミ」として叩かれ続けているのにもメゲず、「自然も女性も権力を思うままにする一部の男性からの抑圧を受けている」と主張するエコ・フェミニスト。欧州エコロジー緑の党(EELV)党のオピニオンリーダーとして活躍しており、今春の大統領選挙運動中にも、「私のパートナーは既成の男らしさという価値観から解放された『脱構築された男』なの、だから一緒にいてとっても幸せ!」とノロケてみせ、「脱構築された男」という言葉を流行させた人でもある。

サンドリン・ルソー氏 欧州エコロジー党(EELV)党の集会で

BBQで男らしくなれるか?

今や、食肉が環境に大きな負担をもたらすことは常識となっている。家畜のゲップや糞から大量の温室効果ガスが排出され、その量はすべての乗り物から排出される温室効果ガス総量に匹敵する。特に牛肉1kgあたりの温室効果ガス排出量は27kg(鶏肉6.9kg)と特に高い。

しかし、ルソー氏がさらっと言ったこの発言にカチンときた人は多かった。「BBQして男らしくなった感じがするわけがないだろ。精神科医に診断してもらえ!」、「うちのママンはBBQ大好きだよ、料理しなくって済むんだから」などなど。

右派男女議員からも「錯乱してる」、「妄想だ」などのTwitterが投稿されたが、共産党の党首ファビアン・ルーセル氏も「多くの人は財布の中身と相談して肉を食べているはずで、パンツの中身とは関係ないでしょ」と。反対に、服従しないフランス党(LFI)のクレマンティン・オッタン氏は「実際に女性の食肉消費は男性の半分なんですよ」と統計結果を挙げてルソー氏に賛成を示した。

「男性は女性より肉を消費する」の真偽

ところで、日本と違って、伝統的に肉が主食である欧州において、「女性の食肉消費は男性の半分」は本当なのだろうか?いや、もっと言えば、それゆえに男性の方がより環境破壊に加担しているということは科学的に証明されているのだろうか?

フランス国立食料・環境・労働に関する衛生保障局(ANSES)の食料消費報告書(2017年)は、18歳から79歳のフランス人男女の食生活を次のように要約している。「性別による食生活の違いは思春期に始まり、その後、男女間の違いはさらに顕著になる。女性は鶏肉、ヨーグルト、スープ、フルーツジュース、男性は鶏肉以外の赤肉、チーズ、サラミやハムなど豚肉加工品、アルコールを好んで消費する傾向がある」としている。その結果、一番温室効果ガス排出量が少ない肉である鶏肉以外の肉の一日あたりの消費量は、男性は平均して43g、女性は27gだ。

そして、それゆえに男性の方がより環境破壊に加担しているというのも、事実らしい。2021年11月に科学誌Plos Oneで発表された212人の英国人の食生活を対象にした研究によると、男性の温室効果ガスを排出率は、女性より41%多い。

肉食と男らしさの関係

フランスの農産・海産物局(FranceAgriMer)が発表した2018年の報告書「欧州のべジタリアン」では、こうした男女の食生活の違いを次のように分析している。「20世紀半ばまで、高価な食物だった狩猟肉(鹿、猪、ウサギ、キジなど)は、欧州では富裕層だけが食べることができる、あるいは祭事のある時にだけ消費されるものだった。農民や工場労働者が肉にありつけることは極めて稀だったため、家族の中でも1番の働き手である男性、つまり家長が老人・女性・子どもよりも多く、また、一番美味しい部分を食べていたことから、肉=男らしさというイメージが出来上がった。その結果、今でもべジタリアン、そこまでしなくても肉の消費量を減少させる傾向は、今でも男性には少ない」と。欧州で温室効果ガスを多く排出する牛肉を日常的に食べるようになったのは、第二次世界大戦後、工場型畜産が始まってからであることも付け加えておきたい。

また、アメリカのUCLA大学で心理学者が18歳から88歳までの男性1706人を対象にして行った研究「肉食、べジタリアン生活とジェンダー」によると、自分の男性性を確認するために肉食する傾向があるということも発表されている。また、企業に勤める知人男性は、昼食時にベジタリアンメニューを選ぶと、同僚に「大丈夫?」と言われたり、周りの目も気にしなくてはいけないというから、男性間での圧力もあるらしい。

ルソー氏の発言は、科学的根拠に基づいたものであったらしいが、「好きな料理は?」と聞かれて「牛肉ステーキとフレンチフライ」と答える人がダントツに多いこの国で、「またクソフェミがいい加減なことを言ってる!」と、事実に目をつぶりたい人はまだまだ多いらしい。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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