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フランス、家庭で増加するLGBT+差別

プラド夏樹パリ在住ライター
(写真:ロイター/アフロ)

「種の保存に抗う」など、自民党議員のL G B T +差別発言が相次いでいる。ところで、フランスでは2004年からL G B T +差別発言は軽罪となったものの、トランスジェンダーが精神障害のリストから外されたのは遅く、2010年。今、差別の実態はどうなのだろうか?

一番の加害者は両親

L G B T +サポート団体であるSOS homophobieによる『フランスにおけるL G B T +差別に関する統計』が5月17日に発表された。電話による1815人に対するアンケートの結果である。

それによると、昨年はロックダウンで、外出が少なくなり家庭で暮らすことが増えたこともあり、LGBT+の人々に対する公的な場所での暴力は36% (2019年は48%)と減少したものの、家庭内での暴力は13% (2019年10%)と上昇した。

被害者には25歳以下の若者が多く、主な加害者はなんと両親。多くの場合は拒絶される(75%)、侮辱(47%)、ハラスメント(38%)、威嚇(32%)、身体的・性的攻撃(21%)といった差別的な被害を受けたという。

  『恋人たち』フランス公衆衛生局のLGBT+差別予防のキャンペーンフィルム

5月17日付ル・モンド紙上では次のような例が引用されている。

・レズビアンであることを家庭でカミングアウトしたばかりに、「もうお前はうちの娘じゃない」と追い出された。

・市民籍(市民の出生、性別から結婚や死亡までが書き込まれる)の性別を変更しようとしたトランスジェンダーの男性が親に身分証明書を取り上げられた。

・父親から「女の子のままでいろ」と言われ、服装を馬鹿にされ、姉に「出来損ない!」と罵られたトランス男性。

連続して起きたトランスジェンダー学生の自殺

家庭だけではない。特にトランスジェンダーの人々にとっては、学校もまだまだ生きやすい場所ではない。

昨年9月にはモンペリエ市で19歳のトランスジェンダー女子学生ドーナさんが鉄道に飛び込み自殺した。ゲイ・カルチャー雑誌T E T Uによれば、ドーナさんの両親はトランスジェンダーに対する理解がなく、大学寮でも以前の(男性だった時の)名前で呼ばれることが多く、言葉の暴力にあっていたという。実家に戻ることはできず、かといってコロナ禍で収入はわずか400ユーロ(約5万3千円)の奨学金、とうとう寮内で自殺未遂した。病院に運ばれるが、院内で他の患者に罵られ、それに対して医師も看護師も何も言わなかったと言う。二度目の自殺未遂をし、寮からは、「もう一回自殺騒ぎを起こしたら出て行ってもらう」と予告される。そして三度目、鉄道に飛び込み亡くなった。

また、12月にはリール市の高校でトランスジェンダーの女子高生フアド17歳が寮で自殺。スカート姿で登校したところ、生徒課の責任者から「あなたのためを思って言うのだけれども、みんながみんな、あなたが女性の服装で学校に来ることを受け入れるとは限らないのよ」と、注意を受けた。生徒は「性的自認は自由であることを理解しない人たちを教育すべきであって、私が注意をされるべきではない」と答え、口論になったことを苦にしてと考えられている。

左派日刊紙リベラシオン紙は、フランスでは約1万5千人のトランスジェンダーの人々が暮らしていると報ずる。2015年、そのうち85%の人々が暴力被害を受けたことがあると明かしているが、前述のSOS homophobieが発表した『フランスにおけるL G B T +差別に関する統計』も、「特にトランスジェンダーに対する差別が年々増加」と警告している。

女子ラグビーにトランスジェンダー選手参加が認められる

一方、フランス・ラグビー連盟はトランスジェンダー女性選手の女子ラグビー競技参加を認めると発表した。これは2020年、ラグビーの国際的統括団体である国際ラグビー連盟が「国際レベルの女子ラグビーでは体格、力、パワーそしてスピードが危険度やパフォーマンスを左右するので、トランスジェンダー女性選手の参加を推奨しない」としたガイドラインに真っ向から反対した決定だ。フランスの数あるスポーツ連盟のなかでも、トランスジェンダー女性選手の女子競技への参加を認めた最初の例であるが、市民籍の性別を女性にし、1年間のホルモン治療を受けることが条件となっている。

フランスのトランスジェンダー女性選手は、今のところアレクシア・セレニス選手(35歳)がいるのみ。「男性の身体を持って生まれたトランスジェンダー女性は身体が大きいから女子ラグビーには危険という議論は間違っている。だって、私のクラブには体重120kgのシスジェンダー女性選手だっていますよ。男子ラグビーも、女子ラグビーもみんなそれぞれ体格が違う人が集まって一緒に競技をするんです。女子ラグビーやりたいというトランス女性は数人知っているけれども、まだ、タブーですね。なかなか踏み切れるものではない」と言う。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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