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外出禁止令6週目のフランス。49%のカップルが通常時よりも家事分担について口論。

プラド夏樹パリ在住ライター
ロックダウン下での家庭での口論、一番の理由は子どもの教育。(写真:ロイター/アフロ)

Covid 19感染防止を目的とした外出禁止令が発布されて6週間目に突入したフランスでは、他の犯罪・軽罪は減少したが、パートナーや子どもに対するDVが増えている。マルレーヌ・シアパ男女平等・差別対策担当大臣は 3月末、パートナーに対する暴力DVが32%から35%増加したと発表した。また、子どもの虐待をなくすために活動するアソシエーション「La Voix de l’ enfant」の調べでは子どもに対する暴力は30%増加しているということだ。

「暴力を振るいそうな」人への相談窓口も

3月29日、宿題に必要な教材を家に忘れてきたという理由で6歳の男の子が父親に殴られて転倒、テーブルの角に頭を打って亡くなった。4月5日、パ・ド・カレー県では男性が妻と11歳の息子、16歳の娘を刺し殺した。4月17日、マルヌ県で、反政府運動黄色いベストのリーダー格だった男性が、8歳の娘の目前で元妻に刺し殺された。

DV被害者に対しては、24時間体制で、電話、ショートメッセージ、メール経由で相談を受け付けるプラットフォームがあるが、4月6日には、「今にも暴力に走りそうな人」にアドバイスする電話相談窓口もできた。

「殴らないでください、アドバイスを受け、あなたの家族を暴力から守ってください」というもので、スタートしてから10日間で100人以上が電話をしてきたと言う。 良いアイディアとは思うが毎日9h時から19時のみで、アルコールに溺れる人が多い夜間に連絡できないところが残念だ。フランスでは2018年、約1万9000人がパートナーに対する暴力で刑罰処分になっており、そのうち男性は96%。

一番多い口論の原因は「子どもの教育」に関して

Ifop(フランス世論研究所)は、3月21日から23日にかけて3011人の国民に対してネット上で「外出禁止令下での生活について」という統計を行なった。

これによると、外出禁止令下で同じ屋根の下で暮らしている人の人数は平均して2.6人。一番多いのは2人暮らしで36%だ。独り住まいで暮らしている人は27%、3人暮らしが16%。

・ 家事を理由にした口論をする人は49%に上昇

パートナーと暮らす人を対象とした、「外出禁止令下で家事を理由に口論しましたか?」という質問には、yesと答えるのは49%。通常は44%なので、やはり少々上昇している。51%は「全く口論しない」と言う素晴らしい人々。「絶え間なく口論する」と言う人々が3%。

「よく口論する」と答えた人々の中で、年齢層で一番多いのは、18歳から24歳の若年層。やはりカップル生活の経験が少ないので喧嘩になってしまうらしい。年と共に穏やかになるのか、65歳を超えると5%のみ。

また、経済的理由も無視できない。「よく口論する」と答えた人々のうち38%が一人あたり月額894ユーロで暮らしている貧困層のカップルだ。政治的には、極左の人々の方が男女平等に敏感なのか、31%とダントツ。

ところで、マルレーヌ・シアパ男女平等・差別対策担当副大臣はTwitterに「男性と女性では外出禁止令下での生活条件は違う」と投稿した。その中で、96%の男性が家事分担に満足していると言っているが、実際には3分の1のカップルが家事を理由に口論しているという男女間の意識のずれを表す統計(普通時)について言及している。

家事についての口論など瑣末なこととは言えない。家事を発端にしたカップル間の口論とDVには深い関係があるからだ。家事についてしばしば口論した女性のうちDVの被害者は30%、家事についての口論をまったくしなかった女性のDV被害率は1%。

・ 学童を持つ親の口論の理由は?

学童を持つ親のうちで起きる口論の原因といえば、一番多いのが当然のことながら子どもに関係した事柄だが、通常より口論が増えたらしい。

教育法の違いによる口論が増えた:34%

子どもがパソコンの前で過ごす時間についての口論が増えた:29%

どちらが多く子ども面倒を見たかでの口論が増えた:27%

子どもがパソコンの前で過ごす時間について口論した人に関しては、庭がない家に住んでいる人が76%、大都市中心の住民が53%と断然多い。不思議なことに、両親の学歴や収入にはあまり関係がないようだ。

・ イライラする理由は?

外出禁止令下での生活も、最初の頃は、「家の中が片付いた」、「スローライフも悪くないねー」と言う人々もいた。しかし1ヶ月過ぎた頃から、私の周りでは「おかしくなりそう」、「生理が止まった」、「睡眠導入剤がないと眠れない」、「動悸がする」という声が聞こえるようになった。

ところで上記のifop統計によると、カップル生活をしている人々を対象にした「外出禁止令下で通常よりもイライラしますか?」という質問に、41%の人がYesと答えている。

そしてその理由といえば、

通常より同居人に仕事を邪魔される:29%

就寝時間など、同居者との生活リズムの違いが通常より気になる: 22%

プライバシーの欠如が通常より気になる:17% (カップル生活をしている人では75%)

隣人の騒音が通常よりうるさい:11%(カップル生活をしている人では68%)

通常より自殺願望が増加したり、鬱気味:11% (カップル生活をしている人では79%)

以上のように、カップルで暮らすのは楽しいこともある反面、それなりにストレスの原因となる。また、貧困層(一人あたり収入894ユーロ以下)の55%、富裕層の26%、また庭のない家に住んでいる人々の67%が「以前よりストレスを感じている」と答えているので、経済的な理由や環境は大きい。

もちろん、こうした精神的な苦痛から逃れるために、警察の監視の目を逃れて外出禁止令を無視する人々は多くなってきている。今日の、フリーペーパー日刊20minutesでは外出禁止令を破って友だちに会いに行った人々に関するインタビューを発表した。

筆者も昨日、オープンカーに乗った若者が大騒ぎしながら走り去ったのを見かけ、「?」と思った。しかし、これだけ天気が良いのに若者に6週間家に籠っておれというのは無理である。4月15日、ブルターニュ地方のレンヌ市近郊では、バーベキューをしていた25人が見つかり、それぞれ135ユーロの罰金を課せられたそうだ。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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