Yahoo!ニュース

日本人パートナーによる実子連れ去りが国際問題に

プラド夏樹パリ在住ライター
子どもの連れ去りイコール誘拐か?(写真:アフロ)

子ども連れ去りイコール誘拐か?

この8月、実子を日本人パートナーに連れ去られた母親1人と父親9人(そのうち3人はフランス人)が、パリの弁護士事務所Zimeray-Finelleのジェシカ・フィネル弁護士を通して、日本において子どもの権利が侵害されているので介入するよう、国際連合人権理事会に申し立てた

同弁護士が発表したところによると、日本では年間約15万人(子どもの人権保護に努めるNPO団体、絆・チャイルド・ペアレント・ユニオン発表の数字)の日本国籍および日本と他国の二重国籍の子どもが片方の親によって連れ去られている。もう一人の親は、時には何年間も子どもと会うことができない状況にあり、これは「子どもの権利に対する侵害」にあたるというのがその理由だ。

日本人妻に子どもを連れ去られたフランス人パパたち

フランスで日本での子どもの連れ去りが大きく報道されたのは、今年3月、国営テレビ局・フランス2の番組「日本、誘拐された子どもたち」によってだった。

日本人妻に子どもを連れ去られたフランス人男性2人(一人は日本在住、もう一人はフランス在住)が、日本で子どもを探す様子を追ったフィルムだ。

そのうちの一人であるステファンさんが、子どもにプレゼントを持って元妻の実家を訪れるが面会を許されず、権利を強く主張した挙句、警察に連行されてしまうシーンもあった。この番組のナレーションでは、「フランス人男性約100人近くが、日本人パートナーに子どもを誘拐された」、「2010年以来、子どもを誘拐されたフランス人男性2人が自殺した」などと語られている。

日本では子どもの教育はどちらかというと母親の役割と考えられており、夫婦仲が悪くなると、妻が子どもを連れて実家に帰るというのは珍しくないのかもしれない。連れ去りに関して警察や裁判所は「プライバシーだから」と介入しないし、単独親権制なので、結局は妻が親権を得る場合が多いらしい。

しかし、今、それは日本国内だけの問題ではなくなってきている。近年、国際結婚が増えており、フランスのように共同親権制の国では、子どもの「連れ去り」イコール「誘拐」とみなされる。もう一人の親が子どもと会うことを阻止するのも、「子どもに対する虐待」と判断されかねない。「国連子どもの権利条約9条」で、すべての子どもには親と引き離されない権利が、また何らかの理由で引き離されても会ったり連絡する権利が保障されているからだ。つまり、「日本では実子の誘拐と虐待が容認されている」と解釈されてしまう。

日本の単独親権制ゆえに子どもに会えなくなる外国人の親たち

8月17日のLe Parisien 紙には「日仏ダブルの子どもをもつ母マリーン、親権を得るための戦い」というタイトルの記事が出た。マリーンさんは日本人男性と結婚し日本で暮らしていた。最初はラブラブだったが、その後は夫からちょっとした言葉の暴力を受けるようになり、そしてルイ君(現在4歳)が生まれると、夫婦仲はさらに悪化。夫は身体的な暴力もふるうようになった。

2014年、マリーンさんは夫と話し合い、しばらく距離を取ることに決め、フランスに3ヶ月の予定でルイ君を連れて帰国した。ところが、フランスで医師の診療を受けた際に夫の暴力について話すと、「日本には戻らないほうがいい」と言われ離婚を決意。マリーンさんは離婚手続きを始めた。

しかし、夫も黙ってはいない。「子どもの誘拐」という理由でマリーンさんを訴えた。日本もフランスもハーグ条約(注)に批准しているからだ。

(注)ハーグ条約:一人の親が、もう一方の親の同意なしに16歳未満の子どもを連れて加盟国間の国境を越えた場合、子どもは元の国に戻すということを定めた条約

そのため、マリーンさんの訴えに対して、フランスの裁判所では2度にわたって「子どもは日本に返すこと」との判決を下した。その後、最高裁はその判決を無効とし、再審されることに。そして今年の7月に、控訴院で再び「子どもは日本に返すこと」という判決を受けた。

しかし、日本は単独親権制なので、ルイ君が日本の父親の元に帰れば親権は父親のものになり、マリーンさんは2度と子どもに会うことができなくなる可能性もある。面会するにしても、日本に長期滞在するのにはビザが必要だ。取得できなかったらどうする? 以来、マリーンさんと友人たちは署名運動を始め、フランスの下院、上院、大統領官邸にも手紙を送った。マリーンさんは、今後、欧州連合司法裁判所に訴えることになるかもしれないと語っている。

2018年3月には、欧州連合加盟国26カ国の在日大使が日本の法務大臣に子どもの権利保護のために早急な措置を求めた。また、6月26日、G20大阪サミットに参加するために日本を訪れたフランスのマクロン大統領は安倍晋三首相に、日本人パートナーに子どもを連れ去られて苦しむフランス人の親たちの置かれた状況について語り、「受け入れがたいことだ」と話した。

もちろん、 子どもを連れ去る側には、パートナーとの不仲や暴力などそれなりの理由もあるのかもしれない。しかしそれでも、単独親権制は、人の移動が増えるこれからの国際社会には適応しないように思える。 親同士のパートナー関係は終わっても親子の関係は続く、そのように考えることはできないだろうか?

※8月24日、一部修正しました。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

プラド夏樹の最近の記事