ノートルダム大聖堂が燃えた日 パリ市民の声と悲痛な思い

850年の歴史を持つノートルダム大聖堂の尖塔と屋根が墜落した(写真:ロイター/アフロ)

昨晩18時50分、パリのノートルダム大聖堂の屋根裏から発火した。火が収まったのは午前3時45分。あと15分遅ければ全てが崩壊したそうだ。それにしても不思議なのは、祭壇の上の屋根が落ちたのに、祭壇上の十字架はそのままだったこと……

涙、涙

昨晩、大聖堂近くには多くの人々が集まり、崩れ落ちていく大聖堂を見守っていた。アベマリアを歌う人、ただ静かに涙を流す人……

我が家では燃える大聖堂の画像を前に、たまたま食事に来ていた姪と私の夫が抱き合って泣き、夜通し目を赤くし鼻水を垂らして過ごした。

姪は美術に造詣は深いもののまったく宗教的教育を受けたことがない人である。パンクなので頭を剃って身体のいろんなところにピアスをくっつけ、道ですれ違ったら怖いような化粧をしているが、「ノートルダム大聖堂は私の青春そのものだったのに!わかる?」と泣きながら繰り返している。

夫は子どもの頃はカトリック系の学校に通って宗教教育をしっかり受けたが、その反動で、キリスト教アレルギーにかかってしまった人である。こちらも、普段は僧侶層の悪口ばかり並べ立てている人だが、「ボ、ボクたちの聖母マリア様が」と柄にもないことを言ってオイオイ泣いているのにびっくりした。

私はといえば、教会でパイプオルガンを弾く仕事をしているし、見習いの頃は、毎週、勉強がてらノートルダム聖堂に通ってミサを聞いていたからもちろん感慨はある。それでも、自然災害や火事が多い国に育った日本人なので、「でも、ものはいつか壊れるし」と諦めをもっていて、少々、彼らとは温度差があったというのが本当のところだ。

心ないtwitterとフェイクニュース

姪は若者らしくひっきりなしにスマホで友人たちと連絡している。しかし、途中で恋人が「ノートルダム聖堂なんてどうでもいいじゃない。ボクはなんとも思わない」というメッセージを送ってきたと言って喧嘩になった模様。「パリで生まれ育ってないからわからないのよ!」と言っているがそういうものか?

そんな中で一番、フランス人を刺激したのはアメリカのトランプ大統領のtweetだ。「消防飛行艇カナディアを使えばいいかもしれない、早くした方がいい!」と言い、テレビの司会者から視聴者までをイラっとさせた。そんな簡単に解決できるものなら苦労はしないよ。飛行機から放水すると、水の重みで聖堂全体が崩壊する恐れがあるから使うことができなかったのに、それに街中に飛行機って何考えてるの!と。

でも、なぜ今?と思う人は多い。この日曜日から教会は、復活祭の前の1週間である聖週間に入ったばかりだ。イエス・キリストのエルサレム入城から十字架に架けられ復活するまでを記念する、教会では一番重要な1週間である。

そのことを考えると、テロ慣れしてしまったパリの住人が「もしかしてまたイスラム国?」と一瞬思うのはごく当然のことだ。また、最近は神父による子どもに対する虐待も問題になって教会は嫌われているしと疑問を持った人も多いだろう。

今朝、スペインに暮らす友人からは、「パリで12の教会が火事で燃えたって聞いたけど大丈夫?」とwhatsappからメッセージが来た。「は?」と思い、ドキドキしながら主要日刊紙のサイトを見るがそのような情報はなし。それが本当ならば同時テロだが、フェイクニュースが出回っているのだなと思った。

発火した屋根の外部分では改修工事のために足場を組んでいた。メトロの中では、「工員がタバコ落としたんじゃない?」とヒソヒソ言っている人がいた。しかし、これだけ重要な歴史記念物の改修工事現場でタバコ吸うってそんなことあるのだろうか? 今朝正午、パリ市検事は「誰かが意図的に火事を引き起こしたとは思えない」と発表した。

ミサは極めて静か

今朝になると、イスラム教徒の友人から外国に住む友人たちから多くのsmsが届いていた。ノートルダム大聖堂はただの歴史記念物ではなく、またキリスト教徒だけのものでもなく、すべてのフランス人とフランスに何らかの愛着を持つ人々にとって大切なものだったのだなと実感した。

久しぶりに正午のミサに行った。いつもより多い人々が座っている。不思議な静謐さ。神父は、「教会は建物ではありません。私たちの心の中にあるのです」と始めた。テレビのインタビューで答えていた修道女も同じことを言っていたが、信仰のある人々の方が案外、感傷的にならないようだ。

一方、マクロン大統領は「この大聖堂を国民全員の力でより美しいものに再建しましょう」と言い、早速、国民に寄付金を募った。今晩、民放TF1では、TotalやLVMHから一日で7億5千万ユーロの寄付金が集まったそうだ。黄色いベストデモでわかるように国民の分断が進んでいるが、これを機会にまた連帯感を取り戻せると良いのだがどうだろう。