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大麻使用に関して一律300ユーロ(約3万8900円)の罰金刑は現実化するか?

プラド夏樹パリ在住ライター
10月17日、カナダで嗜好品としての大麻の販売と使用が合法化された(写真:ロイター/アフロ)

欧州では異例の厳格さ

10月17日、カナダで嗜好品としての大麻の販売と使用が合法化された。外務省在バンクーバー日本国領事館は、日本人旅行客に「手を出さないよう」と、注意をしているらしい。

一方、私が暮らすフランスも大麻を厳しく取り締まる国である。1970年法により、使用は3750ユーロ(約48万円)の罰金プラス禁固刑1年、所持では750万ユーロの罰金プラス禁固刑10年、栽培では20年の禁固刑までと定められているというから震え上がるが、実際には、ここまで適用されることは少ない。所持者の2/3は、中高生なら警察署で説教される、親に小遣い減額と外出禁止を言い渡される、成人なら罰金、そして警察から紹介された依存症サイコセラピストとのセッションに通って終わりである。

また、大麻を含む医療品として、Sativexという多発性硬化症の痛みを和らげるスプレー状のものが2014年に販売許可を得たが、こちらも実際には、まだ売り出されていない。THC(大麻に含まれるテトラヒドラカンナビノール。陶酔作用がある)が0.2%以下のものを販売するコーヒーショップも、一時期流行ったが、この夏、強制閉店の憂き目をみた。

ところで、大麻に対するこの厳格さは、欧州でも異例のことだ。現在、欧州で大麻を合法化しているのは17カ国、医療目的に合法化しているのは12カ国である。例えば、オランダは1976年から販売と使用を解禁している。スイスは2011年からTHCが1%以下のものなら合法。スペインはプライベートな場での使用は合法だが、公共の場での所持と使用は禁止されている。多くの国でそれぞれの枠組み内での使用を合法化されている。

欧州で一番、使用者が多い国

一方、フランスは全面的に非合法でありながら、その反面、欧州でもっとも使用者が多い国でもある。パーティーなどで大麻がどこからともなく回ってくることはよくあることで、それだけになんと15歳から64歳の40.9%に使用経験があり(合法化しているスペインでは30.4%、オランダでは25.7%)、140万人が定期的に、70万人が毎日吸っている。

おまけに、1990年には大麻使用・所持・売買での逮捕者数は1万4千人だったが、現在はその10倍、毎年、約14万人が逮捕されている。しかし、そのうちディーラーは10%のみというところがなんとも情けない。試しに吸ってみたというような中学生やら、金曜日の夜にイイ気持ちで道にたむろっている若者を捕まえるなど赤子の手をひねるようなものではないか。そして、ただでさえ滞りがちな裁判所の業務をさらに増やすのでは非効果的であること極まりない。

警察は、ドラッグ取り締まりに毎年120万時間を費やしているということだが、ディーラーを捕らえ、マフィアを壊滅させないのならば、いったいなんの意味があろうか?

もちろん、政府側もこの大麻取り締まり法の無意味さには気づいており、マクロン政権は今年1月、使用に関しては一律300ユーロ(約3万8900円)の罰金刑とする法案を提案すると発表したが、今のところ具体的な動きは何も見えない。

シンクタンク、テラノヴァによれば、毎年、5億6800ユーロが大麻取り締まり業務に費やされているが(逮捕だけで3億ユーロ)、合法化すればタバコ税ならぬ大麻税で総額20億ユーロの収入になる見込みである。無論、未成年者に対して、常吸することの危険性について教育すべきことはいうまでもないが。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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