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酷道ひと筋でまさかのブレイク!CBCテレビ『道との遭遇』で人気の「よごれん」さんって何者?

大竹敏之名古屋ネタライター
酷道に立つ「よごれん」さんこと鹿取茂雄さん(画像提供/鹿取茂雄さん)

テレビにネット、カルチャーセンター講師まで各方面から引っ張りだこ

「よごれん」さんをご存じでしょうか? 酷道(こくどう)愛好家を名乗り、普通の人なら避けて通るような悪路をずんずんと突き進んでいくことを趣味にする人物です。

ちょっと・・・いやかなり怪しげなマニア、よごれんさんが今、まさかの大人気。出演するテレビ番組の視聴率と評価は急上昇。執筆するネット記事は大バズり。登壇するイベントはチケット即完。カルチャーセンターでの講師も好評。超ニッチなジャンルである酷道のスペシャリストが、各方面から引っ張りだこになっているのです。

CBCテレビ『道との遭遇』は人気が全国に拡大

よごれんさんは本名、鹿取茂雄さん。岐阜県在住で、名古屋市で勤務するサラリーマンが表の顔(?)です。

そのよごれんさんを一躍、人気者に押し上げるきっかけとなったのがCBCテレビ『歩道・車道バラエティ 道との遭遇』(火曜深夜11時56分~)です。廃道、廃線跡、秘境の吊り橋や隧道(ずいどう=トンネル)など、実際に現場を進みながら、道の秘密に迫ります。よごれんさんはこれらの道を案内しつつ、地元の人に聞き込みをし、謎をひもといていく探検隊長的な役割を担います。

お笑い芸人ミキがMCを務めるCBCテレビ『歩道・車道バラエティ 道との遭遇』。画像提供/CBCテレビ
お笑い芸人ミキがMCを務めるCBCテレビ『歩道・車道バラエティ 道との遭遇』。画像提供/CBCテレビ

「番組の企画立ち上げ当初は、鹿取さんにはリサーチ、監修をお願いできればと思っていたんです」と明かすのは番組プロデューサーの横山公典さん。「しかし、お会いしてお話をお聞きすると、とても造詣が深く、歴史、構造、文化が複雑に入り組んだ道についてとても分かりやすく端的に解説してくれる。これは絶対に出演していただいた方がいい番組になる!と思ったのです」

よごれんさんのロケの案内人としての魅力を横山さんはこう語ります。「旅のお供としていろんな方と同行してもらうのですが、幼児から道に興味がなさそうなギャル、さらに70代(最年長参加者は『水戸黄門』でおなじみ俳優の伊吹吾郎さん!)まで、どんな人にもその人にとってわかりやすい言葉や内容で説明してくれる。また、現地で出会う人にもとても丁寧に接するので、皆さんテレビだからといって警戒せずにいろんなお話を聞かせてくれる。ほぼ毎回、その道に関する謎が奇跡的に解決するんですが、これは鹿取さんの知識と、現場でのコミュニケーション力によるものだと思います」

番組の人気も高く、同時間帯の世代別視聴率も好調。放送エリアもどんどん増えて、今や北海道や福岡など全国11局で放送されています。

番組発の公開イベントも開催し、4月29日開催のイベントチケットはアッという間に完売。配信もあり。もちろんよごれんさんも出演! 画像提供/CBCテレビ
番組発の公開イベントも開催し、4月29日開催のイベントチケットはアッという間に完売。配信もあり。もちろんよごれんさんも出演! 画像提供/CBCテレビ

異例の講座は受講生の熱量で大盛況

NHKカルチャー名古屋教室では講座「知られざる道の秘密」を担当。酷道がテーマの講座はかなり異例ですが、大好評でシリーズ化されています。

「これまでカルチャーセンターではあまりやっていない講座ができそうだと思い、講師をお願いしました。まずは3回で始めましたが、受講生の熱い要望で継続することになり、現在4期目になります。受講生は男女半々くらいで20~60代まで幅広い。毎回、講座終了後の質問が絶えないほど盛り上がっています」と担当者。

NHKらしからぬ(?)マニアックなよごれんさんの講座。次回は5月10日、6月7日開催で途中からの受講も可
NHKらしからぬ(?)マニアックなよごれんさんの講座。次回は5月10日、6月7日開催で途中からの受講も可

よごれんさんインタビュー! 「酷道」は絶滅危惧道?

こんな風にあちこちで人気、注目度が急上昇中の「よごれん」さん。はたして一体どんな人物なのか? そして酷道、道のどこにそんなに魅力があるのか? 本人を直撃しました!

――よごれんさんは、本業はサラリーマンなのですか?

よごれん「工業薬品メーカーで開発を担当しています。酷道は趣味で、ライターの活動も自分の一番好きな趣味を広めたいと思ってやっています」

よごれんさんこと鹿取茂雄さん。穏やかな物腰の奥に熱すぎる道・愛を秘める。番組でおなじみの軽自動車ソニカをはじめプライベート用、仕事用の3台を乗り分け、年間走行距離は約6万km(!)
よごれんさんこと鹿取茂雄さん。穏やかな物腰の奥に熱すぎる道・愛を秘める。番組でおなじみの軽自動車ソニカをはじめプライベート用、仕事用の3台を乗り分け、年間走行距離は約6万km(!)

――そもそも「酷道」とは? 定義を教えてください。

よごれん「日本の道路の中で、国が重要な路線と指定した最上位にあたる路線が国道です。にもかかわらず未整備のままで状態が酷い道のことを、私は親しみをこめて『酷道』と呼んでいます。ただし、私の造語ではなくて、昭和30年代の週刊誌に既に『酷道』という言葉が記されていて、道マニアの間では以前から使われている言葉なんです」

これぞ“ザ・酷道”! 紀伊半島を横断する三重県~和歌山県の国道425号。一般的に酷道は国道全線のうち一部区間だけだが、ここは延長170kmあまりのほぼ全線が酷道(画像提供/鹿取茂雄さん)
これぞ“ザ・酷道”! 紀伊半島を横断する三重県~和歌山県の国道425号。一般的に酷道は国道全線のうち一部区間だけだが、ここは延長170kmあまりのほぼ全線が酷道(画像提供/鹿取茂雄さん)

――酷道は日本中にたくさんあるのでしょうか?

よごれん「『酷道』はあくまで俗語なので、明確に何路線とは言い切れません。国道は全国に459路線あり、20年前は120カ所くらいの酷道がありました。しかし、現在は60カ所くらいと半減しています

――酷道は絶滅危惧種ならぬ“絶滅危惧道”?

よごれん「今後も減っていくのは間違いなく、長い目で見ればいずれ消滅するのだろうと思います。整備されて“酷”くはなくなったり、バイパスが通って元の路線が県道や市町村道へ格下げされたりするからです。でも、なくなって残念と思うよりも、きれいに整備された道を走りに行くのもまた楽しみだと思うことにしています」

――国道なのに酷道になってしまうのはなぜ?

よごれん「それは国道の始まりから説明しなければなりません。国道制度が施行されたのは明治時代で、最初は東海道や中山道などの街道筋が指定されました。当時は人が通れればよかったので、国道とはいっても未舗装です。それが、モータリゼーションの到来にともない、車が通行しやすいよう舗装化、二車線化と近代化していきました。しかし、交通量が少ないなどの理由で、近代化の波に乗れずに取り残されてしまったものが酷道になったんです

初ドライブで「危険 落ちたら死ぬ!!」の看板が目の前に!

――酷道に興味を持ったきっかけは?

よごれん「今から二十数年前、免許を取って初めてレンタカーでドライブした時のことです。せっかくなので遠出をしたいと思ったのですが、交通量が多い道や狭い道を走るのは不安なので、国道なら大丈夫だろうと考えて、国道157号で愛知県から石川県へ向かうことにしました。ところが、福井県にさしかかるあたりからどんどん道幅が狭くなってきて、ついには『危険 落ちたら死ぬ!!』という看板が現れました。街灯もガードレールもなく真っ暗闇で、崖のはるか下方から川のせせらぎが聞こえてくる。バックして引き返すわけにもいかず、恐怖と緊張に襲われながら、夜通し走って命からがら福井県側のコンビニまでたどり着きました」

よごれんさんを酷道の世界へと引きずり込んだ国道157号の「危険 落ちたら死ぬ!!」看板。残念ながら2018年に撤去されてしまったそう(画像提供/鹿取茂雄さん)
よごれんさんを酷道の世界へと引きずり込んだ国道157号の「危険 落ちたら死ぬ!!」看板。残念ながら2018年に撤去されてしまったそう(画像提供/鹿取茂雄さん)

――普通なら、もうこりごりと思ってしまいそうです

よごれん「確かに酷道を嫌いになりかけました。でも、何ヶ月か後に“トラウマを克服しよう”と同じ道に再チャレンジし、明るいうちに走ってみると、景色はいいし、悪路も怖いけど楽しいなと思えたんです。あらためて、国道なのに酷い道もあるという事実に衝撃を受けて、こういうのも面白いと思うようになりました」

――そこからどんどんのめり込んでいった?

よごれん「当時、友だちとよく仙台まで牛タンを食べに行っていて、せっかくだから毎回異なるルートで酷道を探して走るようになりました。そのうちに牛タンよりも酷道が目的になってしまって。その頃から『TEAM酷道』を名乗るようになり、2004年に当時はまだ珍しかったHPを立ち上げました」

――TEAM酷道のサイトといえば、「エロ本小屋」で一気に注目度が高まりました

よごれん「酷道には廃墟がつきもので、中でも最も印象深かった物件です。小屋の中に大量のエロ本の切れ端が敷き詰められていて、しかも訪れるたびに様子が変化しているんです。その観察の様子を公開したところ、爆発的に記事が読まれ、エロ本小屋や酷道に一緒に行く仲間も増えました。2010年頃に始めて完結するまで5年くらいかかったのですが、小屋の主の居場所を脅かしてしまったのかもしれないと、反省もしています」

よごれんさんはフリーライターとしても活躍。酷道、廃線、秘境などをテーマに数々の著作がある。最新刊は写真中央の『酷道大百科』
よごれんさんはフリーライターとしても活躍。酷道、廃線、秘境などをテーマに数々の著作がある。最新刊は写真中央の『酷道大百科』

ヤラセ、演出なしのガチドキュメンタリーで高視聴率!

――テレビ番組『道との遭遇』で取り上げるのは国道指定の「酷道」だけではありませんね

よごれん「道全般がテーマなので酷道以外にも行きます。そもそも酷道だけを趣味の対象にするのは非常に困難なんです。酷道以外も走らないと酷道へたどり着けないし、酷道と酷道を林道がつないでいたり、脇道に気になるところがあったり。それでも、これまで自分では酷道がメインで、他の道についてはあまり探究できていなかったので、番組のおかげで“どんな道でもおもしろいな”と再発見できてありがたいです」

――番組は毎回とても興味深いですが、特に印象的だったのが三重県の謎の三連ロータリー。山林の一本道にロータリーが三カ所連続であり、最後は行き止まり。つくられた目的がまったく分からない

三重県いなべ市の山奥にひそむ謎の三連ロータリー。大きな木を囲む円形の道路がなぜか3つも続く。番組では2023年3月に放送(画像提供/鹿取茂雄さん)
三重県いなべ市の山奥にひそむ謎の三連ロータリー。大きな木を囲む円形の道路がなぜか3つも続く。番組では2023年3月に放送(画像提供/鹿取茂雄さん)

よごれん「地域の人に聞き込みをし、少しずつ全貌が明らかになっていきました。山林を4つの町で区分けして管理していて、その境界線として昭和20年代に一直線の道路をひき、さらに1980年代によりわかりやすい目印としてロータリーをつくったということでした。調査を重ねることで、地元でも忘れられかけていた事実が明らかになって、自分でも感動しました。文春オンラインにも記事を書き、無茶苦茶読まれました」

――バラエティといいながらドキュメンタリーですよね

よごれん下調べもロケハンもせず現地へ行って、ガチで調査・取材しています。カメラは私の取材に同行しているというスタンスで、演出もヤラセもありません。じわじわ真相に近づいていき、驚きと発見があるのが楽しいし、そこが視聴者にも伝わっているんじゃないかと思います」

――番組中、いつも着用しているスーツがトレードマークになっています

よごれん「きっかけは15年ほど前に山奥の廃線跡を探索した時のこと。通勤に使われていた路線だったので、当時の住民と少しでも同じ気持ちになれるようスーツで行ったんです。ここから毎日会社に通っていたんだ、と実感できました。それに、スーツって機能的で汚れも目立たないし探索に向いているんです。廃道の周辺でうろうろしていると怪しい人だと警戒されがちですが、スーツなら相手に安心感を与えて聞き込みもしやすいですし」

今やユニフォームとなっているスーツ。廃線を探索する際、往事の鉄道利用者の気持ちを追体験しようと着用した。場所は三重県津市の近鉄東青山駅跡(画像提供/鹿取茂雄さん)
今やユニフォームとなっているスーツ。廃線を探索する際、往事の鉄道利用者の気持ちを追体験しようと着用した。場所は三重県津市の近鉄東青山駅跡(画像提供/鹿取茂雄さん)

道ビギナーにアドバイス。道を楽しむ方法

――道に興味を持ったけど酷道に行くのはハードルが高い、という人も多いはず。そんな道ビギナーが道を楽しむには?

よごれん「まずは道を見ることです。ほとんどの人は、毎日歩いている道も視界には入っているのに実は見ていない。毎日見えている景色を意識して見るだけで、面白いことや発見があるものです」

――具体的な見るポイントは?

よごれん「例えば道路の素材。全国の車道はほとんどがアスファルトなんですが、名古屋はコンクリート舗装が多い。コンクリートは費用もかかるし、道路が広くないとできない。そこから名古屋は財政が豊かなんだな、と想像することができる。交差点の角も面白い。皆さん直角だと思っていますが、視認性を確保するために隅切りになっていて、建物もそれに合わせて角が丸くなっていたり、隅切りの場所に玄関を設けていたりといろんな工夫が施されています。“角のたばこ屋”って昔よくあったじゃないですか。あれは角の隅切りに合わせて店をつくればどの方向からでもよく見えて、だから角にはたばこ屋が多かったというのが私の持論です。歩道と車道の境界線に注目すると、思わぬ発見があります

――道以外にも興味が広がるんですね

よごれん「道路は道路を通すこと自体が目的ではなく、どこかへ行くために通すもの。ですから周辺の都市開発や宅地、産業などにも視野を広げて初めてその道路がつくられた目的が分かる。道以外の分野にも発展しやすい趣味なんです」

――身近なところに謎が潜んでいるものなのですね

よごれん「なぜあるのか分からない構造物っていっぱいある。でも、すべてお金と時間をかけて設置してあるわけですから絶対に何か理由はあるんです。その理由を自分なりに想像してみる。全然、正解じゃなくていいんです。自分なりの解釈をしていくのが楽しいし、それをくり返していくとだんだん正解に近づく確率も高くなります」

――スペシャリストのよごれんさんでも、道はまだまだ発見があって面白い?

よごれん「面白いです! 国内だけでも道は無限にあるし、同じ道でも日々進化、変化するので行きつくして飽きるということがない。常に100カ所くらいは行きたい道があるんですが、1カ所行くと周りに3つくらい気になる道が見つかって、行けば行くほど行きたいところが増えちゃうんです。どこへ行ってどんなことが起きても楽しい。道は終わりのない趣味なんです!!

◆◆◆

誰もが日常的に利用している道。でも実は謎がいっぱいの道。あまりにも身近なのに分からないことだらけ。すべての人に入り口が開かれていて、いったん入り込むと底なし沼のように深い。その道先案内人として、わかりやすく、興味深く紹介しているからこそ、よごれんさんに今注目が集まっているのではないでしょうか。道、そして酷道への文字通り「道」はあなたの目の前に存在しているのです。まずは近所のお散歩からでも、道への興味を一歩踏み出してみてはいかがでしょうか?

(写真/よごれんさん近影、書籍写真は筆者撮影、番組関連画像はCBCテレビ提供、他は鹿取茂雄さん提供)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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