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「小倉トーストの日」制定へ普及委員会が発足。野望は名古屋めし界の下克上!

大竹敏之名古屋ネタライター
小倉トースト普及委員会の阿部充朗さん、高野仁美さん。名古屋市中区「喫茶七番」にて

意外や古い小倉トーストの歴史

名古屋めしのひとつ、小倉トースト。その普及を目的とする“小倉トースト普及委員会”がこのほど発足しました。メンバーは喫茶店経営者とあんこ大好き女子。「小倉トーストの日」制定を第一の目標に始動した彼らの野望とは—?

まずは小倉トーストの基礎知識から。小倉トーストとは、バター(またはマーガリン)トーストにあんこを組み合わせた名古屋生まれの喫茶店グルメ。発祥は意外や古く、大正10年頃。当時、名古屋市中区にあった甘味喫茶「満つ葉」(まつば ※現在は閉店)で、常連の学生がぜんざいにトーストをひたして食べていたことをヒントに考案されたと伝えられます。現在では、愛知県内の喫茶店では実に8割近くが採用しているといわれます

オーソドックスなサンドイッチ式の小倉トースト。きつね色にこんがり焼いたトーストにバターを塗りたっぷりのあんこをはさむ。写真は「喫茶モカ」(名古屋市中区)
オーソドックスなサンドイッチ式の小倉トースト。きつね色にこんがり焼いたトーストにバターを塗りたっぷりのあんこをはさむ。写真は「喫茶モカ」(名古屋市中区)

珍奇なメニューから“映える喫茶スイーツ”へ

100年以上もの歴史があるこの小倉トースト。しかし、ひと昔前までは他地域からは風変わりなもの…いやもっと率直にいうと“ゲテモノ”と見られがちでした。「何でトーストにあんこを乗せるの?」「名古屋の食はやっぱり変わってる」…、そんなふうにいわれることが珍しくなかったのです。

ところが、近年は風向きが一変。小倉トーストを目当てに喫茶店に観光客が列をなすことも珍しくなくなり、自家製あんをつくる喫茶店が増えるなど、評価も、商品力も、ググッっと高まってきているのです。

その要因のひとつが全国的なあんバターの流行。2010年代半ば頃から、パンにあんこと固形バターをはさんだあんバターがベーカリーを中心にトレンドグルメとして注目されるようになりました。(関連記事:「『小倉トースト』の逆襲!話題の『あんバター』のルーツは名古屋」 2022年2月10日)

また、かつては風変わりと見なされがちだった名古屋の食が、個性的なご当地グルメとして受け入れられるように。中でも昔ながらの喫茶店で食べられる小倉トーストは、レトロ喫茶の人気ともあいまって“映えるスイーツ”として若者たちの間でも人気を博すようになってきたのです。

“映える小倉トースト”No.1「コーヒーハウスかこ花車本店」(名古屋市中村区)のシャンティールージュスペシャル。自家製のあん、クリーム、コンフィチュール(ジャム)をトッピング。味ももちろん二重丸!
“映える小倉トースト”No.1「コーヒーハウスかこ花車本店」(名古屋市中村区)のシャンティールージュスペシャル。自家製のあん、クリーム、コンフィチュール(ジャム)をトッピング。味ももちろん二重丸!

怪しい…もとい甘やかな組織「小倉トースト普及委員会」を直撃!

そんなふうに今まさに“来ている”小倉トーストをより盛り上げようと立ち上がったのが小倉トースト普及委員会です。一体どんな思いで始動したのか? 委員長の高野仁美さん、副委員長の阿部充朗さんにお聞きしました。

――小倉トースト普及委員会発足のきっかけは?

副委員長の阿部充朗さん(以下「阿部」)「昨年6月にオープンした『喫茶七番』で、小倉トーストのイベントを計画し、その中で『小倉トーストの日を制定する』という案があったんです」

委員長の高野仁美さん(以下「高野」)「それを提案したのが私です。でも、他の『小倉トーストバイキング』『インフルエンサーのイベント』などの案のおまけのつもりでした。“こんなことできたら面白いかも…”という軽い気持ちで出したところ、阿部さんが“これは内々のイベントをやるだけではもったいない。東海地方に広げるくらいの勢いでやってみよう!”と乗り気になってくれたんです」

委員長の高野仁美さん。前職は業務用パンメーカー広報。喫茶店支援を目的とするプロジェクト「小倉トースト100変化」の発起人の1人としても奮闘。日本あんこ協会認定・あんバサダーとしてあんこの普及にも努める
委員長の高野仁美さん。前職は業務用パンメーカー広報。喫茶店支援を目的とするプロジェクト「小倉トースト100変化」の発起人の1人としても奮闘。日本あんこ協会認定・あんバサダーとしてあんこの普及にも努める

スタンプラリーで小倉トースト1万食を目指す!

――今年2月に晴れて小倉トースト普及委員会が発足。当面の活動内容は?

高野「さしあたっての大きな目標は『小倉トーストの日』制定。今年の9月10日の制定に向けて気運を高めるために『小倉トーストスタンプラリー』を開催し、合わせて会員募集やクラウドファンディングによる資金調達を進めます」

小倉トースト普及委員会のロゴマーク。9月10日(オグトー)を「小倉トーストの日」にすべく、日夜美味しいあんこを求め、あんこを食すのが会員の使命だ(!?)
小倉トースト普及委員会のロゴマーク。9月10日(オグトー)を「小倉トーストの日」にすべく、日夜美味しいあんこを求め、あんこを食すのが会員の使命だ(!?)

――スタンプラリーの具体的な内容は?

阿部「4月末~6月末の予定で30店舗以上を集めて行いたいと思っています。これを機にいろんなお店の小倉トーストを食べてもらいたい。目標は1万食達成です!」

――小倉トースト1万食とはずい分大きく出ましたね(笑)

阿部「『喫茶七番』では小倉トーストがめちゃくちゃ出るんです。その数、月間約400食(!)。30店舗以上×2か月ですから、十分可能な数字だと考えています」

――普及委員会という組織を立ち上げたからには「小倉トーストの定義」を設ける必要がある。会が定める定義とは?

阿部「そこはかなりゆるく考えています。一般的には“小麦を原料にイースト発酵したもの=パン+小豆を炊いたもの”となるのですが、米粉を使ったり発酵をともなわなかったり、例えばスコーンにあんこをはさんだものでもいい。極端な話、お店の人が“これがうちの小倉トーストです!”と考えたものならいい(笑)」

副委員長の阿部充朗さん。「喫茶七番」共同経営者。喫茶店の経営、プロデュースなど数々の人気店を手がける。「委員会、スタンプラリーには個人店から大手チェーンにまで参加してもらいたいと思っています」
副委員長の阿部充朗さん。「喫茶七番」共同経営者。喫茶店の経営、プロデュースなど数々の人気店を手がける。「委員会、スタンプラリーには個人店から大手チェーンにまで参加してもらいたいと思っています」

野望は名古屋めしランキング1位!

――昨年行われたWeb投票「1億人のなごやめし総選挙2022」で小倉トーストは6位。この順位をどうとらえていますか?

高野「名古屋めしってたくさん種類があるのでその中で6位ってスゴい、という声もありますが、私としては全然納得していません(笑)。せっかくなら1位を目指したいです!

――名古屋めしの過去の人気投票では味噌カツ・味噌煮込み・ひつまぶし・手羽先が常に4強でゆるぎない。かなり手強いですが、ここに割って入るための策は?

阿部「最近はベーカリーのあんバターなど、小倉トーストに類似するメニューや商品が増えていて、コメダ珈琲店などモーニングサービスであんこをつける喫茶店もある。それらの連合軍で支持を集めれば十分戦えると思います!

――ちょっと反則っぽい気もしますが(笑)。しかし、基本的には小倉トーストは喫茶店メニューとして広まり、根づいてきたメニューです

阿部「ランキングなどのイベントごとでは周囲もまき込んで盛り上げられればと思っていますが、小倉トースト普及委員会の最大の目的は、名古屋、愛知の喫茶店文化をもり立てることなんです。地元の40代以上だと家族で喫茶店に行った原体験がある人が少なくありませんが、若い世代の間ではその体験が薄れている。また喫茶店メニューの中でパンメニューは軽視されがちで、さらにはモーニングに力を入れる店は増えたが小倉トーストはまだまだ、と感じます。名古屋、愛知の生活に根ざした喫茶店文化をこれからも継承していくためには何かしらアクションが必要で、小倉トーストはその有効なフックになると思うんです」

「1億人のなごやめし総選挙2022」(主催/なごやめし普及促進協議会)はのべ15万人以上が投票。小倉トーストは6位にランクインし、2015年の同様の人気投票での12位から大きく順位を上げた
「1億人のなごやめし総選挙2022」(主催/なごやめし普及促進協議会)はのべ15万人以上が投票。小倉トーストは6位にランクインし、2015年の同様の人気投票での12位から大きく順位を上げた

理想の小倉トースト、美味しい小倉トーストの味わい方とは?

――おふたりが考える理想的な小倉トースト、さらには喫茶店での美味しい小倉トーストの味わい方を教えてください

阿部「古い喫茶店では、薄切りの2枚ではさんだサンドイッチタイプが多く、しっかり目に焼いたカリカリのトーストにたっぷりのあんこをはさんだものが名古屋らしいと感じます。ハードトーストを使う店はあまりないんですが、『喫茶七番』ではあえてハード系を使っていて、あんこには軽い口当たりのトーストが意外と合うんです。でも、厚切りで出す店も大体イケるんですよね(笑)」

高野小倉トースト向けのあんこは和菓子用とはちょっと違うんです。みつを加えたみつあんだと柔らかくてパンに塗りやすい。あんこをガムシロップでのばしているお店もあります。あんこのタイプに注目すると食べ比べも楽しくなります」

阿部小倉トーストの甘さには深煎りの苦めのコーヒーが合う。名古屋の喫茶店はこのタイプのコーヒーが多く、だからこそ小倉トーストもここまで広まり愛されてきたともいえます。コーヒーを重視してお店を選ぶのもお勧めです」

「喫茶七番」の小倉トーストは高野さんがメニュー開発。業務用メーカー・永楽堂(名古屋市瑞穂区)のパンは愛知県産小麦を使いさくっと軽やか。舘林製餡(名古屋市北区)のみつあんは粒感とみつのしっとり感が絶妙
「喫茶七番」の小倉トーストは高野さんがメニュー開発。業務用メーカー・永楽堂(名古屋市瑞穂区)のパンは愛知県産小麦を使いさくっと軽やか。舘林製餡(名古屋市北区)のみつあんは粒感とみつのしっとり感が絶妙

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「目標は『小倉トーストの日』制定!」なんてちょっとおふざけっぽい?…と思いきや、若いながらも長く喫茶店にかかわってきた発起人2人の思いは深く、そして野望は遠大なのでした。名古屋の喫茶店文化にとって、モーニングサービスに負けないほど重要な存在になり得る小倉トースト。この気運の高まりで、より多くの店でさらにおいしい小倉トーストを食べられるようになれば、喫茶店はいっそう活気づき、やがては小倉トーストが名古屋めし界の王座に就く…かもしれません(!?)

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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