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観光客が1/3に激減した名古屋城。新レストランなど魅力アップで復権なるか?

大竹敏之名古屋ネタライター
名古屋のシンボル・名古屋城。ライトアップで夜空に金シャチが映える

毎年200万人以上を集客もコロナ禍で観光客は1/3に

名古屋随一の名所、名古屋城。徳川家康の大号令の下、1610年、天下の巨城として築城されました。太平洋戦争時の空襲で残念ながら天守は焼け落ちてしまいましたが、市民らの熱い思いもあり焼失から14年後の1959(昭和34)年に再建。今も江戸時代に築かれた石垣や隅櫓(すみやぐら)などが数多く残る他、江戸時代の美術工芸の粋を究めた本丸御殿も2018年に完全復元されて人気を集めています。

名実ともに名古屋のシンボルの座は揺るぎなく、毎年200万人以上が訪れていました。ところが、コロナ禍によって観光客は激減。2019年=約220万人→2021年=約68万人と、1/3以下になってしまいました

もともとは観光都市ではなかった名古屋ですが、2000年代以降はこの分野にも力を入れるようになり、観光入込客延べ人数は2006年=5317万人→2019年=7299万人と10年あまりで4割近くもアップしていました。しかし、コロナショックでこの数字は2020年=3162万人と6割近くも大幅減。落ち幅は名古屋城の減少率とほぼリンクしています。この落ち込んだ観光需要を再浮上させるためには、シンボルである名古屋城に人出を呼び戻すことが欠かせません。

夜桜を名古屋の名物に。「名古屋城春まつり」が開催中

名古屋城は約1000本の桜が咲き誇る市内屈指の桜の名所でもある。「名古屋城春まつり」内企画「桜まつり」は4月10日まで。ライトアップされ19時半まで入場可(20時閉門)
名古屋城は約1000本の桜が咲き誇る市内屈指の桜の名所でもある。「名古屋城春まつり」内企画「桜まつり」は4月10日まで。ライトアップされ19時半まで入場可(20時閉門)

少しずつ町ににぎわいが戻りつつあるこの時期、名古屋城でも新たな魅力を発信する企画や施設が相次いでいます。

2022年3月19日~5月5日のおよそ1カ月半にわたり開催されているのが「名古屋城春まつり」です。会期前半の目玉が城内の桜のライトアップ。夜桜と城が夜空に浮かび上がり、幻想的な景観を楽しめます。

名古屋グルメなどを多数集めた「鯱食堂」も城内で営業
名古屋グルメなどを多数集めた「鯱食堂」も城内で営業

名古屋城の夜桜を名古屋の見どころのひとつにしたいと思っています」というのは同祭の企画運営を担当するクーグート(名古屋市)の榎本紀久さん。「今年のライトアップは、桜や周辺の樹木の美しさをより立体的に見せるために、下から照らすだけでなく、高さ5mのオブジェを設置して樹木の上部からも面的に光を当てています。光の色も2色を使い、花木の陰影と奥行きを演出しています」と、魅力アップに取り組んでいます。

老舗3社がコラボした和のグルメスポット「蓬左」がオープン

「蓬左」は会席料理、カフェ、食のセレクトショップが一堂に会した複合型フードホール。名古屋城正門を出てすぐの名古屋能楽堂内にある
「蓬左」は会席料理、カフェ、食のセレクトショップが一堂に会した複合型フードホール。名古屋城正門を出てすぐの名古屋能楽堂内にある

名古屋城に隣接する名古屋能楽堂内には、新たな飲食施設「蓬左<hōsa>」が3月18日オープンしました。同店は江戸時代創業の仕出し料理店「八百彦本店」、尾張徳川家の御用菓子司をルーツにもつ和菓子店「菓匠 花桔梗」、熱田神宮の宿場町で創業した水産業の屋号を受け継ぐ「和む菓子 なか又」、3つのブランドのコラボ店。会席料理や名古屋のソウルフード・きしめん、和菓子のセットなど、カジュアルでもフォーマルでも、イートインでもテイクアウトでも利用できる複合型店舗になっています。

名古屋城をモチーフとしたスタンドに和のデザートが美しくレイアウトされた「和フタヌーンティー」。1人分4400円で写真は2名分。要予約
名古屋城をモチーフとしたスタンドに和のデザートが美しくレイアウトされた「和フタヌーンティー」。1人分4400円で写真は2名分。要予約

金シャチ横丁に巨大な原寸大金シャチが登場!

名古屋グルメを集めた「金シャチ横丁」には新しい土産物店「鯱上々」がオープン。名古屋城のシンボル・金シャチのグッズやアイテムを多数揃える他、店内に巨大な金シャチが! これは天守の復元に先駆けて仏師が手がけた原寸大の彫刻で、長らく名古屋城の正門横に展示してあったもの。買い物のついでに気軽に記念撮影できるフォトスポットにもなっています。

金シャチ横丁は名古屋城正門横の「義直ゾーン」、地下鉄市役所駅前の「宗春ゾーン」にグルメなど約16店舗が並ぶ。土産物店「鯱上々」は義直ゾーンに3月18日オープン。「願掛けの鯱」を拝むと金運上昇しそう?
金シャチ横丁は名古屋城正門横の「義直ゾーン」、地下鉄市役所駅前の「宗春ゾーン」にグルメなど約16店舗が並ぶ。土産物店「鯱上々」は義直ゾーンに3月18日オープン。「願掛けの鯱」を拝むと金運上昇しそう?

名古屋城内に歴史展示の資料館がオープン

名古屋城そのものの動きでは、2021年11月に「西の丸御蔵城宝館」がオープン。城の歴史と宝物を広く紹介する資料館で、重要文化財本丸御殿障壁画をはじめとした名古屋城所蔵品を年数回、内容を変更しながら展示します。城内の施設らしい正統派の展示・企画は歴史好きの満足度を高めてくれそうです。

西の丸御蔵城宝館は名古屋城正門からすぐの敷地内に昨年オープン。写真は昨年4~5月のプレオープン企画「鯱展」の模様
西の丸御蔵城宝館は名古屋城正門からすぐの敷地内に昨年オープン。写真は昨年4~5月のプレオープン企画「鯱展」の模様

名古屋おもてなし武将隊はリピーター獲得に貢献

全国の武将隊の先駆けとなった名古屋おもてなし武将隊は2021年で結成12周年。名古屋城に毎日出陣して来場者をもてなし、土曜日には演武と呼ばれるパフォーマンスを披露しています。人気は根強く、毎週のように通う熱心なリピーターも。またコロナ禍前は外国人観光客にも抜群にウケがよく、インバウンドが戻ってきた時のためにも、彼らの活躍は欠かせません。

信長・秀吉・家康ら名古屋ゆかりの武将らが現代によみがえった名古屋おもてなし武将隊。迫力ある殺陣や歴史にまつわる寸劇で構成される演武を見たさに多くのファンが集まる(現在は感染症対策で一時的に活動休止中)
信長・秀吉・家康ら名古屋ゆかりの武将らが現代によみがえった名古屋おもてなし武将隊。迫力ある殺陣や歴史にまつわる寸劇で構成される演武を見たさに多くのファンが集まる(現在は感染症対策で一時的に活動休止中)

マーケットイベントの会場として若者も呼び込む

昨年11月にはクラフト&グルメのマーケットイベント「SOCIAL CASLE MARKET」が城内全域を会場にして開催され、2日間で240店舗が出店し、実に2万5000人を集客。地元の若い世代らが楽める催しにも門戸を開いています。

2021年11月に開催された「SOCIAL CASLE MARKET」は普段あまり名古屋城へ足を運ぶ機会のない若者層も呼び込んだ
2021年11月に開催された「SOCIAL CASLE MARKET」は普段あまり名古屋城へ足を運ぶ機会のない若者層も呼び込んだ

認知度・期待値で「名古屋めし」をしのぐ。エリア全体でにぎわいを

名古屋市が2007年から発表している「名古屋市観光客・宿泊客動向調査」において、認知度や期待値、満足度で毎年トップの座を争っているのが「名古屋城」と「名古屋めし」。長らく名古屋めしの天下が続いていましたが、本丸御殿が全面公開した2018年からは名古屋城が堂々ナンバー1の座についています。名古屋市観光推進課も「名古屋城は“特別史跡”という位置づけで、その土地そのものが国宝相当の大変重要な文化財です。歴史観光の推進に力を入れている名古屋市にとって、名古屋城は最も重要なその拠点です」といいます。

名古屋城観光の本来の目玉である天守は、老朽化や耐震性の確保などの問題に対応するため2018年5月から入場禁止になっています。しかし、本丸御殿効果もあって、その後もコロナ禍までは来場者数はむしろ伸びていました。そして、アフターコロナへ向けても、名古屋城周辺を含めたエリア全体の魅力でにぎわいを呼び戻そうという動きが活発です。武将観光の総本山という立ち位置を守りつつも、グルメ、エンタメ、“映え”など多彩な魅力を積極的に集約することで、名古屋城こそが名古屋観光全体の拠点となる。これが名古屋観光復権に向けて、名古屋城が担う大きな役割になるのではないでしょうか。

(写真撮影/筆者 ※SOCIAL CASLE MARKETの写真はSOCIAL CASLE MARKET2021、名古屋おもてなし武将隊の写真は名古屋おもてなし武将隊事務局提供)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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