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喫茶店王国・名古屋に新たな動き。全国初「定額制」モーニングは人気を集めるか?

大竹敏之名古屋ネタライター
4月1日にオープンする「IZUMI-CAFE」(名古屋市東区)の月額制モーニング

毎日通えば一食144円!衝撃の新サービス「月額制モーニング」

「全国初!月額制モーニング」。こんなキャッチフレーズの喫茶店が名古屋に登場。4月1日オープンの「IZUMI-CAFE」(イズミカフェ/名古屋市東区)です。

「モーニング」とは、名古屋の喫茶店ではおなじみのトーストやゆで玉子などが無料でついてくるサービス。本来は「モーニングサービス」というべきですが、名古屋では「モーニング」というだけで喫茶店のおまけサービスだと通じるほど一般化していて、これを目的に遠方の喫茶店まで足を延ばす人もいるほどです。

+108円で小倉トースト、+216円でフレンチトースト、+108円でラテアートと追加料金でアップグレードもできる
+108円で小倉トースト、+216円でフレンチトースト、+108円でラテアートと追加料金でアップグレードもできる

そんな名古屋人が大好きなモーニングを月4320円で毎日でも楽しめるとあって、開店前から早くも話題に。システムは次の通りです。

〇月額料金=4320円

〇通常432円のコーヒーが飲み放題

〇モーニングタイム(8~11時)はモーニングサービスも無料(1日1回限り)

〇内容はパン(食パンかクロワッサン)、サラダ、ゆで玉子

10回で元が取れ、仮に一カ月間毎日通えばたったの144円で充実した朝ご飯を食べられる計算。これは“お値打ち”大好きな名古屋人のツボに大いにハマりそうです。

ワーキングスペースやセミナー、イベント会場としても利用できる「IZUMI-SO」の1階部分がカフェになっている
ワーキングスペースやセミナー、イベント会場としても利用できる「IZUMI-SO」の1階部分がカフェになっている

運営者の村瀬雄介さんは月額制モーニングを導入した理由をこう語ります。

「街の中心部から少し外れた商店街という場所柄もあり、喫茶店には地域の人たちのコミュニケーションの場という役割もある。月額制にすることでご近所の方たちにリピーターになってもらいやすく、コミュニティスペースになることで長く営業を続けられれば、と考えています」

コーヒーチケットの進化版。月額4860円で30杯の新サービスは名古屋が重点エリア

名古屋の喫茶店ではおなじみのコーヒーチケット。利用者が自分で持つのではなく、喫茶店が保管するのが常識となっている
名古屋の喫茶店ではおなじみのコーヒーチケット。利用者が自分で持つのではなく、喫茶店が保管するのが常識となっている

モーニングの他に、コーヒーチケットも名古屋の喫茶店文化に欠かせないツールです。10枚つづりで1杯分無料になるのが一般的(コーヒー400円の店なら10枚つづりのチケット3600円)。名古屋では店が壁に貼って預かるのが常識で、喫茶店とお客との信頼関係の厚さを象徴するものとして親しまれています。

このコーヒーチケットを進化させたサービスが「CAFE PASS」(カフェパス)です。月額4860円で30杯が飲め、1杯あたり162円と割安度は従来のチケットを大きく上回ります。しかも、店舗単位でなく、CAFE PASSの加盟店のどこでも利用できるのが最大の特徴。おトクな上にいろいろな喫茶店・カフェを巡る楽しさもあるのです。

「CAFE PASS」のWebサイト。現在全国90店舗が加盟する。月額4860円で30杯の30CUPSプランと3杯900円のLIGHTプランを選べる
「CAFE PASS」のWebサイト。現在全国90店舗が加盟する。月額4860円で30杯の30CUPSプランと3杯900円のLIGHTプランを選べる

スタートは2018年4月。運営元のSameSkyが拠点の東京に続いて、同年11月からサービス提供を始めたのが名古屋を中心とする東海地方です。

「東海地方に進出した理由は大きくふたつ。第一にモーニングの文化が根づいていて、全国で最も喫茶店にお金を使う地域だから。第二に私をはじめスタッフの半数が愛知県出身で、地元のコネクションを活かしやすかったからです」と代表の二方(にのかた)隼人さん。

そもそもこのサービスの原点は、二方さん自身の喫茶店への思い入れだったといいます。

「地元に帰省するたびに、幼少期から慣れ親しんできた喫茶店がどんどん減っていくのを見て、何とかしたいという思いを抱いていました。個人経営のお店は、価格競争では大手に対抗できないし、利用者から見ると“価格が分からないので入りにくい”“キャッシュレスじゃない”といった弱点がある。これをまとめてプラットフォーム化することで、いろいろな店を巡る楽しみを提供し、個人店に訪れるきっかけづくりにしてもらおうと考えました」

東海地方進出からまだ半年足らずですが、加盟店は東京を上回るスピードで増えているそう。現在、約90店舗中約30店舗が東海地方です。

土着の喫茶店同士のつながりや危機感で普及に拍車(?)

CAFE PASSの登録、注文はすべてスマホで完了できる
CAFE PASSの登録、注文はすべてスマホで完了できる

名古屋の加盟店にもお客の反応などを尋ねてみました。

従来のコーヒーチケットの替わりに利用する常連さんが多い。スマホビギナーの年配の方が手始めにやってみようというケースも。いろんなお店を回るよりも月30杯をできるだけうちで使おうという方が多く、午前と午後に2回などご来店の頻度が高まりました」(「珈琲 門」(名古屋市東区)の古川佳奈さん)。

「1カ月に数人も来てくれれば、と思っていたが、始めて2週間で既に何組も利用者が来てくれている。情報に敏感そうな20代もいれば40代のミドル世代も。新規のお客さんに来てもらえるチャンスが広がるし、金銭的な負担もないので店としてはやらない理由がありません。今のところ年配の人にはちょっと敷居が高いかもしれませんが、コーヒーチケットよりもおトクであることが知れると、名古屋のコーヒーチケット文化が取って替わられるかも…?」(「喫茶ニューポピー」(名古屋市西区)の尾藤雅士さん)。

収益は加盟店の情報を網羅したポータルサイトの広告収入などで得るというビジネスモデルで、利用者のコーヒー代は加盟店に全額キャッシュバックされます(収益性、信頼性を担保するため5月以降の加盟店からは数%の手数料を徴収する予定)。

保守的で新しいものにはなかなか手を出さないといわれる名古屋ですが、そんな土着性が逆にサービスの広がりに有利に働いていると、二方さんはいいます。

「名古屋の喫茶店は、東京以上に危機感を抱いている店が多い。加盟してメリットを実感したオーナーさんが周りの店を紹介してくれるケースが多く、地域全体で喫茶店を守っていこうという団結力を感じます」

飲食業界全体で広まる定額制。名古屋喫茶との相性は…?

定額制サービスは意外や昔ながらの喫茶店とも相性はよさそう。写真はCAFE PASS加盟店のひとつ、1957年創業の「珈琲 門」(名古屋市東区)
定額制サービスは意外や昔ながらの喫茶店とも相性はよさそう。写真はCAFE PASS加盟店のひとつ、1957年創業の「珈琲 門」(名古屋市東区)

定額制、月額制のサービスは一昨年あたりから飲食業界の新トレンドとして注目を集めています。顧客の満足度アップ、リピーターの獲得に効果的とされ、東京ではラーメン、ステーキ、居酒屋、コーヒースタンドなど様々なジャンルの店舗で導入されて話題になっています。

今回の喫茶店の新サービスは、当初、若者をメインターゲットとしたおしゃれなカフェ向けのサービスというイメージを筆者は抱いていました。しかし、実際には、月額制モーニングは地域密着・常連の獲得が狙い、CAFE PASSは個人経営の喫茶店やカフェをバックアップしようというコンセプトが背景にあります。つまり昔ながらの喫茶店の利用のされ方、老舗の喫茶店にもマッチしたものとも考えられます。「石橋を叩いても渡らない」といわれるほど慎重な土地柄ゆえ、浸透するまでには時間がかかるかもしれませんが、いったん弾みがつけば、名古屋喫茶にふさわしいおトクなサービスのひとつになる可能性も秘めているんじゃないでしょうか。

(写真撮影/筆者。CAFE PASSの関連写真はSameSky提供)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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