セクハラ問題で大会イベント中止 選手やファン不在の判断の裏にeスポーツ特有の事情

2020年1月26日に幕張メッセで開催されたEVO Japan 2020

先日、北米最大規模の対戦格闘ゲームイベントEvolution、通称EVOの中止が発表されました。もともとEVOはコロナ禍により、例年行われているオフラインイベントの開催は見送られており、オンラインでの開催が発表されていました。EVOオンラインの中止の要因は、EVOの運営幹部であるJoey Cuellar氏が過去に未成年者に対して行ったセクハラ行為がネット上で告発され、当人がそれを認めたことでした。

この事件が明るみにでたことで、Joey氏は今後EVOに関わるすべてにおいて追放されます。

大会の中止が発表される前に、事件の一報を聞いた大会のメイントーナメントで使用されるタイトルを提供するカプコンやバンダイナムコエンターテインメントなどのゲームメーカーが次々と不参加を発表しました。また、参加選手も不参加を表明している選手が多く、これらを受け、EVOオンラインの中止に至りました。

確かに、Joey氏の行為は許されるべきものではないのはわかりますし、彼がEVOの幹部と言うことでEVOへの責任を追及する姿勢や、大会で使用されるIPを保有するメーカーとしての対処としては的確だったと思います。しかし、それが最良の判断だったかは、疑問が残るところはあります。

運営幹部の不祥事に大会中止は妥当か

スポーツイベントの運営幹部が不祥事を起こしたところで、大会自体を中止にすることは考えにくいと言う点です。そもそも大会を中止にしたとしても、それによって一番の害を被るのは運営ではなく、参加している選手であることは明白だからです。プロスポーツの場合は、選手だけでなく、ファンもその中に含まれるでしょう。選手もファンも不祥事とは関係の無いところにありながら、被害を受けるのはまったくもって理不尽であることは誰の目から見てもわかることです。

今回のEVOオンラインについても、同じことが言えます。ただ、eスポーツはフィジカルスポーツと違い、使用するゲームタイトルの権利保持者であるメーカーがおり、企業としての判断が問われることになります。早々に大会が中止になってしまったのは、eスポーツの持つ特異性や企業としてのイメージや責任が露呈した結果だったからだと言えるでしょう。

多くのeスポーツ大会は、IPホルダーが主催することが多く、何かあったときの責任はIPを保有するメーカーにあるわけです。EVOのようにIPホルダー以外のイベント運営会社が大会運営を行うとしても、ゲームタイトルを使用する以上、基本的にIPホルダーの許諾が必要となります。したがって、コミュニティイベントであっても、ファンや参加者主体で開催することは難しく、IPホルダーの意向が大きく出てしまうわけです。だからと言って、早々に不参加を決めたIPホルダーであるメーカーの対応が悪いかと言うとそうも考えにくいのも事実です。もし、強行開催をしたことで批判を受けた場合、その矛先は運営だけでなく、参加しているメーカーに向けられるのは明らかだからです。メーカーとしては不参加の選択肢を選ぶのは当然のことだと言えるでしょう。

ただ、先も言った通り、大会中止によって一番被害を受けるのは選手です。EVOは賞金額も高く、多くの人が視聴しています。選手は賞金を稼ぐ手段を失い、スポンサーは多くの人に知ってもらうチャンスを失います。スポンサーは、EVOのような大きな大会で選手が活躍することを見越して、出資しているわけです。

大会中止を回避するために訴えないという選択をしてしまう可能性も

コロナ禍ですでにいくつもの大会が延期や中止を決めている今、不祥事による中止が常套化するのであれば、選手は死活問題になりかねません。今回はオンラインでの開催だったが故に、比較的簡単に中止を判断できたのかも知れません。しかし、オフラインでの開催だった場合、多くの選手が渡航や滞在の費用が無に帰する、もしくは多額のキャンセル料を取られる可能性もあったわけです。そういったリスクを避ける意味でも今後は、不祥事に対する善後策を考えて行かなくてはならない状況にきたと言えます。

EVOが組織ぐるみで不祥事を起こしていたり、不祥事を起こした人物や不祥事自体を知っていながら黙認していたと言うのであれば、今回の処分は妥当だと思います。しかし、あくまでも個人の不祥事なのであれば、無関係の人が不利益を被ることを考えなければならないのではないでしょうか。清廉潔白を目標に活動をしていても、長期間、そして関わる人数が増えるとどうしても、それを守れない人が出てきてしまいます。それはeスポーツに限らず企業にしろ、スポーツにしろ、何にしろ出てきてしまうわけです。

不祥事を起こさせないことがもっとも重要ではあるものの、すべての人を管理することも、行動の制限をすることは不可能であることは、言わずもがなです。それ故に直接の被害者を救いつつ、新たな被害者が出ない手段が必要なわけです。

今回の件もセクハラ行為を受けた被害者は、被害を訴え、加害者を糾弾したい気持ちはあったものの、大会自体を中止させたり、消滅させたりしたかったわけではないのではないでしょうか。今後、何らかの不利益や被害を受けた時に、自分が訴えたが為に大会が中止、消滅してしまう可能性があると考えて、それを良しとせず訴えをすることなく泣き寝入りになるのであれば、それはそれで不幸なことだと思います。

eスポーツは今後もこういった事案と向き合う機会があるでしょう。次の不祥事が起こる前に、IPホルダーや大会運営には、今後の為の行動や思索を打ち出すことを期待したいところです。