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7月豪雨と大阪府北部地震で義援金の差押禁止~被災ローン減免にも効果・恒久化をめざせ

岡本正銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)
平成三十年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律

平成三十年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律案

第196回通常国会の閉会直前となる7月20日、「平成三十年特定災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」が成立しました。「大阪府北部地震」と「平成30年7月豪雨」に適用されます。

1 平成三十年特定災害関連義援金の交付を受けることとなった者の当該交付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。

2 平成三十年特定災害関連義援金として交付を受けた金銭は、差し押さえることができない。

3 この法律において「平成三十年特定災害関連義援金」とは、次に掲げる災害の被災者又はその遺族(以下この項において「被災者等」という。)の生活を支援し、被災者等を慰藉(しゃ)する等のため自発的に拠出された金銭を原資として、都道府県又は市町村(特別区を含む。)が一定の配分の基準に従い被災者等に交付する金銭をいう。

一 平成三十年六月十八日に発生した大阪府北部を震源とする地震及びこれに引き続いて発生した余震による災害

二 平成三十年七月豪雨による災害

   附 則

1 この法律は、公布の日から施行する。

2 この法律は、この法律の施行前に交付を受け、又は交付を受けることとなった平成三十年特定災害関連義援金についても適用する。ただし、この法律の施行前に生じた効力を妨げない。

この法律で「義援金」とされているのは「都道府県又は市町村(特別区を含む。)が一定の配分の基準に従い被災者等に交付」する場合です。直接の寄付金は該当しないことになります。とはいえ、そのような知人や支援団体への直接寄付も極めて重要ですので、法案成立がきっかけとなり、寄付文化が広く醸成されることを期待します。

立法提言が切り拓いた先例

義援金差押禁止法案は、2011年の東日本大震災のときにはじめて成立しました。災害復興支援に関わる弁護士らの提言(日弁連「災害弔慰金の支給等に関する法律等の改正を求める意見書」など)が発端となり、最終的に超党派で各種支援金・義援金の差押禁止法案が成立したのです(「災害弔慰金の支給等に関する法律及び被災者生活再建支援法の一部を改正する法律」及び「東日本大震災関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」)。

被災者生活再建支援金災害弔慰金の差押禁止については、既存の法律の一部改正ですので、将来にわたっての恒久法となりました。ところが、義援金については東日本大震災限りの効力です。

そして、2016年に熊本地震が起きます。このときも研究者・弁護士有志による提言や、日弁連「平成28年熊本地震に関し義援金差押禁止措置等を求める緊急会長声明」などが出され、超党派の議員立法による「平成二十八年熊本地震災害関連義援金に係る差押禁止等に関する法律」の成立につながりました。ところが、これも熊本地震限定のものとなりました。

2018年の「大阪府北部地震」や「平成30年7月豪雨」では、延長された通常国会の会期中でもあり、迅速に超党派の議員立法に至りました。過去の教訓が活かされていると評価できます。また「特定非常災害」に指定された「平成30年7月豪雨」だけではなく、「大阪府北部地震」も義援金差押禁止の対象としたことは特徴的です。大阪府北部地震では、法律上の現金給付支援として有力な「被災者生活再建支援法」の適用がありません。一部損壊住家が2万7千棟以上に及ぶのに、被災者生活再建支援法の発動に必要な全半壊住宅数は少ないからです(内閣府防災担当)。このような法律上の支援の間隙を埋めるのが「義援金」となるはずです。その義援金を保全することは、大阪府北部地震のような被害態様でこそ重要になるのではないかと思います。今回の立法はその意味で先例価値の高いものではないかと考えます。

自然災害債務整理ガイドラインにも大きな影響

「自然災害債務整理ガイドライン」(被災ローン減免制度)とは、災害救助法適用災害によって既存の債務支払いが困難になる等した個人が、一定条件のものと、金融機関と合意をすることで、一定資産を超えたぶんの住宅ローン等債務を減免できる仕組みです。この際に、資産としてカウントしなくてよい財産は、現預金500万円、差押禁止財産(被災者生活再建支援金や災害弔慰金を当然含む)、家財保険の一部、その他一定の財産等、相当程度広く定められています。義援金は、そのままでは資産にカウントされますが、差押禁止の法律が存在していれば、除外できます。義援金が差押禁止かどうかは、直接の差し押さえを受けないというだけではなく、自然災害債務整理ガイドライン利用時にも大きな効果があるのです。

義援金差押禁止の恒久法化を

被災者生活再建支援金と災害弔慰金については、東日本大震災を契機として差押禁止が恒久法として措置されました。ところが、義援金については東日本大震災、熊本地震、大阪府北部地震、平成30年7月豪雨のいずれについても、当該災害限りの臨時法にすぎません。たとえば、将来首都直下地震や南海トラフ巨大地震があった場合でも、各党で議員立法等の調整を行い、(超党派の全会一致では手続を簡素化できるとしても)衆参の委員会・本会議を経て法案を通す手間が必要です。国会が閉会していれば臨時国会召集などを待たねばなりません。もちろん、必ず成立するという保証はありません。そこで、義援金差押禁止法案については、恒久法とし、所管省庁を明確にしたうえで、大災害時に直ちに発動できるようにしておく必要があるといえます。例えば、特定非常災害に該当する災害は当然のこと、その他の災害においては、政令指定によって、直ちに義援金差押禁止の効果を発動できるようにする等が望ましいといえます。また、自然災害債務整理ガイドラインと連動させることが効果的なので、災害救助法適用災害においても、義援金差押禁止が自動的に効力を持つようにすることが望ましいと思われます。災害時の対応を将来の教訓として残すには、災害法制度を絶え間なく、かつ具体的なレベルで改善して恒久法として残すことが必要です。社会全体が災害からしなやかに立ち上がる「法的強靭性」(リーガル・レジリエンス)を獲得していくことが必要だと考えています。

(7月29日加筆)

上記記事を執筆した時点では、都度政令指定により義援金の差押禁止を発動する考えでしたが、すでに義援金が「被災者又はその遺族(以下この項において「被災者等」という。)の生活を支援し、被災者等を慰藉(しゃ)する等のため自発的に拠出された金銭を原資として、都道府県又は市町村(特別区を含む。)が一定の配分の基準に従い被災者等に交付する金銭」と目的を主体を明確にして定義されていることに鑑み、すべからく自然災害・一定規模の事故などについて一律に差押え・譲渡等禁止としておくことが、より簡便かつ国民の総意に合致するのではないかと思い至っています。政令指定がなくても自動的にすべての「義援金」を差押禁止財産することを検討すべきではないかと思います。

(参考)

衆議院ウェブサイト

参議院ウェブサイト

・岡本正「災害復興法学の体系」(勁草書房)第6章(6-2-5)、岡本正「災害復興法学」(慶應義塾大学出版会)第2部第11章、岡本正「災害復興法学2」(慶應義塾大学出版会)第2部第2章

銀座パートナーズ法律事務所・弁護士・気象予報士・博士(法学)

「災害復興法学」創設者。鎌倉市出身。慶應義塾大学卒業。銀座パートナーズ法律事務所。弁護士。博士(法学)。気象予報士。岩手大学地域防災研究センター客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。医療経営士・マンション管理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)・防災士。内閣府上席政策調査員等の国家公務員出向経験。東日本大震災後に国や日弁連で復興政策に関与。中央大学大学院客員教授(2013-2017)、慶應義塾大学、青山学院大学、長岡技術科学大学、日本福祉大学講師。企業防災研修や教育活動に注力。主著『災害復興法学』『被災したあなたを助けるお金とくらしの話』『図書館のための災害復興法学入門』。

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