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金本前監督も証言!阪神1年目に野手転向を打診されていた福永春吾投手(四国IL・徳島)

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
3月27日、四国ILの開幕・高知戦(むつみスタジアム)で9回に登板した福永投手。

 NPBに続いて、日本の独立リーグ老舗の四国アイランドリーグplusが3月27日に開幕。元阪神タイガースの福永春吾投手(26)が入団した徳島インディゴソックスは高知ファイティングドッグスと、同じく伊藤隼太選手(31)が野手兼任コーチを務める愛媛マンダリンパイレーツは香川オリーブガイナーズとの顔合わせでした。

 徳島の方は28日が雨天中止で1試合のみになったものの、開幕戦は1000人近いお客様で盛り上がりました。開幕イベントの特別ゲストが、前阪神監督の金本知憲さん(52)だったこともあり、会場のむつみスタジアム(徳島県営蔵本球場、ネーミングライツにより2011年~JAバンク徳島スタジアム、2021年3月1日に現名称へ変更)にはタテジマのユニホームを着た方も多かったですね。

金本知憲さんが野球教室

 開幕イベントとして、まず午後2時からグラウンドで野球教室が行われました。もちろん講師は金本さんで、参加したのは『徳島ウエストヤング』というチーム。中学3年生が6人(全8人中)、2年生が12人、1年生が6人の24人で、さらに4月から中学1年生という小学6年生も4人加わって計28人です。

「バットのヘッドはこう、遅れて出てくるくらいに」とアドバイス中の金本先生。
「バットのヘッドはこう、遅れて出てくるくらいに」とアドバイス中の金本先生。

 同じチームなのにユニホームが2色に分かれていた理由を関係者の方に聞いたところ「普段は紺色で、ここぞという時に着るのが赤色」だそうです。いわゆる“勝負ユニ”ですかね。女子も多く、最速105キロを投げるというピッチャー・あみちゃんはチームのキャプテンも務めています。ちょうどこの日が卒団式で、あみちゃんはじめ赤ユニを着た中学3年生は、野球教室の最後に金本さんから言葉をもらっていました。いい記念になったでしょう。

 なお徳島ウエストヤングの監督は佐々木健一さん(47)で、徳島商業高校から1991年のドラフト2位で中日に入団した投手です。のちに同じく中日入りした川上憲伸投手の2つ先輩でした。佐々木さんは1991年のドラフトでヤクルトの石井一久投手、巨人の谷口功一投手と同い年、また大学からの入団ではありますが広島に4位指名された金本さんも“同期”ですね。

野球教室の締めに記念撮影。お手伝いをした徳島の選手たちも一緒に写っています。
野球教室の締めに記念撮影。お手伝いをした徳島の選手たちも一緒に写っています。

 さらに1991年ドラフト組といえば、徳島インディゴソックスの吉田篤史監督(50)も社会人のヤマハから1991年のドラフトで、ロッテに1位指名されて入団しています。しかも金本さんと吉田さんは2003年に阪神へ移った“移籍同期”という縁もあったんですね。そして今回、もう1つの縁と言っていいでしょうか。阪神の監督時代に獲得した福永投手について、金本さんからこんな話がありました。

「福永は野手に転向するべき」

 開門後のスタンドで試合前のトークライブを行った金本さん。2016年のドラフト6位で徳島インディゴソックスから阪神に入った福永投手の話題になり「彼はバッターとしての可能性があったんですよ。それで球団に掛け合ったんですけど、まだ(入団)1年目だったし」と、そこでは断念したとのこと。

 「ロングティーをやらせたら、すごくいいスイングをしていると聞いたので打たせてみた。よかったんですよね。間の取り方も、スイングも」。何だかすごく残念そうな口調です。へえ~!という反応がスタンドに広がった時、金本さんは「ただ…足が遅いって言うんで」と絶妙のタイミングで笑いを取ります。

 「足が速ければ、ピッチャーで肩も強いしバッティングもいいから野手でいけるのに、足が遅い!しかもメチャクチャ遅いらしい」。場内は爆笑でしたが、それをベンチ前で聞いた福永投手は「足、速いっすよ」と反論。スタンドの金本さんには背中を向けて、ですけど。

 福永投手にも、この件を詳しく聞いてみました。2017年、金本監督が2年目で福永投手は1年目のシーズンです。5月6日に初めて1軍昇格を果たした福永投手は、その日の広島戦(甲子園)でプロ初登板初先発!しかし4回まで投げて10安打6失点と、苦いデビューとなったのは皆さんも覚えておられるでしょう。翌日には登録を抹消されて再び鳴尾浜へ…。と思いきや翌日の5月7日、福永投手は鳴尾浜へ行っていません。ではどこに?

野球教室では子どもたちだけでなく指導者の方からも質問があり、それに答える金本さん。
野球教室では子どもたちだけでなく指導者の方からも質問があり、それに答える金本さん。

 「今だから話せることですけど、実は甲子園にいました。6日の試合後すぐに金本監督から『野手に転向するべき』と言われて、次の日は甲子園で朝の特打をやっていたんです」。ええーっ!それは知らなかった。監督は初登板の日にバッティング練習を見て?それとも試合を見て?「僕が思うのは試合で打席に立った時、変化球を待つ姿を見て…ですかねえ。待って、止まって、スイングしたところ?よくわからないですけど」

 金本さんの話と合わせてみたら、他からもバッティングに関する報告を受けてのことでしょう。いや~それにしても、その日のうちに打診して、翌日には打撃練習も直に見て、さらに球団へ話もしていたとは。確かに、まだ1年目だからと躊躇するのもわかります。1年目の、しかも5月ですからねえ。ただ、自分用のバットケースを作るくらいバッティングが好きな福永投手は「もう転向する気満々でしたよ!」と当時を振り返ります。

 もし野手になっていたら、なんてこともチラッと考えちゃいます。今からでも?と聞いてみたところ「今からはもう無理ですよ。年齢的にも」と、わりと真顔で答えた福永投手。そうです。ピッチャーでNPBに戻らなければならないのに、余計なことですね。

 それと福永投手と同期入団の藤谷洸介選手(25)の弟・藤谷勇介投手(21)も徳島に入っています。野球教室のお手伝いをチームメイト何人かとやっていて、金本さんに挨拶をしたいと言っていたので、タイミングを見計らって促したら「藤谷洸介の弟です」と、しっかり挨拶。よくできました!

野球教室の手伝いに早く来ていた徳島の選手たち。金本さんの話を熱心に聞いていました。
野球教室の手伝いに早く来ていた徳島の選手たち。金本さんの話を熱心に聞いていました。

3か月ぶりの鳴尾浜で登板

 では、福永投手の徳島“開幕”を振り返りましょう。その前に、3月24日に鳴尾浜で阪神との練習試合があり、そこでも登板しています。阪神が4対0でリードしていましたが、特別ルールにより行われた9回裏に福永投手がマウンドへ。

 ただし背中には福永投手の背番号99ではなく47、借りたユニホームでした。福永投手のユニホームが遅れていると聞いていたものの、さすがにこの時点でまだとは思わなかったですねえ。でも開幕戦には間に合っています。よかった!

 昨年秋以来の鳴尾浜で、ビシッと行きたかったところですが…この日が3連投だった福永投手は打たれてしまいました。3連投とか味方の守備の乱れとか、いろいろあったせいか福永投手自身はあまり多くを語りません。ただ久しぶりの鳴尾浜で「みんなに挨拶はできましたよ。リハビリ組の人以外はだいたい。久しぶりといっても3か月くらいしか経っていませんけどね」と笑っていました。

開幕戦で自身も開幕

 そして迎えた四国アイランドリーグplusの開幕・高知戦は、6回までに6対0とリードを許していた徳島ですが、7回に4点を返すなど8回を終えて7対4というスコア。福永投手は「3点差までなら行く」と言われていたそうです。「きょうはどっちみちピッチングをするつもりで、ちょっと点差が開きそうやなと思ったので8回表に10球くらい投げてやめて、その裏の攻撃中に2アウトから5球くらい投げました」

ゲストの金本さんも一緒に徳島の集合写真。このあとは始球式で打席に立ち、スタンドを大いに沸かせました!
ゲストの金本さんも一緒に徳島の集合写真。このあとは始球式で打席に立ち、スタンドを大いに沸かせました!

 翌日の天気予報が悪く、もし流れたら次は4月2日からの香川オリーブガイナーズ戦(レグザム)までないため「間隔が空きすぎるのは嫌なので、できれば投げておきたかった。あす試合ができて連投になるのは構わないから」と話していた福永投手。投げられてよかったですね。「はい!開幕した方がホッとする。じらされるより、パッと開幕戦で投げた方がいい」。まさにホッとした顔で言います。

 先頭に初球を左前打されたものの、後続を断って無失点。10球でした。「きょうはよかったです」と言ったあと、先頭のヒットについて「初球、最悪でした。すべったんですよ。マウンドで」と苦笑い。実は、むつみスタジアムのマウンドは要注意らしく「ここはメチャクチャ柔らかいんですよ。NPBのマウンドは足元が掘れないけど、ここは足首まで埋まるほど。慣れるしかないですね」と福永投手。

 実は高知の先発だった藤井皓哉投手(元広島)も同じように話していたみたいですね。福永投手は以前からわかっていて「だから、この前の鳴尾浜はメッチャ投げやすかった!」と言います。なるほど。「それと、ここはマウンドがずれているんです。プレートが一塁側に」と続けました。

高知ファイティングドッグスも今季、ユニホームを新しくしました。一番右が吉田豊彦監督。阪神に入った石井大智投手の“開幕”もご覧になったそうです。
高知ファイティングドッグスも今季、ユニホームを新しくしました。一番右が吉田豊彦監督。阪神に入った石井大智投手の“開幕”もご覧になったそうです。

 プレートがずれている?「自分がいつも立っているポジションから、左バッターに真っすぐを投げるとデッドボールになるんですよ。それをわかっていないピッチャーは崩れていく。前から言ってはいるんですけど、なかなか直せないんでしょうね。自分はわかっているから、いつもより1足分こっち(三塁側)に戻して調整します」。そういうこともあるんですね。

 すぐに直らないなら、自分が合わせていく対応力も必要?「わからずに投げていると崩れてしまう。いつもの感覚で入ったら、そりゃボールですよね。10センチずれているとなれば、ボールじゃないですか。僕はプレートの一塁側を踏むので、いつもの感覚で真っすぐを投げたら左バッターのここ(腰)に当たる」。そういえば、左バッターの内角へいくボールが多かったような気もします。

ようやくお披露目できた99番

 そうそう、やっと自分のユニホームが着られましたね。鳴尾浜の練習試合の時に、開幕も間に合わないだろうと言っていたけど。「よかったですよ~。間に合って!無理なら投げないつもりでした(笑)」。最後のは冗談ですが、本当にギリギリだったみたいです。開幕前日に球団へ届いたらしく、当日夕方に球場入りしてから受け取っているところを私も見ました。試合前のオープニングセレモニーでしっかりお披露目しています。

この日、初めて袖を通した99のユニホームで選手紹介の列へ向かう福永投手。笑顔です。
この日、初めて袖を通した99のユニホームで選手紹介の列へ向かう福永投手。笑顔です。

 しかし、まだ問題があったとか。「帽子が…」。帽子?ユニホームと一緒に新しいのをもらっていたでしょう。「左右に違うスポンサー名が入るところ、両方とも同じ名前になっていたんです。受け取った時は気づかなかったけど、写真を撮りにいく時にあれ?と。あわてて前日まで使っていたものと取り換えて、グラウンドへ出ました。だから僕の帽子だけ、みんなと違うんですよ」

 ええ~それは気づかなかったけど、前もってわかってよかったですね。スポンサーに申し訳ないところだった。でも、よく前の帽子を持っていましたねえ。対応力に危機管理能力もプラスしなくちゃ。「いろいろあるんですよ。そこで普通に対処できるのは、僕が徳島2回目だから(笑)」。ちょっと得意げな笑顔でした。

 試合後に話を聞こうとベンチ前へ行ったら、着替えた福永投手が出てきて「すみません。ちょっと仕事があるので、待ってもらっていいですか?」と言い、他の選手と一緒にどこかへ。戻ってきた時に、何の仕事か尋ねると「スタンドの旗とか片付けてきました。独立リーガーなんで」とニヤリ。これもまた慣れたものですね。

「お客さんも多くて、楽しかった!」

 登板する際、名前をアナウンスされる前に、もうスタンドのお客様は気づいて「あ、福永や!」という声も聞こえましたよ。阪神ファンの方も多かったですね。そういえば試合前のセレモニーでスタンドへ手を振っていたのは?「ジムで一緒の、小学生の子も応援に来てくれたんです。きのうジムでキャッチボールをしていて、ボールの持ち方はこうやでとか、ちょっと野球教室みたいなことをしていて。そしたら、あした見に行く!と言ってくれた」。それは嬉しいですね。

セレモニー中で帽子を手に、中央が福永投手。右は小山一樹捕手、左は間庭周人投手です。
セレモニー中で帽子を手に、中央が福永投手。右は小山一樹捕手、左は間庭周人投手です。

 最後に、開幕戦は特別?と聞いたら「ちょっと違いますね。それと、こんなに多くのお客さんを見たのも久しぶりだったし。楽しかったです!」と即答した福永投手。私も、お客様がおられるスタンドで野球を見るのは久しぶりだったので、なんだかワクワクしました。いいですね、どよめきや拍手は。

 「変な緊張感もなくて。いい意味の緊張はありましたけど、思い通りに投げられた。練習試合は監督も『試すのでいいよ。自分の調整でいいから。打たれてもいい』と言ってくれて、わかりましたと。だから開幕前の最後の試合(オープン戦)だけパンパンと合わせて、きょう入ったので気が楽でした。ずっと」

 以前の記事でも触れましたが、吉田監督やチームからは「自分のための調整をするように」言われています。その配慮に感謝し、恩を返す方法はNPBへの復帰しかありません。福永投手も重々承知でしょう。そのためには、与えられた機会で結果を出していくだけだと。1点リードや同点という競った場面で投げるところを見たいと言ったら「そうですね。早くセーブをつけたいです」と、いい表情で答えました。

左はスタンドの通路に飾ってある選手1人ずつの幟。「旨味たくわえ、再び脚光舞台へ」いい言葉ですね。でもスポンサー名が切れてしまって…すみません。右は球場前の桜です。
左はスタンドの通路に飾ってある選手1人ずつの幟。「旨味たくわえ、再び脚光舞台へ」いい言葉ですね。でもスポンサー名が切れてしまって…すみません。右は球場前の桜です。

 ※福永投手の合同自主トレ初日と初の実戦登板だった練習試合など、2月に取材した記事はこちらからご覧ください。→<元阪神・福永春吾投手が再び徳島から目指す頂!新たな武器はパワーカーブ>

    <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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