社会人野球の全国大会で、ことし唯一開催される『第91回都市対抗野球大会』の組み合わせ抽選会が24日に行われ、出場32チームの対戦相手と試合日程が決まりました。期間は11月22日から12月3日まで、場所は東京ドームです。有観客での開催となりますが、22日に発表された「都市対抗野球大会用・JABA新型コロナウイルス対応ガイドライン」によると、1試合あたり1万人以内でチケットは全席指定、毎試合全席入れ替え制だそうです。

 またスタンドにステージを作って繰り広げられる応援合戦と、鳴り物やメガホンを使った応援自体も禁止とのこと。社会人野球ならではの、あの大応援団が見られないのは少し寂しいかもしれませんが、すべては出場するチームとお客様の安全を優先してのことですね。

 出場チームは、各地区で7月から9月にかけて行われた1次予選、9月から10月の2次予選を勝ち抜き、10月16日の九州地区をもって、すべて出揃いました。近畿地区は9月1日から24日にわかさスタジアム京都と大阪シティ信用金庫スタジアムで2次予選を行い、代表5チームが決定しています。

  1 NTT西日本(大阪市) 6年連続31回目

  2 パナソニック(門真市) 5年連続54回目

  3 大阪ガス(大阪市) 3年連続26回目

  4 日本新薬(京都市) 7年連続37回目

  5 日本生命(大阪市) 2年連続61回目

 近畿2次予選の初日、全国最多60回の出場で優勝4度の日本生命が、都市対抗の2次でまだ勝ったことがない、創部7年目カナフレックスに敗れるという波乱がありました。延長12回までもつれ込み、タイブレークの末に競り勝ったカナフレックスは大金星と言ってもいいですね。

 なお初めて私の記事を読んでくださっている方のために少し脱線を。カナフレックスとは、元阪神タイガースの藤井宏政さん(30)が、2013年末の創設時から所属しているチームで、2018年から専任で藤井コーチとなっています。話を戻しましょう。

 勢いに乗ったカナフレックスは2回戦も、31回の本大会出場と2度の優勝を経験している日本製鉄広畑(姫路市)に9回サヨナラ勝ち!これで第1代表決定トーナメントの準決勝進出を果たしたものの、以降は敗者復活戦で勝てず…“カナフレックス初出場!”の夢はかないませんでした。近畿2次予選の途中までの戦いぶりは、こちらの記事でご覧ください。

<元阪神・藤井宏政コーチも手応え、全員野球でカナフレックス旋風を!>

<阪神OBのコーチ対決!カナフレックス藤井vsパナソニック阪口>

北川倫太郎選手が都市対抗へ!

カナフレックス東近江工場の敷地内にある投球練習場。上は2020年9月、下が2016年6月です。
カナフレックス東近江工場の敷地内にある投球練習場。上は2020年9月、下が2016年6月です。

 きょうは近畿2次予選後、滋賀県東近江市の工場へお邪魔して伺ってきた話をご紹介するのですが、その前に嬉しいニュースを1つ!カナフレックスの北川倫太郎選手(27)が、日本新薬の補強選手として都市対抗本大会出場が決まりました。23日に発表されたもので、補強選手とは出場各チームが同地区の予選で敗退したチームから最大3人までを借りられるという都市対抗野球限定のシステムです。ユニホームはもちろん、そのチームのもの。予選でしのぎを削ったライバルが期間限定で仲間になるわけですね。

 藤井コーチが先日、チームは敗退したけれど「補強で誰か出てくれたらいいですね。本大会で何かを持って帰ってきてほしい」と話していました。2016年の第87回大会に、カナフレックスから藤井選手と大西健太投手が、それぞれ三菱重工神戸・高砂とNTT西日本の補強選手として都市対抗を初体験しています。この時のカナフレックスは京滋奈1次予選で敗れていたため、2次予選に出てもいないチームからの選出に驚いたものです。

2016年6月、補強選手に選ばれた藤井選手(左)と大西投手(右)の取材で、初めてカナフレックスの東近江工場にお邪魔しました。
2016年6月、補強選手に選ばれた藤井選手(左)と大西投手(右)の取材で、初めてカナフレックスの東近江工場にお邪魔しました。

 当時を思い出し「本大会は全然違いましたねえ」と藤井コーチ。続けて「相手がオレンジ色で、まるっきりジャイアンツ!」と笑います。1回戦の相手は日立製作所で、ユニホームがオレンジ色でしたもんね。しかも東京ドーム(笑)。冗談はさておき、現役だった藤井コーチ自身が本大会で何かを得てきたから、それを北川選手も感じてもらい、チームに伝えてほしいということでしょう。補強選手に選ばれたと、藤井コーチもすごく嬉しそうでした。

 北川倫太郎選手は明徳義塾から2011年のドラフト5位で楽天に入り、2017年の退団までに1軍も、また育成契約も経験しました。カナフレックスには2018年の入部で、昨年からキャプテンを務め、あらゆる面で頼りになる4番打者です。

「貴重な機会と経験を活かしたい」

 北川選手のコメントをご紹介しましょう。取材は大塩浩史マネージャー(23)経由です。お世話になりました!

 Q、まず補強選手に選ばれた感想を教えてください。「素直に嬉しいです。自チームで出られたら良かったですが、自分自身もはじめての都市対抗になるので楽しみです」

 Q、予想していましたか?それともビックリした?「自分ではないと思ってましたが、周りがあるんじゃない?と言ってくれていたので、半々ぐらいです」

 Q、日本新薬に知っている選手はいますか?「正木選手は同級生で、ことし春先のオープン戦の時に話をしました」(正木健太郎内野手は同じ大阪府出身、履正社-創価大-日本新薬)

★2019年9月、京都で行われた社会人野球日本選手権近畿地区最終予選での北川選手です。
★2019年9月、京都で行われた社会人野球日本選手権近畿地区最終予選での北川選手です。

 Q、本大会での目標、意気込みなどをお願いします。「日本一に貢献できるよう、しっかり自分の役割を果たしたいです。そしてこの経験を自チームで活かせるようにしたいです」

 Q、社会人3年目、まだ本大会がありますけど、ここまでを振り返ってどんなシーズンでしたか?「コロナの影響もあって公式戦が無くなったり、制限されることも多かったですが、成績的にも良いシーズンだったと思います。チームとしては手応えがあった中で、都市対抗を逃したのはショックでした。まだまだ、力と、勝つことへの執念が足りなかったと思います」

 Q、ご自身の成績に関しては?「数字的には悪くないと思いますが、内容を見てみると試合を決める打点だったり、チャンスでの打席内容が良くないのが多かったと思います」※近畿2次予選が終了した時点での成績は、37試合(オープン戦含む)に出場して123打数41安打29打点で本塁打6、盗塁4。打率.334、出塁率.475と立派な数字です!

 Q、ことしのチームは明るくなったと思いますか?「ことしの元気や盛り上がりはどのチームにも負けないと思います。副キャプテンの福田さんが一番声を出すので、そこに若い選手も乗っかって、練習の時からいい雰囲気でやれています」

★同じく昨年9月の日本選手権予選での北川選手(左)と福田選手(右)。
★同じく昨年9月の日本選手権予選での北川選手(左)と福田選手(右)。

 Q、最後に、藤井コーチのことを聞かせてください。北川選手にとってどんなコーチであり、どんな存在ですか?「選手ひとりひとりのことをよく見ていて、本当に困っている時にひと言、良いアドバイスをくれます。自分も都市対抗予選前に調子が良くなくて、前日練習の時に藤井コーチからアドバイスをもらって、良い結果につながりました。同じ元プロで年齢も近く、お酒も好きなので、頼れるお兄さんって感じです」

 北川選手、どうもありがとうございました!都市対抗の本大会で、たくさんお土産を持って帰ってきてくださいね。

方向性を一(いつ)にして戦うこと

 では、カナフレックス硬式野球部へお邪魔した時の話をご紹介します。1か月くらい前のことですが、この日は朝から大雨で当初予定されていたグラウンドではなく工場内の施設で練習が行われました。都市対抗の近畿2次予選が終わったあとの平日だったため、選手は午前と午後の2班に分かれて仕事と練習。私が伺ったのは午後の部です。

 藤井コーチが現役だった2016年、都市対抗の補強選手に選ばれた際の取材で伺って以来、4年ぶりなんですよね。あの時、手作りで完成したばかりのブルペン(というか囲いがなく花壇のような感じなので投球練習場?)を帰りに覗いてみたら、周囲にぐるっとネットが張ってあり、すごく立派になっていました。

 練習中にもかかわらず、対応してくださった山田勉監督(62)のお話からです。今までは1試合だけで終わってしまっていた都市対抗の近畿2次予選。2連勝のあと4連敗ではありましたが、ことしは収穫も多い6試合だったのでは?「ここまで来られたことで、選手にもある程度の自信がついたんじゃないですか。それが一番、収穫だと思います。前はここまで来られていなかったので。チームのムードがよかったですよね」

就任1年目の山田監督は松下電器から南海に入団、広島でもプレーされました。
就任1年目の山田監督は松下電器から南海に入団、広島でもプレーされました。

 それは意識してのことですか?「(監督に就任した)去年秋から、力のあるなしは別としてチームの方向性を一緒にしようというところから始まったので」。とにかく大きな声が出ていたようで。「それが圧になるんですよ。やろうという気持ち、戦っていきたいという挑戦の姿勢。相手は強いんですからね、やっぱり。同じ方向を見て、向かっていってくれたのが一番よかった」

 課題は?「あとはこれからの課題を自分で練習して克服すること。ここという時に打てない、走れない、守れないではダメなので。個々の課題に取り組むことです。満塁でツースリーからでもボール球を見逃せるぐらいの、そこまでの技術を磨いてほしい。まだ場慣れしていないからね。場慣れです!」

「藤井コーチはお兄ちゃん役」

 投手陣の故障が多かったようですね。「そんな中で大西と宮城が投げてくれたし、あとはキャッチャーの福田がよう頑張ってくれた。このベテラン3人が声を出して、みんな行くぞ!ってチームを引っ張ってくれた。それがよかったと思います」

 東京ドームに手が届くところまで来ていたように思えましたが、既に切り替えて?「そうそう、もう終わったことはね。次のこと、来年のことを考えて。秋の大会は新しい選手を使っていきたいと、藤井コーチとも話しています。来年の構想に新しいメンバーが入ることもあるので。キャッチャーも植松でいこうと思う。福田のいない時によく頑張ってくれましたよ。いい選手です」

 最後に、藤井コーチのこともお願いします。「もうリーダーです。お兄ちゃん役ですよね」。口数が少ないかと…。「だから僕から聞くんですよ。何でも言うてや~、好きなようにやってや~と。監督であっても、もともと組織的な部分でわからないことがあるし。方向性だけ合っていれば、練習も好きなようにやってちょうだい。足りないことは僕からまた言うのでと」

練習の最初と最後に集合。右から2人目(窓際)に小さく見えるのが藤井コーチです。
練習の最初と最後に集合。右から2人目(窓際)に小さく見えるのが藤井コーチです。

 「今まで指導に関しては黙っていたんですけど、来年から私も言っていかないといけないですね。コーチの立場があるので、直接は言わないけど。僕からコーチ経由で遠回しに。でもこれから、ポイントだけは自分で言おうと思っています。ただし3つも4つも、じゃなくて1つだけ。ベアリングと同じなんですよね。全部つながっているものだから、1か所だけ直せば他も動いていく。社会人でもプロでも、私はそうやって教わってきました」

 確かに、1つのネジを調整すれば他の部分も改良され、やがてそれは全体に伝わるということですね。一度に何か所も指摘されたら、かえって身動きが取れなくなってしまうかも。よくわかります。陽気で気さくな山田監督と物静かな藤井コーチは、お父さん役とお兄さん役?絶妙の組み合わせです。

今季最終戦もタイブレークでした

 ちなみに山田監督が言われた“秋の大会”とは、10月10日からの『第146回JABA京都府秋季大会兼府民総体』で、カナフレックスは2回戦からの登場で初戦が11日、勝てば18日の準決勝、これも勝てば同日午後に決勝、というスケジュールでした。しかし天候との相性が悪く、まず10日の2試合が台風14号接近のため順延、2回戦も17日に延期され、今度は17日が雨天中止で順延になったのです。

 結局、18日と19日で2回戦をすべて消化できたとしても翌日以降は会場の確保が難しいため、準決勝と決勝は中止されています。なんともタイミングの悪い台風と雨のせいで、残念なシーズン締めくくりになってしまいました。結果はこちらです。

 10月18日 2回戦(太陽が丘球場)

カナフレックス-島津製作所

 島津 000 000 000 0 = 0

 カナ 000 000 000 0 = 0

  ※規定により延長10回はタイブレーク 引き分け

◆バッテリー

 【島津】溝田(9回)-中田(1回) / 安井

 【カナ】秋川(3回)-上村(3回)-青山(4回) / 植松

 今季は都市対抗の近畿2次予選が最初の公式戦で、これが最後の公式戦だったカナフレックス。タイブレークで始まって、タイブレークで終わったシーズンですね。

若い選手がどう感じたか

今季のチームスローガン。本当にいい笑顔を見せてくれました!
今季のチームスローガン。本当にいい笑顔を見せてくれました!

 ここで、藤井コーチのコメントをご紹介しましょう。都市対抗の予選を振り返って「選手が、結果の出なかった時にどう感じているかですね。いけいけ、どんどんはいいんですけど。上の子らはだいたいわかっているんで、特に若い子らがどうかというところ。キャプテンの北川、副キャプテンの福田と大西、そこらがよく若い子を引っ張ってくれました」と話しています。6試合もやれたことは今後に役立つ?「ワンランク上のチームは戦力が整っている。そこを崩すには…ってことですよね。うちはきれいな野球をしても勝てないので、そういう戦い方はしない。それは間違いないです」

 今シーズンについて「全員が(試合の)どこで出るか、という自分の任されるポジションを自分で考えて、何が足りないか理解してくれたらいいと思っています。その点で去年と比べると、どこで誰が出てもいいように準備できていました。スタメンも変えたりしているし、相手ピッチャーによっても違うし。そこの“幅”が去年より広がりましたね。オープン戦からこういう戦い方をしてきたので。それが、この1年の収穫です」と藤井コーチ。

 課題という点では監督と同じでした。「ピッチャーに故障者が出て…。そこがちょっと狂いました。結局は大西や宮城ってことになってしまって。ピッチャーの底上げですね。バッターはツースリーの見極めとか、1アウト二、三塁で一塁が空いている時に、どうかわしていくか。相手がフォアボールでいいと思って投げているところを振ってしまわないような、1球の見極めですね」

監督と選手をつなぐ大事な役目

 それから「上村とか、いい経験したんじゃないですかね」と、チーム最年少ながら都市対抗予選やオープン戦などチーム最多の23試合に登板したルーキー・上村剛輝投手(21)の名前を挙げました。さらに都市対抗予選の1回戦、2回戦と打点を稼いでいた、同じくルーキーの澤田裕基外野手(22)には「最初は元気よかったのに、最後は思いきりがなくなってしまった」と苦笑い。これは本人が聞いているのを知っての発言で、やはり苦笑いしながら頭をかく澤田選手です。

カメラを向けるとなかなか笑ってくれない上村投手ですが、みんなといれば柔和な表情。
カメラを向けるとなかなか笑ってくれない上村投手ですが、みんなといれば柔和な表情。

 この直後、やはりルーキーの秋川優史投手(22)が藤井コーチに「ちょっと話を聞いてもらっていいですか?」と声をかけました。選手からのこういった相談みたいなことはよくあるみたいで「藤井コーチはすごく話しやすいです!いつも相談に乗ってもらっています。野球のことも、それ以外のことも」と秋川投手。それ以外って、何だろうな~。

 大塩マネージャーも「話しやすいです。何かあったら一番に言います。誰より選手のことをよくわかっているので、指示もできるし、コミュニケーションも取れる。監督と選手の大事なパイプ役ですね。カナフレックスだけに」という藤井コーチ評。パイプやホースなどを製造販売するカナフレックスコーポレーション株式会社にかけた回答、思わず「うまい!」と反応しちゃいました。

“惜しかった”では意味がない!

 チームにおける藤井コーチの役割や信頼度を、今回の取材で改めて感じたのですが、福田優人捕手(27)の話もまた、その思いを強くするものでした。福田選手は入団5年目の正捕手で、試合中も練習の時も大きな声でみんなを引っ張るチームの要です。

 まず近畿2次の感想を尋ねたら「チームとしてはやっぱり、どんな形でも(本大会に)行きたかったので、初戦の日生をとって勢いに乗れたんですけど、準決勝で負けてしまった時にうまく切り替えられなかった。負けても(試合は)続くのが都市対抗予選。そこでパッと切り替えればよかったのに、負けてズルズルいってしまったのが今回の反省点ですね」と分析しました。

ストレッチの時でも、福田選手(赤いウエア)の声が響きわたります。
ストレッチの時でも、福田選手(赤いウエア)の声が響きわたります。

 「あとは左ピッチャーを打てないってのが、外からも内からもわかったので…。そういうところが自分たちの甘さでした。でもチャンスはチャンスだったから、行かないと何の意味もない。“惜しい”じゃダメ。初出場で(北川)倫太郎を男にしたかったんですけどねえ」。思い出してもまだ悔しいという表情でした。あの日本生命を本気にさせたことで、かなりのインパクトがあったと思います。「でも、やり返されたんでね。ニチダイに勝って最後にもう一回、日生と戦ってやり返したかったんですけどねえ」

 敗者復活の第4代表決定トーナメント5回戦で再び当たった日本生命には、3対0と完封負けを喫しました。第5代表決定トーナメントへ回り、勝てば最後の1枠をかけてまた日本生命と戦えたのですが、ニチダイに1点差負け。結局、日本生命はニチダイに勝って、第5代表となっています。

2か月の休養、助けてくれた仲間のために

 福田選手個人として予選を振り返ってもらおうとしたら「4月に僕、自律神経失調症になって…。2か月間、休んでいたんですよ」と思わぬ答えが返ってきました。それは新型コロナの影響で?「いや、わからないです。2か月、地元の神戸に帰っていました。何もできなかった。寝られないし、メシも食べられないし。ほんまにしんどかった。死んだろかって思ってた。ずっと頭が痛くて、病院に通って薬もらって」

 そうだったんですね。予選の時も今も、まったくわからなくて、ただ痩せたかなとは思ったのですが。「10キロくらい痩せましたもん。最初は寝られない中でも練習は普通にしていたんですよ。これは寝られないからしんどいんだろう、寝られないからご飯も食べられないんだろうと思っていたけど、練習中に動悸とかして、おなかも痛くて、涙が止まらない。毎日泣いていました。これはヤバいなと」

 「でも、その間にみんなが毎日、電話とかLINEとかくれたから、都市対抗に行って恩返しをしたいという気持ちでやっていたんで。それがなくなって何も考えられないですね。みんなに申し訳なくて。あんな一生懸命やってくれたのにと。今は喪失感しかない。すべて出し切ってやろうと人生をかけてやっていたから。練習も、ご飯も無理して食べて」と、最後の方は明るく笑いながらの言葉です。「野球どころではなかったんですけど、単に野球をやりたいじゃなく、このメンバーでやりたいと思えた。それが一番大きかった。」

バッティング練習でトスを上げる福田選手。
バッティング練習でトスを上げる福田選手。

 恩返しの機会はまだまだありますよ。「ほんま神戸に帰っている間、死んだ方が楽やなと思っていたんですけど、でも助かりました。みんながいなかったらどうなったか。あの人が一番連絡してくれましたよ」。あの人?と聞いたら、藤井コーチの方を指差して「いつも『どうなん?』って電話してくれます」。あー、どうなん?ってわかる気がする。

 「最初、休む時も周りに言えなかった。言いづらかった。だから藤井コーチに言うたんですよ。そしたら病院とか探してくれて。病院に通っている時も『きょうはどうやった?』とか聞いてくれたり。テレビで見た情報を教えてくれたり。藤井コーチの現役時代も一緒にやっていたので、僕は言いやすかった。みんなにはコーチやけど、僕は…お兄ちゃん!ずーっと連絡してくれて、ほんまに助かりました」

「来年、藤井コーチを胴上げする!」

 ソフトバンクやメジャーでプレーした川崎宗則さんも自律神経失調症を経験していて「戦わない。これも自分と受け入れて、一緒に生きていく。腰痛みたいなものだ」と言っていたとか。それで「あ~そうか。治しにいかないのか。なるほど!と思いました。むしろオープンにして、さらけ出すことにしたので、戻ってきてからは会社の人も地元のみんなも知っています」と福田選手。「な?みんな」と後輩たちに声をかけて、みんなも屈託なくいじっていました。

 ところで、監督によれば植松佑太捕手(23)が留守を守ってくれたとか。「そう、植松と喜来(友貴捕手、23)の2人が頑張ってくれた。ありがたいです。グループLINEも作ってくれたんですよ。それで戻ってきたら2人ともメッチャうまくなってて、嬉しかった!2か月の間にたくましくなって、うまくなって、ちょっと焦りましたね。追いつかれへんと思って(笑)。こっちも負けてられへん!って、より必死になりました」

お邪魔した日の午後練習メンバーで、終了後に集合写真を撮らせていただきました。
お邪魔した日の午後練習メンバーで、終了後に集合写真を撮らせていただきました。

 仲間がいるっていいですね。「ほんま彼らのおかげで今、生きています。じいさんにも感謝です」。じいさん?藤井コーチのこと?“ふじい”の“ふ”を取って?「はい。野球の時は藤井コーチって呼んでいます。そこはメリハリつけて。ね、じいさん」。そう呼ばれて何も言わずニコニコ笑う藤井コーチ。目に浮かぶでしょう?

 最後に福田選手が「行きたかったなあ、都市対抗」とつぶやいたので、来年は何が何でも行きましょうと言ったら「来年行って、じいさんを胴上げする!」と宣言しました。夢が夢でなくなる日も、そう遠くないと信じています。

   <掲載写真のうち★印はチーム提供、他は筆者撮影>