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元阪神の藤井ヘッドコーチ「来年は逆に1点差で勝てるカナフレックスに!」

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
※カナフレックス創部時からの同期。左から藤井コーチ、梁川マネージャー、年綱選手。

 10月に京セラドーム大阪で行われる『第45回社会人野球日本選手権』。今は各地区の最終予選で、代表チームが続々と決まっているところです。近畿地区でも8日に4つの代表が出揃いました。

 6日の代表決定戦で出場を決めたのはパナソニック(25大会連続40回目)、大阪ガス(7大会連続23回目)です。また敗者復活戦に回ったチームによる代表決定戦が8日にあり、ここで三菱重工神戸・高砂(3大会連続24回目)とNTT西日本(8大会連続21回目)が勝ち抜けています。この数字でわかるように、ほとんど常連ですね。

 この前の記事で、カナフレックスの藤井宏政コーチ(29)とパナソニックの阪口哲也コーチ(27)が顔を合わせた、第1代表決定戦の模様をお伝えしました。こちらからご覧ください。→<日本選手権代表をかけた3年ぶりの阪神OB対決、今度はコーチ同士でした。>

 1点差で勝ったパナソニックが本戦出場を決め、敗れたカナフレックスは8日の第3代表決定戦に回っています。カナフレックスはこの決定戦1試合ですが、相手は敗者復活の1回戦、2回戦を勝ちあがってきた三菱重工神戸・高砂。これまた1点を争うゲームとなりました。

またしても1点及ばず惜敗

※わかさスタジアム京都は真夏の暑さでしたが、木々ではツクツクボウシが鳴いています。
※わかさスタジアム京都は真夏の暑さでしたが、木々ではツクツクボウシが鳴いています。

 では、カナフレックスと三菱重工神戸・高砂(以下、三菱重工と表記)の試合結果からご紹介しましょう。カナフレックスの先発は5年目の宮城慎之介投手(26)、三菱重工は高橋涼平投手(27)です。

《第45回日本選手権 近畿最終予選》

代表決定戦-3  9月8日

カナフレックス-三菱重工神戸・高砂

 カナ 001 000 000 = 1

 三菱 011 000 00X = 2

◆バッテリー

【カナ】●宮城-黒岩 / 福田

【三菱】○高橋-尾松-守安 / 森山

◆本塁打 三:西岡ソロ(宮城)

◆盗塁 三:和氣

※個人戦績はカナフレックスのみ

◆打撃   (打-安-点/振-球/盗/失)

1]二:武田  (4-1-0 / 0-0 / 0 / 0)

2]左:山崎  (4-1-1 / 0-0 / 0 / 0)

3]指:前出  (3-0-0 / 1-0 / 0 / 0)

〃打指:中尾 (1-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

4]三:吉田  (4-2-0 / 0-0 / 0 / 0)

5]一:北川  (4-0-0 / 1-0 / 0 / 0)

6]中:新谷  (4-2-0 / 0-0 / 0 / 0)

7]右:青木  (4-0-0 / 2-0 / 0 / 0)

8]捕:福田  (3-1-0 / 1-0 / 0 / 0)

9]遊:高畑  (3-1-0 / 0-0 / 0 / 0)

   

◆投手    (安-振-球/失-自)

宮城 3回 52球 (5-1-1 / 2-2)

黒岩 5回 56球 (4-0-0 / 0-0)

《試合経過》※敬称略

先発の宮城投手。昨年は日本選手権でも先発しました。
先発の宮城投手。昨年は日本選手権でも先発しました。

 2回裏にまず宮城が、1死から西岡にホームランを打たれ先制を許します。しかし3回1死から高畑が中前打と投手の牽制悪送球で二塁へ進み、武田の一ゴロで2死三塁となって山崎が中前タイムリー!すぐに追いついたと思ったら…。3回裏に内野安打と四球(暴投)などで1死一、三塁として和氣のタイムリーで2対1。

カナフレックス唯一の打点は3回2死三塁で出た、山崎選手のタイムリー!
カナフレックス唯一の打点は3回2死三塁で出た、山崎選手のタイムリー!

 4回から黒岩が登板し、4回と5回は8球ずつで三者凡退!6回は1安打のみで、7回は1死から連打されましたが、後続をしっかり断って無失点でした。8回は1死後、和氣に左前打を許すも4番・福田は二ゴロ併殺打!3人で片づけて味方の反撃を待ちます。

 一方、カナフレックス打線は4回、吉田と新谷がヒットを放ったものの、他はフライアウトでチャンスなし。5回は三者凡退。6回と7回は2死から1安打ずつ出ただけ。8回はまた三者残塁。そして9回も2死から新谷が中前打したけれど、最後は左飛。放った8安打はすべて散発で、3回以外は三塁を踏むことなく終わりました。

「あと1本出ていれば…」

 試合後、河埜敬幸監督からは「あと1本出ていれば…」と6日と同じ言葉が聞かれました。さらに「バントが全然決まっていないんですよね。緊張していたのかなあ。ゲームにはなったけど、あと1本ねえ。押せ押せになりかけた、と思ったら止まってしまう」と試合を振り返っています。

6日は9回1イニング、8日は4回から5イニングを0点に抑えた黒岩投手。
6日は9回1イニング、8日は4回から5イニングを0点に抑えた黒岩投手。
6番・新谷選手は9回2死から中前打で望みをつなぎましたが…
6番・新谷選手は9回2死から中前打で望みをつなぎましたが…

 「黒岩で勝ちにいかないと、と思って。いつもの抑えから早めにつぎ込んでいったんですけど、期待通り、あれだけ投げてくれた。投打の噛み合わせがなかなかうまくいきませんね。本当に、あと1本出ていれば乗っていける試合だった。監督の打線の組み方が悪かったんでしょう」と自嘲気味に話す河埜監督。

 「練習試合ではもっと噛み合わせが悪かった。でも今大会に関してはちゃんとゲームになっていましたね」。どっちに転ぶかわからない展開だったので“互角”と言えるのでは?「ちょっとずつレベルは上がってきたかな。最初の頃に比べたら」と、この言葉は私の顔を見て少しニヤッという感じでした。はい!創部1年目を思えば、右肩上がりそのものです。

試合終了の挨拶。左から河埜監督、主将の北川選手、悔しがる次打者だった福田捕手。
試合終了の挨拶。左から河埜監督、主将の北川選手、悔しがる次打者だった福田捕手。

 元楽天で2018年に加入した北川倫太郎選手(26)が、今季から主将を務めています。それについては「選手同士のミーティングをよくやっていますね。いろんな意見も出ているみたいで。なるべく僕らは言わないようにしているんです。選手同士でやってくれればと思って」とのこと。

 そして最後に「選手はよく頑張ってくれたと思います。負けた悔しさを来年どう生かすか、ですね」と締めくくった河埜監督。2年連続の日本選手権出場は逃しましたが、戦った相手にも、その他のチームにもカナフレックスというチームを確実に意識させられたと思います。来年を楽しみにしましょう!

1点の差がチームの差かもしれない

 藤井コーチは「後半、2アウトからしかランナーが出ていないのが苦しかったですね。パナの時は先頭が出たので」と言います。確かに6日のパナソニック戦では9イニング中7イニングで先頭を出す(そのうち6イニングがヒット)展開でした。しかも1点差で負けるという悔しさ。「前もそうだった。その1点がチームの差、ですかねえ」。“わずか1点”では済まない差が、そこにあるのでしょうか。

サードに立つ姿も板についた藤井コーチ。
サードに立つ姿も板についた藤井コーチ。

 もう来年の話をしなくちゃいけないのは寂しいですが、河埜監督と同じように「年々ゲーム的にはよくなってきています」と藤井コーチも言うので、期待したいところ。「チーム力は負けないくらいになってきているから、逆に1点差で勝てるくらいに作っていかないと。打力、走力、守備力はゲームになってみないとわからないので」。そのためにも実戦をこなせる機会が増えるといいですね。

 それにしても、すっかりコーチらしくなりました。ミーティングでも理路整然と話していますし、私の質問にもしっかり答えてくれて。なんたってヘッドコーチですから。新人選手の発掘のような仕事もしているそうですよ。出かけていって直に選手を見ているとか。オフも忙しい藤井コーチです。

5回無失点の黒岩、1番打者の武田

 続いて、4回からの5イニングを0点に抑えきった黒岩龍成投手(24)。かなり早い出番でしたね。「基本は後ろですが、きょうは2番手でいくと言われていたので。思ったよりは、ちょっと早かったかも」

5イニングとロングリリーフした黒岩投手。
5イニングとロングリリーフした黒岩投手。

 「調子はそんなによくなかったんですけど、マウンドに上がったら思ったよりいけましたね。自分がゼロに抑えていたら、いつか逆転してくれると思って、1イニング1イニングと。先を見ずに、その1イニングを抑えようと思いながら投げた」

 入部2年目ということは、去年の日本選手権に出ていますね?「去年は予選で投げて勝ちましたが、そのあと状態がどんどん悪くなって本戦は投げられなかった。試合中も準備はしていたんですが…。だから出たかった。投げたかったです」

 武田勇樹選手(26)は試合が始まってすぐに、もうユニホームが泥んこです。6日も8日も初回にヒットを放ち、果敢な守備を見せました。「仕事を果たせたかな。1番としても、内野としても。1番が出たらチームは乗ってくるし、二遊間がしっかり守ったら引き締まるので。それも役割かなと思っています」

これは6日のパナソニック戦での、“泥んこ”・武田選手。
これは6日のパナソニック戦での、“泥んこ”・武田選手。

 以前の記事にも書いたように武田選手は藤井コーチの後輩、加古川北高校出身です。そんな藤井コーチについて聞くと「一番信頼しています!練習中の動作1つにしても、しっかり見てくれて、いつも的確に答えてくれる。人間的にもやさしいし、非の打ちどころがないですね」と大絶賛。

 2試合とも1点差で敗れたことは「だから余計に悔しいです」と武田選手。それが本音でしょう。

ルーキーが迎えた惜別の時

 4番を務めるルーキーの吉田健悟選手(23)は6日が3安打、8日は2安打。しかし8日の内容には「打つ場面が違う。1打席目に打たないと。ヒットの出るタイミングが悪いので、そこが課題です」と反省していました。1打席目とは1回2死二塁で中飛に倒れたことです。来年はチャンスで大活躍できますように。

吉田選手は4打数2安打。写真は“打つべきだった”と悔やむ1回の中飛。
吉田選手は4打数2安打。写真は“打つべきだった”と悔やむ1回の中飛。
※引退する先輩の挨拶に涙していた吉田選手。少し笑ってくれました。
※引退する先輩の挨拶に涙していた吉田選手。少し笑ってくれました。

 ところで、球場の外で全員集合した際に、監督やコーチからの話や伝達が終わった後も、選手たちは輪になったままでした。そこで先輩方に「泣くなよ」とからかわれる吉田選手。輪が解けたところで見たら、本当に目を真っ赤にしていたんです。どうしたのか聞いてみると「辞める人が多くて、寂しいです。可愛がっていただいたので…」と言葉を詰まらせます。どうやら引退する選手が話をしていたようですね。

 社会人野球は日本選手権が終わると、次年度に向けて進退を話し合います。会社から通達されることもあれば、自ら現役生活にピリオドを打つ選手も。カナフレックスにとっては今季最後の試合になってしまったので、そういう挨拶をしたと思われます。もちろん前もって「ことし限り」と表明していたはずで、その仲間のためにも日本選手権で締めくくりたかった、できるだけ長く試合をしたかったという悔しさもあるでしょう。

片山勢三選手になりたい!?

 吉田選手の話に戻って、藤井コーチのことを聞いたら「すごい人だなあと思います。プロでやってきたので何かが違う。打撃も守備もアドバイスしてもらって、特に守備はしっかり教えてもらっています!」と一気に答えてくれました。「メチャクチャ優しいです」ということも追加して。

吉田選手が憧れるパナソニック・片山勢三選手。写真は6日です。
吉田選手が憧れるパナソニック・片山勢三選手。写真は6日です。
バットを投げるのも片山選手ならでは。この打席は惜しくも左飛でした。
バットを投げるのも片山選手ならでは。この打席は惜しくも左飛でした。

 それと、6日の試合後に藤井コーチが「吉田は片山勢三に憧れているらしい。どんな選手を目指しているかと聞いたら片山って言うんですよ、プロの選手じゃなくて。『僕、片山選手になりたいです』って」と言いながら、思い出し笑い。珍しく大笑いするのでつられました。片山選手とは、その日に対戦したパナソニックの片山勢三選手。プロ注目の長距離砲です。

 本人にも聞いてみました。片山選手になりたい?「大学の時から動画を見て、憧れていたんです。あのバッティングにずっと憧れていました」。なるほど。豪快なスイングや放り投げるバットが、まさにホームランバッター!でも、だいぶ体格が違うような…。「はい、全然違うんですけど」と最後は照れ笑い。憧れの人の前で、来年は打ち勝ちましょう!

同期は少なくなったけど…

 藤井コーチと同い年の梁川浩樹マネージャー(28)にも久しぶりに会って、思い出話をしました。創部から6年です。「1回目の日本選手権が印象に残っていますよねえ。予選で劇的な勝ち方をして出たこと」。2年目で初出場となった2015年の第41回の社会人日本選手権で、劇的な勝ち方をした予選とは近畿地区最終予選の第4代表を決めるニチダイ戦。2対2で迎えた9回裏、1死満塁で犠飛を打たれてサヨナラ負け…と思ったら、タッチアップが早かったというカナフレックスのアピールが認められて延長戦へ。11回表に2点を取って勝ったものです。

※球場の外でミーティング。左端が河埜監督、中央の黒上下の服が藤井コーチです。
※球場の外でミーティング。左端が河埜監督、中央の黒上下の服が藤井コーチです。

 それに加えて私が忘れられないのは、梁川マネージャーの“クジ運”。ただでさえ緊張の初出場なのに、組み合わせ抽選会で引き当てたのが大会初日の開幕試合!おまけに相手が前年の都市対抗で優勝した西濃運輸という…。「クジ運がないですわ」とへこんでいた梁川マネージャーの姿を覚えています。それでも善戦しましたよね。その試合の記事はこちらでご覧ください。→<もと小虎たちが挑んだ社会人野球日本選手権 藤井宏政選手の巻>

※冒頭と別バージョンの同期スリーショットです。
※冒頭と別バージョンの同期スリーショットです。

 昨年は3年ぶりに日本選手権に出たカナフレックスですが2年連続とはならず、梁川マネージャーも「ことし期待していたんですけどね」と少し寂しそうでした。また藤井コーチのことを聞くと「チームになくてはならない存在です」と言い、続けて「創部の時からいたメンバーがもう3人になってしまって。藤井と年綱(恭平選手)と僕だけなんですよ」

 でも藤井コーチや梁川マネージャーと同い年で、OBの深瀬幹太さん(阪神・島本投手の高校の先輩)は、今も必ずどこかで応援に駆けつけてくれますし、やっぱり仲間っていいもの。来年は東京と大阪の“ダブルドーム”で、大集結といきたいですね。

    <掲載写真の※印は筆者撮影、他はチーム提供です>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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