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4年連続で決めた都市対抗出場!元阪神・玉置投手と日本製鉄鹿島の男気

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
ことしも都市対抗出場を決めてガッツポーズの玉置投手(左)。右は同い年の片葺捕手。

 阪神タイガースを退団後、社会人チームに所属して野球を続ける選手たちの中で、今も現役でプレーしている日本製鉄鹿島・玉置隆投手の話を、また書かせていただきます。先日の記事でもご紹介したように昨季から投手コーチ兼任となり、そろそろ後進に道を譲って…と考えたりもしていたところでエースの大貫投手がDeNAへ入団。新たな柱が出てくるのを待つだけじゃなく「自分で投げるのもあり」と、33歳になる今季もバリバリ投げています。

 7月に東京ドームで行われる『第90回都市対抗野球』は各地で2次予選を開催中。代表チームが続々と名乗りを上げているところです。日本製鉄鹿島も5月28日から北関東2次予選に臨みました。昨年までの戦いでは、同じ茨城県の日立製作所と群馬県のSUBARUとの三つ巴だったのですが、トーナメント形式1本に変わった今回は2チームが別のブロックにいるため、決勝でどちらかと一度顔を合わせるだけになったのは大きいですね。それについては、この記事でご覧ください。→<元阪神・玉置隆投手 社会人4年目「また本気の夏が始まる!」>

 玉置投手が入部して以来、3年連続で手にしてきた本戦切符。ことしは5月のJABA東北大会で優勝し、早々に秋の社会人日本選手権大会(京セラドーム大阪)の出場権を得たので、ここはやはり4年連続の“ダブルドーム”出場!といきたいところ。まず5月28日の1回戦は7回コールド勝ちと、順調な滑り出しとなっています。

≪第90回都市対抗 北関東2次予選≫

 (日立市民運動公園野球場)

5月28日 1回戦

太田球友硬式野球倶楽部-日本製鉄鹿島

 太田 001 000 0 = 1

 鹿島 010 310 6x=11

  ※大会規定により7回コールドゲーム

◆バッテリー

【太田】君和田-吉田 / 綿引

【鹿島】山井 / 坂口

◆本塁打 鹿:林

◆二塁打 鹿:堀越、高畠、坂口、藤本

 翌29日が雨で、予定されていた3試合とも30日に順延。その後も一日ずつずれて、31日に行われた準決勝第1試合で、日本製鉄鹿島は栃木県小山市のエイジェック(2018年創部)と対戦しました。ここも8対0の完封勝ち、という表現で片付けられない試合となったのです。なんと日本製鉄鹿島の左のエース・能間隆彰投手(27)が完全試合を達成!地元紙だけでなく、いろんな新聞やネットニュースでもご覧になった方がいらっしゃるでしょう。

5月31日 準決勝

エイジェック-日本製鉄鹿島

 エイ 000 000 000 = 0

 鹿島 104 030 00X = 8

◆バッテリー

【エイ】石毛-町田-井上-野中-安藤 / 松浦-小川

【鹿島】能間 / 片葺

◆二塁打 鹿:堀越、林2

 ※日本製鉄鹿島・能間投手 完全試合達成

 5月のJABA東北大会でも大車輪の活躍でチームの優勝に貢献、大会MVPも獲得した能間投手。絶好調ですね!完全試合の心境なども聞きましたので、のちほどご紹介します。

まさにルーズベルトゲームの決定戦!

第1代表決定戦、日本製鉄鹿島のスタメンシート。
第1代表決定戦、日本製鉄鹿島のスタメンシート。

 そして、第1代表決定戦も当初の6月1日から2日にずれたため、私も生観戦できました。1次予選後に玉置投手から「じゃあ北関東2次で待っていますんで」と言われたものの、日程的に難しいなあ(しかも同じ茨城県でも日立市はかなり遠い…)と思っていたのですが、何度も「待っています!」と。それが、この雨のおかげで人生初の茨城行きが実現したわけです。

 6月2日、初めてお邪魔した日立市民運動公園野球場では先に、第2代表を決める敗者復活戦3回戦(準決勝)が行われていました。エイジェックと群馬県太田市のSUBARUの対戦で、結果はSUBARUが都市対抗予選初出場チームに逆転負けするという波乱…。わからないものですよねえ。

※一足先に試合後の記念撮影の写真をどうぞ。
※一足先に試合後の記念撮影の写真をどうぞ。

 試合前に球場横のグラウンドで各自アップをしている時、玉置投手は準決勝から応援に来られているご家族や友人たちを見つけて嬉しそうです。和歌山から成田経由で日立という、なかなかの移動距離&時間。でもお母さんやお兄さん、もちろん大会中は日立市に泊まって応援する奥さんと2人の娘さんが、玉置投手にとって何よりパワーの源なので。では試合結果をご覧ください。

6月2日 第1代表決定戦

日本製鉄鹿島-日立製作所

 鹿島 003 000 302 = 8

 日立 000 420 010 = 7

◆バッテリー

【鹿島】玉置-伊藤-能間 / 片葺

【日立】猿川-岡-梅野 / 中園

◆本塁打 鹿:片葺ソロ(猿川)、林3ラン(猿川)、林2ラン(梅野)

     日:岡崎2ラン(玉置)

◆二塁打 鹿:高畠、福盛

◆打撃   (打-安-点/振-球/盗/失)

1]右:小幡  (5-0-0 / 1-0 / 0 / 0)

2]中:藤本  (3-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

〃中:平山  (1-0-0 / 1-0 / 0 / 0)

〃打:安達  (1-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

〃三:木村  (0-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

3]左:堀越  (3-2-1 / 0-2 / 0 / 0)

4]指:高畠  (5-3-0 / 0-0 / 0 / 0)

5]二:林   (5-3-6 / 0-0 / 0 / 0)

6]一:福盛  (5-1-0 / 0-0 / 0 / 0)

7]遊:佐藤竜 (4-0-0 / 2-0 / 0 / 0)

8]捕:片葺  (4-2-1 / 2-0 / 0 / 0)

9]三:渡部  (3-0-0 / 0-0 / 0 / 0)

   

◆投手 (安-振-球/失-自) 最速キロ

玉置 5回 72球 (8-2-1 / 6-6) 144

伊藤 3回 49球 (2-1-1 / 1-1)

能間 1回 11球 (0-0-0 / 0-0)

《試合経過》※敬称略

※片葺選手が3回に先制のソロホームラン!写真は4回の左前打です。
※片葺選手が3回に先制のソロホームラン!写真は4回の左前打です。

 先攻の日本製鉄鹿島は1回2死から堀越に左前打が出ますが、2回まで無得点。しかし3回、先頭の片葺がレフトへホームランを放って先制!さらに相手エラーなどで2死三塁として堀越が中前タイムリー!高畠も中前打で一、二塁。続く林が中前タイムリー!ソロと3連打で計3点を先取しました。

※先発の玉置投手。相変わらずチェンジアップが冴えていました。
※先発の玉置投手。相変わらずチェンジアップが冴えていました。
※6回から登板した伊藤投手。帝京~DeNA~鹿島です。
※6回から登板した伊藤投手。帝京~DeNA~鹿島です。

 玉置は1回、2回と三者凡退の立ち上がり。3回は2死から連打を浴びて二、三塁とピンチを招くも2番の岩崎恭平(元中日、オリックス)を2打席連続の空振り三振に仕留めて無失点。おなじみチェンジアップです。

 ところが4回は先頭に四球を与え、4番・田中の中前打で無死一、三塁。ついで三塁線ぎりぎりの打球が飛び、サードは捕って三塁走者にタッチしますがセーフ。一塁に送球するもセーフ(記録はサードの野選)で、無死満塁となりました。6番・大塚に中前タイムリー、なおも満塁で続く濱元には中犠飛を許し、ここで走者2人とも進めてしまい1死二、三塁に。次の中園の二ゴロ(セカンド林がよく止めた!)でもう1点。9番・吉田にも中前タイムリーを打たれ、この回は打者8人で3安打4失点と逆転されます。

 6回も先頭の岩崎にセカンド内野安打を許しますが、次の遊ゴロで併殺。と思いきや、田中の右前打に続いて5番・岡崎が右中間へ2ラン…。5回を投げきったものの8安打6失点の玉置。打線は4回、5回と1安打ずつ出るけれど得点にはつながらず、6回は三者凡退でした。その裏、2人目で登板した伊藤が三者凡退に抑えると、7回の攻撃で2死を取られてから打線がつながります。

※7回に同点の3ランを放った林選手(右)と生還した堀越選手(手前)と高畠選手(奥)。
※7回に同点の3ランを放った林選手(右)と生還した堀越選手(手前)と高畠選手(奥)。
※9回の林選手、今度は逆転の2ランを放ちました!
※9回の林選手、今度は逆転の2ランを放ちました!

 まず堀越がショートのエラーで出塁すると、高畠の左翼線二塁打で2死二、三塁。続く林がライトへホームラン!なんと3ランで6対6、追いつきました!ここで猿川が降板。代わった岡から福森が左中間二塁打を放ちますが、ここは同点止まりです。その裏の伊藤は2死からヒットと盗塁を許しただけ。8回表は三者凡退に抑えられた鹿島打線。

 8回裏、伊藤は先頭の岡崎に右前打され、犠打で二塁へ。次の二ゴロで2死三塁となって、ここでなんと暴投…1点を勝ち越されてしまいました。中園には四球を与えますが、キャチャーのけん制でタッチアウト。何とか最少失点で終え、1点差で9回に突入です。

※9回裏を三者凡退で締めた能間投手。
※9回裏を三者凡退で締めた能間投手。

 9回表、鹿島は代打の安達が遊ゴロに倒れ、堀越は四球を選んで投手交代。日立3人目の梅野に対し、ここまで3安打の高畠が左飛で2死一塁。続く林が7回と同じようにライトへ飛ばした大きな打球の行方を、ベンチもスタンドも固唾を飲んで見守りました。これがなんと2打席連続のホームラン!先ほどは同点3ラン、今度は土壇場での逆転2ランです。このままなら第2代表をかけた翌日の試合に…もう1泊するのか…などと一瞬でも考えた自分を猛省。

 8対7で迎えた9回裏は、エース左腕・能間が登板して、中飛、一ゴロ、一ゴロ。11球の三者凡退締めで試合終了。いや~こんな試合はなかなか経験できませんね。しかも選手やスタンドで応援する方々が、きっと逆転勝ちするだろうと信じて疑わなかったことに驚きました。そんな試合をこれまでも経験し、乗り越えてきたからでしょうね。

中島監督と4番・高畠選手の談話

※勝ってマウンド付近に集まった鹿島の選手たち。紙テープが飛びます。
※勝ってマウンド付近に集まった鹿島の選手たち。紙テープが飛びます。

 試合後、中島彰一監督(52)は「ジェットコースターみたい」と苦笑い。それから「去年も9回で3点差だったのをひっくり返した。勝つか負けるか、どっちに転ぶか。1年かけてやっているので、1球の怖さも身に染みたゲームでしたね。こんなゲーム、本当はやりたくない」と本音もチラリ。

 都市対抗の予選では神投球を見せる玉置投手が、珍しく6点を失ったけれど「玉置はいつも頑張ってくれているので、彼が打たれたときは打線が頑張る。そういうチームです」と微笑む中島監督。なるほど、いいチームですね。

※表彰式でMVP賞を贈られる林選手。13打数8安打で打率.615となり首位打者賞もダブルで獲得。
※表彰式でMVP賞を贈られる林選手。13打数8安打で打率.615となり首位打者賞もダブルで獲得。

 3安打の4番・高畠裕平外野手(28)は「きついゲームでした」とホッと息を吐きました。それにしても7回は2死からエラーで出た走者を置いての二塁打、見事です。「あそこは長打を狙って、自分で2点取るつもりでいきました」。すごいチームですね。「はい!こういうのが多いので。いや、こういう試合ばかりなので(笑)、信じてやってきました」

 昨秋の京セラドーム、日本選手権でベスト4まで行った、あの快進撃を東京ドームで見たいと言ったら「はい、ベスト4以上!」と頼もしい言葉が。楽しみにしています。

片葺選手のこだわり&伊藤投手の後悔

 次に投手陣をリードした片葺翔太選手(33)。先制のホームランにも表情を変えず、淡々と走っての生還だったのは?「あそこで自分がガッツポーズをしてしまったらダメだと。勝ってからしようと思っていました。最後まで気を抜かへんつもりで」。それが正解だったと、のちにわかりますね。

※片葺選手は3回にホームラン。でもご覧のように表情を緩めませんでした。
※片葺選手は3回にホームラン。でもご覧のように表情を緩めませんでした。

 玉置投手については「途中からボールが浮いてきていたので、そこだけですね。大塚のセンター前はスライダーをうまく打たれたけど、それ以外は全部甘かった」とのこと。「彼は熱い感情を持っているので、『俺がこんなに点を取られたら…』という気持ちが出てしまったんでしょう。それが見えました」と、同い年の“女房”らしいコメントです。

 また「うちは個性豊かな選手が多いけど、全員が家族みたいなもの。いろんなヤツがいても、根本的なとこはみんな一緒なんです」と。そんな家族そろって東京で勝ちましょう!

※自身の暴投で勝ち越された伊藤投手ですが、林選手の逆転2ランにこの表情!
※自身の暴投で勝ち越された伊藤投手ですが、林選手の逆転2ランにこの表情!

 6回から登板した伊藤拓郎投手(26)は「もともと負けているところからの登板だったので、何とか攻撃のリズムを持ってこられるようにと思っていました」と振り返ります。追いついてもらったあとの8回に暴投で勝ち越し点を与えてしまったことは「あそこの先頭を出してしまったのが…。何とかゼロで抑えなければいけないところなのに」と猛省。

 「打たれたのではなく、失投での失点。そこに悔いが残ります」と悔しそうな表情でした。「でも勝ったので。本当に勝ってよかった!」。その通りです。

能間投手、人生初の完全試合

 能間投手は試合前に聞いた話からご紹介します。自身が先発するにもかかわらず、玉置投手は試合前に“コーチ”の顔で能間投手を紹介してくれました。「能間、いっぱい話を聞いてもらえ」と。もちろん登板準備をしている中で答えてくれた能間投手も、ありがとうございます。

 準決勝で完全試合を達成しましたね。今までに経験は?「初めてです。一度もない。人生で初です」。どのあたりで意識をした?「5回にスコアは見ていたので、ヒット0ってのもわかっていました。ああ、そうなんだって」。え、その程度?「オープン戦だと意識したと思いますが、都市対抗の予選なので勝てばいいと。打たれても、ランナーを出してもゼロで帰ってくればいいんだと思っていたんです」

試合前に話を聞いた能間投手。赤福もちが大好物だそうです。
試合前に話を聞いた能間投手。赤福もちが大好物だそうです。

 確かに、意識したら打たれるということも多いですもんね。「ただ7回くらいから、誰も声をかけてくれなくなったんですよ。送り出す時に(笑)。気を使われているなあと思いました」。難しいところです。激励したいけど、それがプレッシャーになったら気の毒だし。「結果、勝てたので。それが一番よかったです」。お祝いの連絡は?「はい、いろんな方から、高校の同級生からもLINEやメールが来ました」

 ここまでを振り返って「今シーズンの成績は、最初あまりよくなかったんです。4月のJABA日立市長杯までよくなくて、ことし悪いな~って思っていました。でもゴールデンウィークのオープン戦でちょっと手応えがあって」と能間投手。そこからの活躍は周知のことですね。

 では試合後の話に移りましょう。9回1イニング投げて無失点の能間投手は「有言実行でしたね!」と笑顔。試合前に「ここ2年は大貫(DeNA)、その前は玉置さんが頑張ってくれていたので、玉置さんの負担を減らせるようにしたい」と話していたことでしょう。登板に際して「1点取ったら、追いついたら行く、と言われていたんです。そしたらひっくり返してくれたので」と。本大会ではまず初戦で先発かな?「東京ドームでお待ちしています!」

「玉置さんにおごるのが目標!」

※第1代表での都市対抗出場を決め、玉置投手(中央の左)と抱き合う能間投手(同じく右)。
※第1代表での都市対抗出場を決め、玉置投手(中央の左)と抱き合う能間投手(同じく右)。
※こちらは鮫島哲新コーチとがっちり抱き合う玉置投手。いい顔をしていますねえ!
※こちらは鮫島哲新コーチとがっちり抱き合う玉置投手。いい顔をしていますねえ!

 最後に、玉置投手兼コーチについて聞いてみました。「ほんとにすごいですよ。練習も試合も。走ってもピッチャーの中で一番速いと思います。いまだに50メートルは6秒を切れる!」。この日の球速も144キロがいくつかありましたもんね。まだまだ現役です。他には?「集中力。オンとオフの切り替えがうまい。試合中にミスをするにしても、そのミスの仕方がいい。たとえば、真ん中に抜けたりするボールは致命傷になるけど、引っかかってボールになると打たれない。そういうところがすごいですね。まだ追いつけていない」

 初対面だと、なかなか目力のある顔なので話しかけにくかったりしなかった?「いえいえ、それは全然ありませんでした。僕は入社して1年間は石崎さんや横山(現阪神)と一緒にやっていたこともあって、最初から接しやすかったです。後輩からすごく信頼されていますね」

 それから少し笑いながら、こんな話をしてくれた能間投手。「食事にもよく連れていってもらいます。僕から誘うこともあるんですけど、それでも玉置さんがご馳走してくれて…。年一回くらい(僕が払いますと)チャレンジしているけど、絶対に失敗します」。そして最後に「ことしの目標は、玉置さんにおごること!」と宣言しました。達成できたかどうか、また確認しますよ。

鹿島の西村選手。横田選手に似ている?と同級生の高山選手に聞いたら「確かに(笑)」と賛同してくれました。
鹿島の西村選手。横田選手に似ている?と同級生の高山選手に聞いたら「確かに(笑)」と賛同してくれました。

 試合とは関係ないんですけど、ベンチで大きな声を出し、イニング間も元気に盛り上げていた西村竜治内野手(25)。また今回も「横田です!」と言って私に挨拶してくれました。前にも書いたような気がします。大阪で道を歩いていると阪神の横田選手と間違えられたという話。それだけじゃなく「高山と坂本は大学の同級生、糸原さんは先輩。糸原さんの身の回りの世話は僕がやっていました」と、また新しい“阪神つながり”を披露。またゆっくりお話ししましょうね。

勝ってすべてが報われる社会人野球

 お待たせしました。トリはもちろん玉置投手です。「3回までどうかと思っていたら、ちょっと流れが変わって、あれ?あれ?と。気持ちの面で引きずってしまった」と4回以降のピッチングを振り返りました。「一年に一度の戦いなのに、取ってくれた点を取り返されて。すぐに気持ちを切り替えるのが難しい。引きずってしまった。この大会だからこそ。この日に賭けていたから、本当に申し訳ないです」

※ゲームセットの瞬間、ベンチを飛び出していく玉置投手(中央)。
※ゲームセットの瞬間、ベンチを飛び出していく玉置投手(中央)。
玉置家の皆さんと、和歌山から駆けつけた応援団。玉置家には11月に生まれた娘さんが加わりました。
玉置家の皆さんと、和歌山から駆けつけた応援団。玉置家には11月に生まれた娘さんが加わりました。

 そのあと「でも不思議と、負ける気はしなかったです。ほんとに。今のこのチームなら取り返してくれると思っていた」と言います。その信頼感が勝因かも。「林がすごかったですねえ。同期(入団)なんですよ。ほんと最高のチームですね!見に来てよかったでしょう?」。よかったです。感動しました。「試合勝ちました。僕は負けましたけど。それ書いといてください。僕は負けたって」。はい、書きましたよ。「東京ドーム、僕が投げようが投げまいが、チームが勝てばいい。そこに少し手伝える場面があったら投げます」

 最後に「能間、素晴らしかったですね!あいつが出てきてくれたのはチームにとって本当に大きい。エースですよ、あいつは。これも書いといてください」と投手コーチの言葉も付け加えておきます。試合後、バスで鹿島に帰って祝勝会だったそうで、ビールかけもやったはずです。帰りのバスに乗り込む寸前に、玉置投手がつぶやくように言ったのは

 「勝ってよかった。報われた」

 というもの。これがすべてですね。これが社会人野球だと今回また目の当たりにしました。都市対抗出場おめでとうございます!東京ドームでことしも本気の夏を楽しんでください。

   <掲載写真のうち、※印のものはチーム提供。他は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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