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交流試合こぼれ話 縁と出会いのファイターズタウン鎌ケ谷《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
中止となり室内練習場で汗を流した望月投手。17日に仕切り直しの今季初先発です!

 阪神ファームにとって今季唯一の関東遠征は、千葉の鎌ケ谷でした。そして今季最初のファーム交流試合は、イースタンの日本ハムとの対戦。14日は才木浩人投手とリリーフ陣が好投し、打線は先発全員の14安打で7対2と阪神が勝っています。その詳細はこちらからどうぞ。→<交流試合・日本ハム戦 今季初の先発全員安打と、才木投手と、清宮選手と。>

 15日は朝になってから雨が強まったこともあり、9時前に中止が発表されました。この日は昨年12月に腰部ヘルニアの手術を受け、そこから復帰した望月惇志投手が、今季初先発予定だったので、本当に残念です。しかも横浜出身の望月投手にとっては、またとない関東での登板。みんながどれだけ楽しみにしていたかは安易に想像できます。

 そんな無情の雨は予報通り10時までに上がり、時おり青空がのぞく瞬間も。とはいえ終日どんよりした空模様で、グラウンドが乾くには至らなかったでしょうね。

 中止が決まったあと日本ハムの室内練習場を借り、試合が行われる場合と同じ時間から少し長めに練習をした阪神。昼食と着替えを終えて、予定よりだいぶ早い帰阪となりました。次に愛知県より東へ行くのは、6月の新潟・三条でのヤクルト戦です。

このマウンドからメジャーへ

 さて今回、日本ハムファイターズタウン鎌ケ谷で、スタジアム以外の施設にお邪魔したのは私にとっても初でした。球場のレフト方向に合宿所である『勇翔寮』と、その隣に室内練習場が建っています。とても立派で、甲子園の新室内よりも大きいような感じ。その前の道路で並ぶファンの方々に、阪神の選手らもサインをしていました。なお清宮幸太郎選手の居場所は、マスコミ陣が一斉に移動するのですぐわかります。

登板が流れ、室内でピッチングを行った望月投手(左)と石井投手(右)。
登板が流れ、室内でピッチングを行った望月投手(左)と石井投手(右)。

 室内練習場の中には3人が並んで投球練習できるブルペンもあり、捕手側から見て一番左のところだけ、他の2つとは土の色が違いました。カメラマンの方が教えてくださった、その理由とは…連日の活躍ぶりはもちろん、試合が中止になったことさえ大きなニュースとして伝わってくるエンゼルス・大谷翔平選手です。

ブルペンの左端、高橋コーチが立っている部分だけ色が違います。
ブルペンの左端、高橋コーチが立っている部分だけ色が違います。

 大谷選手のメジャー挑戦が決まった際に、球団がわざわざ作った『大谷専用マウンド』だとか。メジャー仕様で、他の2つより土が硬くなっているそうです。ここでMLBのボールを使って投球練習をしていたと聞きました。

 才木投手に伝えると「マジっすか!」と改めて見に行ます。投げてみたら?とカメラマンさんに促されたものの「僕にはまだ早いです」と辞退。“まだ”って言葉が気になりましたけど、まあ深い意味はなかったみたいで(笑)。藤井彰人バッテリーコーチは「え、ここ?大谷のために?いい球団やなあ」と言い、そのあと「誰か投げたらええのに。俺やったら一番に投げるわ」と興味津々の様子でした。

これが“メジャー仕様”の大谷投手専用マウンドだったそうです。
これが“メジャー仕様”の大谷投手専用マウンドだったそうです。

 そのまま置いておくかどうかはわからないそうで、近いうちになくなるかもしれませんね。そう思って写真を撮っておきました。大谷投手があの身長で、あの剛速球をここに向かって投げていたのか~と想像しただけで、怖いほど距離が近く感じられます。

 なおピッチングをしたのは望月投手、石井将希投手、そのあと山本翔也投手の3人だけで、結局『大谷マウンド』に立った人はいません。

雨で流れた関東での今季初先発

 練習を終えて、矢野燿大監督に話を聞きました。この日、室内練習場のブルペンで59球のピッチングを行った望月投手について「残念やったねえ。朝も天気予報を見ていたんだけど。早く投げさせてやりたかった」とガッカリした様子でした。「本当にずっと一度も下がらずに、というのがいい。順調にきている。本人の気持ち的にも、もっともっとやりたいっていうのが練習の姿勢や投球に出ているしね。本人が一番楽しみにしていると思う。俺らも楽しみ」

 先発をして、3イニング以上を投げてようやく1段上がるということでしょうか。「まだ“全部OK”というところまではいけていないからね。クリアしていけば先が見えてくる。もっと進むと思う」と矢野監督は話しています。

この日は長坂捕手を相手に59球を投げました。
この日は長坂捕手を相手に59球を投げました。

 望月投手も「残念です。朝10時くらいには止むと言っていたし」と、雨の上がった外を見ながらコメント。そして「やるつもりでいました。逆に、中止と思って気持ちが切れて試合ってのは嫌なので、僕はやるつもりでいたんです」と。なるほど。いったん「きょうはないなあ」と思っちゃうと、もう一度スイッチを入れるのは大変かもしれませんね。

 監督は「本人が楽しみだっただろうに」と言っていましたよ。「手術後は先発をしていないですし、やっと先発で投げさせてもらえるようになって、イニングも増えてきたので楽しみでした。体の痛みもなく、順調ですし」。投げ終わったあとも問題なく?「はい!何より腰の痛みがまったく出ていないので、それが一番」。どこも痛くなく投げられるのは幸せですね。「そうですね」

 自分の投げていた隣が『大谷マウンド』なのは知っていたそうです。ちょっと立ってみればよかったのに。「無理っす!(笑)」

 仕切り直しとなる次回登板については「休み明けになるべく早く」と矢野監督。高橋建投手コーチに確認したところ、望月投手の今季初先発は17日のウエスタン・オリックス戦(鳴尾浜)だそうです。3イニングの予定で、そのあと青柳投手が投げます。青柳投手も、その次の先発が既に決まっているとか。また18日は谷川投手、19日は岡本投手が先発で、岩田投手もどこかに中継ぎで登板するとのことでした。

“清宮少年”との出会い

 最後に、私は練習中にすれ違って挨拶をした程度だった日本ハムのドラフト1位ルーキー・清宮幸太郎選手のことを少し。といっても本人ではなく、周囲の話です。矢野監督と高橋投手コーチから「実は…」という話がありました。

日本ハムも、なかなか豪華なスタメンですね。
日本ハムも、なかなか豪華なスタメンですね。

 まず矢野監督。「試合前、挨拶に来たんやけど」。あー見ました!阪神の練習中に、バッティング練習を見守る矢野監督のところへ駆け寄った清宮選手が両足体重で深々と頭を下げ、挨拶後は少しはにかんだ笑顔も見せながらベンチへ下がっていったところを。「実は彼が小学校の時に会ってるねん。お父さんと食事した時、一緒に来ていて。それを覚えててくれたみたい。俺も、そういえば小さい時に会った子やな~と」

清宮選手の2打席目。余談ですけど「日ハムの21」と言えば西崎幸広投手が浮かぶ…のは私だけ?
清宮選手の2打席目。余談ですけど「日ハムの21」と言えば西崎幸広投手が浮かぶ…のは私だけ?

 その時の会話は?「こっちも全力でいくからなと言ったよ」。ガツンとね。試合での清宮選手には「まだちょっと自分の形で打てていない。怖さまでは感じないかな。自分のスイング、自分のタイミング、自分のポイントで打てていないので」と印象を語っています。締めは「ま、うちのピッチャーがよかったっていうことで」でした。

 変わって、高橋投手コーチの「実は…」は、なんとアメリカで遭遇したこと。2012年の夏、当時13歳だった清宮少年は『リトルリーグ世界選手権』に日本代表・東京北砂のエース&主砲として出場、しかも世界一に輝きました!優勝チームは翌日、ヤンキースかメッツの本拠地に招待されるのが恒例で、チームメイトと一緒にヤンキースタジアムを訪れたという経緯です。

ファーストを守る姿もしっかり撮りました。
ファーストを守る姿もしっかり撮りました。

 一方、高橋コーチは評論家として黒田博樹投手の試合を見に、佐々岡真司さんとヤンキースタジアムを訪れていました。さらに偶然は重なり、高橋コーチらがグラウンドへ出た時に東京北砂の選手たちもグラウンドレベルへ。チームメイトといても、13歳ながら180センチ以上あった清宮少年はすぐにわかったと思います。それに大会での活躍はご存じだったでしょう。

 当時を思い出して「ほんと偶然!偶然会ったんですよ」と興奮気味の高橋コーチ。「あの時に会ってるんだよって、チラッと話せたらと思ったけどチャンスがなかった」

東大の宮台投手が後輩

 そのかわりっていうのも変ですが、ブルペンで望月投手らのピッチングを見ていた高橋コーチのところへやってきたのは、東京大学法学部からドラフト7位で日本ハムに入団した宮台康平投手。聞けば「Tつながりだから」とニヤニヤする高橋コーチですが…東大のT?つながりって?我々にはわかりません。やがて明かされた答えは「戸塚中学のT」です。

 高橋コーチも宮台投手も、神奈川県横浜市の戸塚中学出身だったんですね。「宮台くんは知らなかったみたいで、島崎毅さん(現・日本ハム育成コーチ)に『会いたい』ってお願いしました」。それで、さっそく挨拶に来てくれたんでしょう。

昨年のイースタン首位打者・高濱祐仁選手は4番。また体が大きくなりましたね。
昨年のイースタン首位打者・高濱祐仁選手は4番。また体が大きくなりましたね。

 また高橋コーチは「昔いた高井一(はじめ)選手って知ってる?」と。はい、知っています!確かハッピーと呼ばれていましたよね。「そうそう、ハッピーも戸塚中学で、同い年ですよ」。へえ~そうだったんですか。「横浜高校も一緒で、そのあと別々になったけど」。高井さんは横浜から阪神へ、高橋コーチは大学と社会人を経て広島へ。その前年で高井さんは引退したので、プロでの再会はなりませんでした。

 いろんな出会いと縁を教えていただいた、雨天中止のファイターズタウン鎌ケ谷。次に訪れる機会があるとすれば、2年後でしょうか。宮台投手と清宮選手は3年目、そして14日に好投した才木投手は4年目で、残念ながら投げられなかった望月投手は5年目。みんなどんなふうに成長して、どこでプレーしているか。考えただけでワクワクします。

    <掲載写真は筆者撮影>

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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