Yahoo!ニュース

北朝鮮の北極星SLBMの下面カバーの外し方

JSF軍事/生き物ライター
2017年2月13日公表の労働新聞より北極星2弾道ミサイルの下面カバー

 北朝鮮の「北極星」SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)のシリーズはこれまで北極星1~5が登場しており、北極星2のみ地上発射型です。1~3までは試射済みで、4と5はパレードで公開されています。どれも固体燃料2段式+弾頭の構成で、発射方式はコールドランチです。

 コールドランチとはキャニスター(収納筒)の内部で膨張させたガスでミサイルを押し出して、空中に飛びあがった時点でロケットに点火して打ち上がります。これに対して地上でロケットに点火してそのまま打ち上げる方式をホットランチと言います。

下面カバーをロケット噴射で横に飛ばす北極星2

2017年2月13日公表の労働新聞より北極星2。拡大部分と矢印は筆者によるもの
2017年2月13日公表の労働新聞より北極星2。拡大部分と矢印は筆者によるもの

 北朝鮮の公式発表写真や動画で確認できますが、北極星2はコールドランチ直後にメインロケット噴射ノズルを保護する目的と思われる下面カバーを小規模なロケット噴射で横に飛ばしています。

 SLBMは水中発射されるので海水から保護するカバーを付ける場合があり、上面カバー(弾頭部を保護するシュラウドと呼ばれる覆い)ならば小規模なロケット噴射で少し上に飛ばしながら横方向に飛ばして外す方式は各国でもよく行われている方法です。これはミサイルの進行方向を妨げないようにカバーを外す目的です。

 しかし下面カバーならばそのまま落ちるに任せてもミサイルの進行方向には影響がありません。それではこの横方向に飛ばす機構は地上発射式の北極星2の発射車両を守るために実装されたのかと思えばそうではなく、本来の水中発射型の北極星3でも確認できます。

下面カバーをロケット噴射で横に飛ばす北極星3

2019年10月3日公表の労働新聞より北極星3。キャプションは筆者が追加
2019年10月3日公表の労働新聞より北極星3。キャプションは筆者が追加

2019年10月3日公表の労働新聞より北極星3。キャプションは筆者が追加
2019年10月3日公表の労働新聞より北極星3。キャプションは筆者が追加

 これは北朝鮮の北極星3の公式発表写真です。この下面カバー程度の質量ならば落下しても海面付近に止まり、海中に居る潜水艦に損傷を及ぼさないでしょう。横方向に飛ばす必要がさほど無いように思えます。それでも下面カバーに横噴射ロケットを実装しているということは、北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦は水中発射だけでなく浮上時の発射も考慮しているのか、あるいは水中発射時であっても念のために横噴射が必要だと判断されたのかもしれません。

中国のJL-2(巨浪-2)

 他国のSLBMでは、中国軍の公式発表で海面から飛び出た直後の上昇するJL-2(巨浪-2)の斜め下方に、小さな丸い物体が映った写真があります。連続写真や動画ではなかったので断定はできませんが、下面カバー(底部キャップ)の部品である可能性があります。

中国軍発表写真よりJL-2。矢印は筆者が追加
中国軍発表写真よりJL-2。矢印は筆者が追加

 ただし横に飛んでいる物体はミサイル直径と比べて明らかに小さく、カバー部品の一部分だけが外れているのが映っているのかもしれません。詳細はまだ不明です。

下面カバーをロケット噴射で横に飛ばすRS-28サルマート

 ミサイルの下面カバーを横方向に小規模なロケット噴射で横に飛ばす方式は、他にはロシアの重ICBM「RS-28サルマート」などでも見られる特徴です。これは落下した部品でサイロを壊さないようにするためです。

※ロシア国防省公式動画よりRS-28サルマートの試験発射

 サルマートの下面カバー(保護トレイ)は地上発射式なので海水からの保護が目的ではなく、大重量のICBMをコールドランチで打ち出す時のガス圧からメインロケット噴射ノズルを保護する目的などが考えられます。また保護トレイ自体にコールドガス発生器が仕込まれています。

 この方式はR-36やUR-100Nなど他のロシアの固定サイロ発射式ICBMでも実装されていますが、アメリカなど他の国のICBMでは見られない方式です。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

JSFの最近の記事