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忘れてはならない!JRジャヤワルダナ大統領、日本への本当の願い(サンフランシスコ講和記念日によせて)

にしゃんた社会学者/タレント
広島平和記念館でジャヤワルダナ大統領が行った記帳内容の一部とサイン・筆者撮影

2013年、年末あたりから、日本のメディアで「スリランカ」が立て続けに登場するようになった。数年前に25年にわたって、国の足を引っ張り続けた内乱が終息したことが、メディアにとってスリランカを取り上げやすい背景を作った。

なにしろ、九州の1.5倍の大きさにして世界遺産が8つ、国土面積では世界2位である。美しい海に仏教遺跡。知る人ぞ知る観光のメッカが長い眠りから再び目を覚ました。そこに1桁台後半の経済成長が重なる、スリランカドリームも加味され、日本でのスリランカ人気が爆発した。スリランカと関わりのある全ての人間にとってこれ程嬉しいことはない。

メディアにおいて、スリランカについて紹介される内容に違いがあっても、常に登場する「ネタ」が一つある。日本とスリランカ両国の間にはある強い繋がりがあるということだ。両国の絆を作った人物は、スリランカ初代大統領になったJ.R.ジャヤワルダナ氏である。彼は、1951年サンフランシスコ講和会議で日本の真の自由と独立の支持を訴える名演説を打った。当時はまだ44歳の若き政治家だった。ニュースウィーク誌はジャヤワルダナ氏のことを「会場の「花形」だった」と伝え、タイム誌は「最も有能なアジアの代弁者」と絶賛した。

ジャヤワルダナ氏は、その後も幾度と日本を訪れており、皇太子ご夫妻(今の天皇皇后両陛下)をはじめ多くの日本人をスリランカに招くなど、精力的に交流を行った。自他共に認める日本を愛してやまない人であった。死んだ後もその気持ちは変わることなく、片目の角膜をぜひ日本人に提供してほしいと頼んだ。

おそらく、日本のメディアにおいて、昨年までこの国を紹介することはほぼ皆無に近かった。長いブランクを拭い去り、日本人にスリランカに対して瞬間的に親近感を抱いてもらうために(つかみとして)、これほど強力な「ネタ」はない。(繰り返しになるが、どんな形であれ、スリランカが日本のメディアに登場することが、スリランカを母国とする端くれとしても大変うれしい!)

しかしここにきて、一つ気になっている点が存在する。この史実の「オチ」をどこに持ってくるかについてである。実は用いられた「オチ」は2つある。一つは、戦後に今の日本の復興に向けて道筋をの中における恩人の一人としてのジャヤワルダナ氏を知り、感謝しよう。これが一つ、もう一つは、親日家ジャヤワルダナ氏の話をした後、なぜ会議において、日本を擁護するような発言をしたか、それは「日本が戦時中ヨーロッパ列強と戦ったからである」というところで「落とす」パターンである。同じ史実でありながら、落ちがどこかによって受け手の心に残るメッセージがまるで違う。

前者の「オチ」だと、その先、世の中に対しての謙虚心や感謝の気持ちをもって向き合えるが、後者ではどうだろうか。「そうか、日本が行った戦争は正しかったのだと、サンフランシスコ講和会議であのようなスピーチを言わしめた日本がすごい」とはならないだろうか。そうすることで微かにでも暴力を肯定するような思い上がりの気持ちを覚えるのではないか。

確かに、ジャヤワルダナ氏のサンフランシスコ講和会議での演説の中で「西欧列強の中で日本のみが強力な独立国家で、従属民族が日本に対して敬意の念を抱いたことや、戦時中の日本が掲げたアジア共存共栄のスローガンが従属国民の心を動かした…」などの部分が含まれている。

しかし、少なくとも暴力なども伴った日本の歴史の全てを肯定するにあたっての題材として、ジャヤワルダナ氏を活用するには大きな無理がある。いわずして後者の「オチ」をもってくることによって、ジャヤワルダナ氏についてもですが、日本人が自らこの先についても、誤った方向性の結論に至るのではないかと懸念する。

ジャヤワルダナ氏の人物像の本質を理解する上では彼をさらに追及する必要がある。

もっとも注目すべきは、ジャヤワルダナは究極の平和主義者であったことである。サンフランシスコ講和会議のスピーチの中で今でも語り継がれる彼が用いた仏教の言葉に彼の人間としての本質が現われている。

ブッダの言葉であるダッマパーダ(法句経)5を、用いて「Hatred ceases not by hatred but by love (人はただ愛によってのみ憎しみを越えられる。人は憎しみによっては憎しみを越えられない)の部分こそ彼が生涯一貫して訴え続けたメッセージである。それを立証するいくつかの彼のメッセージをここで紡ぎたい。

ジャヤワルダナが結婚するまでに過ごしていた家が現在資料館になっている。コロンボに行った際、ぜひ訪れて頂きたい。そこに掲げ ている一際目立つジャヤワルダナの言葉がある。I do not know why human beings became brutes and kill their fellow beings. After all every human being is either a parent or a mother or child of somebody. (私は、なぜ人間が野蛮になり、仲間を殺すのか理解に苦しんでいる。結局、全ての人間は、誰かの親か母または子供である。) これは、スリランカ国民に向けて演説中に述べた言葉だが、国内外に起きている争いについて悩んでいることが伝わってくる。

彼の筆跡が日本に残っている場所の一つは、広島原爆記念館である。ジャヤワルダナ氏がこの世を去る5年前の91年、サンフランシスコ講和会議から数えて40周年の記念の年に仏教関係者の誘いにより日本を訪問した。広島ドームを見学した際に記帳した言葉の一部をここに引用する。

May the gospel of “ahinsa”, non violence, (中略)help to banish forever from the human mind the desire to kill, harm or in other ways spread the feeling of hatred among human beings. (アヒンサの福音、つまり非暴力が、人を殺したり、傷つけたり、人間同士の憎しみの感情を広めたいという欲望を人間から永久に消し去ってくれますように。)と書いてある。84歳の老人が原爆資料館で見た原爆直後の街の姿と、彼がその40年前にサンフランシスコ講和会議に向かう途中、訪れ、数日過ごした終戦直後の日本の悲惨な情景と重ね合わせたに違いない。

ジャヤワルダナ氏は、原爆記念館を訪問した後、犠牲者の碑に献花し手を合わせた。最後に、広島を離れる前に日本のメディアに向けて発したメッセージの映像が残っている。

「people must give up violence between nations.人々は、国家間の暴力を止めなければならない」ゆっくり、はっきり、そして力強い言葉で日本に、世界にそう伝えている。

日本の恩人であるスリランカ初代大統領J.R.ジャヤワルダナが残したこれら数々の真理を突いた金言。風化することなく永遠に一人一人が強く心に刻み国家の礎に置く必要があるのではないだろうか。

参考資料として下記の記事も合わせて読んでいただきたい。

日本、国家としての記念日は、思いやりをもって一つになってこそ!サンフランシスコ講和会議、複眼的考察

多死国日本、後始末への提案ースリランカからの言づけ

安倍首相、スリランカで愛を叫ぶ!日本を救ったブッダの教え「憎しみは、愛によって消える」

社会学者/タレント

羽衣国際大学 教授。博士(経済学)イギリス連邦の自治領セイロン生まれ。高校生の時に渡日、日本国籍を取得。スリランカ人、教授、タレント、随筆家、落語家、空手家、講演家、子育て父などの顔をもっており、多方面で活動中。「Mr.ダイバーシティ」などと言われることも。現在は主に、大学教授傍ら、メディア出演や講演活動を行う。テレビ•ラジオは情報番組のコメンテーターからバラエティまで幅広く、講演家として全国各地で「違いを楽しみ、力に変える」(多様性と包摂)をテーマとする ダイバーシティ スピーカー (多様性の語り部)として活躍。ボランティアで献血推進活動に積極的である。

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