先日、毎日新聞から取材されて、月9の恋愛ドラマ『ラヴソング』の不振についてコメントした。

特集ワイド 「月9」なぜ低視聴率 若者憧れのトレンディードラマ→「ラヴソング」史上最低6.8%

http://mainichi.jp/articles/20160601/dde/012/200/002000c

その原因については本文である程度説明したのだが、話しながら思ったのは、恋愛ドラマの不振はあくまでフジテレビが牽引してきた月9的な恋愛ドラマだけで、恋愛モノが不調というわけではないということだ。 

実際、『アオハライド』や『黒崎くんの言いなりになんてならない』などといった少女漫画原作の恋愛映画は女子高生に人気で、今期のテレビドラマでは『世界一難しい恋』(日本テレビ系、以下『セカムズ』)がヒットしていた。

『セカムズ』と『ラヴソング』どちらも恋愛ドラマだが、なぜ一方は成功し、一方は失敗してしまったのか?

焦点がぼやけてしまった『ラヴソング』

『ラヴソング』は、元ミュージシャンで今は企業カウンセラーの仕事をしている神代広平(福山雅治)と、吃音を抱える佐野さくら(藤原さくら)が主人公の恋愛ドラマだ。

『ひとつ屋根の下』、『ガリレオ』(ともにフジテレビ系)といった人気ドラマに出演した福山雅治の主演作ということもあって、ヒット間違えなしというのが、放送前の下馬評だった。

昨年、吹石一恵と結婚した時には、所属事務所の株価に大きな影響を与え、結婚にショックを受けた女性が多数いたことから「ましゃロス」という言葉も生まれたため、木村拓哉と並ぶ国民的人気俳優と多くの人々は捉えていたのだが、いざ始まってみると、視聴率は不調で最終的には平均視聴率8.5%(関東地区)という月9の最低視聴率を更新することになった。

理由は色々あるだろうが、見ていて最初に思ったのは、基本的に本作の主人公は吃音を抱えるヒロインのさくらであり、福山は彼女を支える大人の男性として登場するということ。つまり、名目上は主演だが、劇中の役割は脇役だったため、福山目当てだった視聴者が、「話が違う」と、まず最初に離れたのではないかと思う。

おそらく作り手としては、10代~20代の若者層と今まで福山を応援してきたアラフォー層の両方を狙ったのだろう。

物語も、吃音で苦しむさくらを導くことで、恋人を失ってミュージシャンとして挫折した中年男性が復活するという、さくらたち若者の物語と、神代たち大人の物語が交差する相互補完的な作りとなっていた。

この試み自体はそこまで悪いことではない。

そもそも福山は激しく自分を主張するタイプではなく、ナンバー2を演じた時に魅力を発揮する俳優だ。本業がミュージシャンということもあってか役者としての自我が小さく、そのこだわりの無さが独自の軽さとなって、万人に受け入れられてきた。

だから、本作の役割も間違ってはいなかったのだが、どうも途中からそのバランスが崩れてしまったように思う。

特に、おかしくなったと思ったのは、中盤でさくらが神代に対してはっきり「好き」と恋愛感情があることを言ってしまったことだ。

その瞬間、中年男性が死んだ恋人の曲を若い子に歌わせることで自分のものにしたいという「マイ・フェア・レディ」的な欲望が発生してしまって、月9を見ているような女性視聴者が、「何だか、気持ち悪い話になってきたなぁ」と思って、作品から離れてしまったのではないかと思う。

全体的に不評だった本作だが、第一話の印象は悪くなかった。自動車会社で整備工として働く吃音の女性を主人公にしながら、ことさら美化することなく卑屈な内面もしっかりと描こうとする姿はドラマとして攻めていると感じたし、音楽療法の場面も悪くなかった。しかし、それ以降の焦点がぼやけて迷走してしまったように思う。ヒロインがライブハウスで歌うのはまだしも、元ミュージシャンの神代と歌手デビューを目指したり、医者と患者、先生と生徒の関係を崩して、さくらの幼なじみの天野空一(菅田将暉)との三角関係を強調し、最後には喉に悪性の腫瘍ができて手術の際に声帯を切除して歌えなくなるかもしれないという難病モノの要素で物語を引っ張ろうとしたりするのだが、そういった展開の一つ一つが使い古されたものだった。

吃音の女性が音楽療法を通してコンプレックスを克服していく物語ぐらいに止めておけば、それなりの作品となったのではないかと思う。

同時に思うのは、結果的に一番足を引っ張ったのは、福山雅治を女性にモテるカッコいい男として描かねば魅力的に見えないという作り手の思い込みだったように思う。

極端な話、福山の演じた役を、武田鉄矢やマキタスポーツのような冴えない中年俳優にして、恋愛要素は一切排除していたらまた違ったかもしれない。

神代は、あくまでさくらを導く医師であり師匠でありという存在に留めて若者たちを後ろから見守る存在に留めておけば、もっと疑似親子的な物語として安心して見れたのではないかと思う。だらしない神代だが女性にはモテるということを強調するためか、ベッドシーンを何度か入れたことも、悪い意味で生々しさを加味してしまったように思う。

最終話では、数年後に、空一に支えられてさくらが今も歌っている姿を確認した神代がさくらに会わずに去っていく場面で終わるのだが、おそらく脚本家も、途中で相当無理がある話だなぁと思って書いていたのだろう。

そして、それは福山にとっても同じ気持ちだったのではないかと思う。

元々、福山にはラジオなどで見せるスケベな話も普通にできる気さくなあんちゃんとしての側面があり、女性だけでなく男性からの人気も高い裏の顔を持っていた。

おそらく、結婚を転機に女性人気の高いアイドル的存在から脱却して、今まで隠し味としてきたおっさん臭さを全面に出すことで、年相応の味のあるカッコ悪いおじさんになることを狙っていたのではないかと思う。

特に是枝裕和監督の映画『そして父になる』で主演を務めて以降、役者としての意識も変化してきており、次回作となる大根仁監督の映画『SCOOP!』で福山が演じるのも酒とギャンブルが好きで借金に追われるパパラッチという設定で、明かに今までの路線を変えようとしていた。その意味で“音楽に挫折した元ミュージシャンの中年男性”という、もしかしたらそうなっていたかもしれない“もう一人の自分“を あえて演じるというのは、面白い試みだったと言える。

しかし、出来上がったものを見ると、どうも作り手が遠慮して、福山を汚しきれなかったことが最大の敗因のように思う。

配慮の行き届いた作りだった『世界一難しい恋』

対して『セカムズ』はどうか。本作は、大野智が演じる大手ホテルチェーンの社長・鮫島零治と波瑠が演じる新入社員の柴山美咲の恋愛ドラマだが、物語は鮫島が柴山に片想いをして一人で空回りする姿をコミカルに描いており、恋愛ドラマというよりは恋愛コメディドラマと言った作品だった。

平均視聴率12.9%(関東地区)と今期のドラマでは第二位の視聴率となった本作だが、みていて驚いたのは、34歳の社長である鮫島の幼稚な振る舞いだ。その姿はまるで小学生のようで、良く言えば純粋だが、正直、見ていてコイツ大丈夫か? と心配になってしまった。

物語自体も、鮫島と柴山がキスをするかしないかで最後まで引っ張っており、恋愛ドラマでありながら、ここまで性の匂いを排除する徹底した配慮には感心した。

鮫島は34歳で柴山は25歳と9歳の年齢差があり、しかも社長と女性新入社員という関係だ。そのため『ラヴソング』のような『マイ・フェア・レディ』的な構造に陥ってもおかしくないのだが、本作はむしろ、支配的な態度をとろうとする鮫島の幼児性自体が笑いの対象となっており、そんな鮫島が成長して対等な男女関係を築くこと自体がテーマとなっているので、見ていて気持ち悪くはならない。

脚本家の金子茂樹は『きょうは会社休みます』で綾瀬はるかが演じる30歳で恋愛経験のない女性が年下のイケメンと恋愛関係になる姿をコメディとして描きヒットさせた。本作はその男性バージョンみたいな話なのだが、『電車男』(フジテレビ系)の以降、恋愛ドラマのヒット作の多くは、トレンディドラマのような美男美女がグループ交際する華やかな恋愛を描いたものではなくなった。『きょうは会社休みます』以前に同じ放送枠で綾瀬はるかが主演を務めてヒットした『ホタルノヒカリ』も恋愛から遠ざかっている20代の女性が主人公のドラマだった。つまり、近年の恋愛ドラマは、恋愛が苦手な男女が悪戦苦闘する滑稽な振る舞いを、“かわいいもの”として、見守るような作品が主流となっている。

いわゆるイケてる男女のグループ交際を描いたトレンディドラマ的な恋愛モノというと今ではリアリティーショーの『テラスハウス』(フジテレビ系)ぐらいで、あの作品も、視聴者が登場する男女にあこがれるというよりは、ツッコミをいれながら自分とは別のモノとして楽しむものとなっている。

『セカムズ』に話を戻すと、本作がヒットしたのは、誰も傷つけない優しいドラマとなっていたからだろう。それは主演が嵐の大野智という国民的アイドルのメンバーだったことも無関係ではない。

物語というものは人間や環境の変化を描くものだ。しかし変化は時にとても暴力的なものとなるため、人の心を傷つける。だから自分が好きなアイドルに対してファンは今の状態のまま大きくなっていくという“成長”は求めるが、思っていたものと違うものが紛れ込むような“変化”は求めない。

そのため、アイドル主演のドラマは本人のキャラクターを愛でるための箱庭を作り出すことに細心の注意を払い、キャラクターの有り方が根本から変わってしまうような状況は、できるだけ排除しようとする。

だから、ドラマの基本とでも言うようなライバルとの対立も極力引っ張らずにあっさりと処理している。鮫島とライバル関係にあった敵対するホテルの社長だった和田英雄(北村一輝)が、どんどん鮫島の恋愛を指南する友人となっていくのは、そのためだろう。

ドラマ性が希薄で細部が突出していた『99.9』

平均視聴率17.2%(関東地区)を獲得し、今期のドラマでは第一位の視聴率となった松本潤主演の『99.9‐刑事専門弁護士‐』(TBS系)にも同じことが言える。

本作は、松本潤が演じる刑事専門ルーム弁護士の深山大翔が主人公の法廷ドラマなのだが、見ていて驚いたのは、主人公の内面がほとんど描かれないことだ。

もちろん、松本潤は微妙な仕草や表情で、主人公の感情を表現しているのだが、何となく見ていると何を考えているのか全くわからないキャラクターに見えてしまう。

弁護士モノのドラマにありがちな、依頼人である被害者を思いやって、深山が感情をむき出しにするような暑苦しい場面がほとんどない。

物語は、その謎解き部分がメインにあるため、本来、一番の見せ場となるような法廷での弁護士同士の論戦は実に淡泊だ。また、当初ライバル関係にあると思われた上司にあたる佐田篤弘(香川照之)も、中盤からどんどん主人公に好意的な存在となっていく。

『セカムズ』もそうだったが、ここまで対立軸が弱いドラマも珍しいのではないかと思う。

逆にすごく目立つのは、嵐のメンバーやプロレスにまつわる小ネタや主人公の深山がくだらないオヤジギャグを言う場面や、専用の調理セットを持ち歩いている料理好きと言ったディテールで、なんというかごはんが少なくて細かいおかずがやたらと充実しているお弁当みたいな作りになっていた。

キャラクターを魅力的に見せるための恋愛ドラマ。

『セカムズ』と『99.9』に共通するのは、主演俳優が演じるキャラクターのかわいさが異常に突出している一方で、物語性が弱いということだ。

このような似た傾向のドラマが嵐主演で一位と二位を取ったのは、今の視聴者が求めているのは、かわいいキャラクターをひたすら愛でるための装置だからかもしれない。

自分にとってドラマと物語はほとんど同じ意味だと思っているので、もしかしたら、これはドラマという枠組みから逸脱した、まったく新しい表現なのではないかとすら思えてくる。

物語上の波を無理やりつくろうとして悪い意味でのドラマらしさに引っ張られた結果、『ラヴソング』は失速し、逆にドラマ性を極限まで排除してキャラクターの魅力で正面突破した『セカムズ』と『99.9』がヒットしたのをみると、いかにドラマ性を排除して物語を動かさないかが、今後はヒットドラマの条件となっていくのかもしれない。