Music for the one God

バロックオーケストラと合唱団、ユダヤの楽器の前で踊るスフィ音楽のダンサー達

異教徒間でコラボ 2012年から続くユニークな音楽イベントの狙いとは

テロが各地で続いている。被害者や遺族の心情を察すると、胸が押し潰されそうになる。

無差別に、全ての人間が被害者になりうる世界に今、生きているという実感とともに欧州人は毎日を過ごしている。2015年のフランス連続テロ事件直後、ペラ・アンサンブルの『Music for the one God』を取材した。

2012年に発表されたこの企画は、キリスト教を背景に持つバロック音楽も、ユダヤ教の宗教音楽も、実はイスラム音楽と共通の、オスマン帝国にルーツを持つという点に着目し、「現在は異なる宗教として対立感が増すばかりのキリスト教、ユダヤ教、イスラム教は同じ根源を持つということを再認識して、お互いを尊重し合わなければならない」というメッセージをこめて作られた。

トルコ出身のメホメット・イェシルケイが結成したこのアンサンブルは、その年にドイツを代表する音楽賞、エコークラシックの『境界線を越えたクラッシック』賞を受賞している。この3種の音楽を上手く組み合わせたプログラムは世界で唯一のものということだが、1959年生まれのイェシルケイ氏は「それらを同化させたいのではなく、同じ高さの目線で対峙させたいのです」と、この企画の意義を語る。そしてそのコンサートツアー実現直前に事件が起こってしまったことに憂いとさらなる使命を感じて各地を回り、満員御礼のために、特別コンサートを企画しなければならないほどの大成功を収めた。

その2年後に新しいプログラムで組まれたツアーを、3月18日ミュンヘンのガスタイクで再度取材した。

この2年間でテロは驚くべきショックな出来事ではなく、いつどこで起こっても不思議ではない日常に潜んだ危険の1つに数えられるようになってしまった。そしてコンサートの始めの言葉が切実に迫って来る世の中に私達は生きている。

「各々が信じたいことを信じて、生きたいように生きられる世界。そこに大切なのはただ1つ、他者を尊重することです。我々にとって音楽のみが世界を結ぶ宗教です。音楽を通して、皆でユートピアに旅立ちましょう。」

開演前のロビー内を、様々な民族衣装で着飾った観客たちが行き交う様は微笑ましく、自由そのものだった。

そして、ユダヤ帽を被った白い長髪の男性の祈るような歌から始まったコンサートは、イスラム音楽へ戻り、そしてそれが自然にバロック音楽につながっていく。その様は、3宗教の切っても切れない強いつながりを証明し、感動的だ。ユダヤ帽を被ったユダヤ音楽の歌手がヴェネツィアのバロック作曲家ベネデット・マルチェッロの曲などを歌うのを聴くと、旧約聖書と新約聖書がやっと手に手を取り合ったようで嬉しくなる。また、イスラムのスフィダンサー達がバッハの「G線上のアリア」に合わせてくるくる回るのも新鮮だ。(写真参照 コピーライトNils Schwarz)。そこで歌うバロック音楽の歌手達が高レベルなので、コンサート全体が引き締まる。

個人的に一番エキサイトしたのはミハル・エリア・カマルの歌と踊りで、ユダヤ教シナゴーグの10世紀の歌Dunash ben Labrat, Fez-Baghdad-Sefaradやイエメンとユダヤの「ハレルヤ」を、千一夜物語を思わせるような、それでいて、フラメンコにも通ずるような踊りを踊りながら、独特の太い発声で歌う。3宗教の融合は、聴衆を興奮させる効果があるようだ。

楽器の音色も新鮮で、かつ懐かしい想いを喚び起こす。 リーダーのイェシルケイ氏が担当するウズ(木製の中世リュート)は西洋リュートの祖先だというが、ギターよりもふわっと広がる音色が原野を想像させ、人類共通の懐かしさを抱かせる楽器だ。

その隣の楽器カーヌンは、「日本の琴と同族」だという。10世紀から伝わっている楽器で約80本もの弦を持つが、当時の弦は羊の腸から作られていたそうだ。現在はもちろんナイロン製であるが、彼らが琴と比べる通り、日本人にも馴染みやすい音色だ。そして驚くほど人間の肉声に近い、マンドリンのような姿の楽器がケメンチャだ。これらの楽器は、宗教や人種を越えた 人類の遺産のように響きながら、自然に音楽を紡ぎ合う。

現在のヨーロッパの状況

今回のツアーは旧東独を回ることを断念せざるを得なかったと聞いて驚いた。2年前にはあれだけ成功をおさめ、今回も公演を請われたものの、安全が保証できない情勢なのだという。活動できる範囲がどんどん狭まっていく現状は危機感を抱かせる。そしてそんな彼らは日本のフレキシブルな宗教観に敬意を払い、日本ツアーを夢見ているという。もしかしたら密接な関わりを持つのに争い合う3宗教を音楽の力で結び付けられるユートピアに、日本がなれるかもしれない。