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一人っ子は「可哀想」「ワガママに育つ」、行く先々で言われる 高齢出産や2人目不妊の当事者には酷

中野円佳東京大学特任助教
(写真:アフロ)

私が運営しているカエルチカラ・プロジェクト(目の前の課題を変えるための一歩を踏み出せる人を増やすことを目指す)言語化塾では、女性たちに日頃感じているモヤモヤを言葉にして整理してもらっている。複数名から上がったのが、職場などで言われた妊娠・出産をめぐる発言が引っかかったというもの。

今回は、40歳で初産した田中マユミさん(仮名、44)の作文から。マユミさんの場合は職場だったが、乳幼児を連れて歩いていると「きょうだいはつくった方がいいわよ」というセリフは街中ですれ違う年配の女性なども含めて頻繁に言われることがあり、行く先々で子育て中の人に投げかけられる言説と言えそうだ。家族計画にはそれぞれ事情があり、望んでいたとしても実現できない場合もある――。

※本記事はBLOGOSからの転載記事です。以下は言語化塾参加者の方の文章です(編集:中野円佳)。

二人目はいつ?-軽いつもりが重い問い

結婚したいと思う人に出会うのが遅かったことや、仕事や趣味が充実していて一人でも日々が満たされていたため、結婚したのが39歳だった。40歳で出産し、頻回授乳で体力そして気力的に非常にしんどい日々を過ごした。

もちろん20代や30代でも、出産そして育児がしんどいのは重々承知している。私自身その年代での経験がないので比較はできない。ただ、私の友人は20代で第一子と第二子、30代で第三子を出産しているが、「30代のほうが出産・育児はめちゃくちゃしんどい」と言っている。ましてや40代をや、だ。

そのしんどい日々の中、職場に無事に出産した旨をメールした。その返信として、ある人が、「次は二人目ですね」と書いて送ってきた。いわゆる高齢出産で色々不安なことがあった中で無事出産。ホッとする間もないまま、慣れない授乳などに奮闘しながら睡眠も十分に取れない状況の中で、その言葉は非常に残酷で無神経なものに感じられた。

「一人っ子はかわいそう」という心ない発言も

実は、この頃には、私たち夫婦は「子どもは一人」と決めていた。授乳を続けていたため生理が再開しなかったが、親側の理由で一方的に授乳を止めるよりも、本人が納得して自ら離れていく方を選択した。ということは卒乳して生理が再開するのはある程度の時間が経ってからになる。もちろん、40代で出産・育児される方もたくさんいるが、我が家の場合はそこからの妊娠そして育児は体力的に難しいと判断した。実際、卒乳して生理が再開したのは42歳の時だった。

産休開始後1年が経ち、子どもが11か月の時に仕事に復帰した。数か月後、全国の社員が集まる会議があった。久しぶりに会う社員が多かったのだが、その中の40代後半以上の男性の多くから「久しぶり、元気?子ども何歳?」と子どもの成長についての質問を受け、答えた次に必ずと言っていいほど「で、二人目はいつ?」と聞かれた。

それだけならまだしも、「一人っ子は兄弟がいなくてかわいそうだよ」「一人っ子はわがままに育つよ」と一人っ子のデメリットを並べ立てる人が多く、辟易とした。

多様化する家族形態に想像力を

なぜ彼らは他人の家族計画について、無神経なまでに聞いてくるのだろうかと考えてみた。

40代以上の男性自身が子どもの頃、また自身が育児をしていた頃は専業主婦世帯が現在と比べてそれぞれ2倍弱、約1.5倍だった(*1)。男性は仕事で女性は家事育児という通念が今より強く、男性の育児への関わりが少ない。真の大変さを経験していないため、子どもは複数生んで育てるべきという頭があるのだろう。

また一人っ子にネガティブなイメージを持っているのは、我々が子どもの頃は一人っ子が周囲に少なく(*2)、そこで見聞きした限定されたイメージがそのまま残っているのかもしれない。

でも、共働き世帯が増える中で男女共にキャリア形成と各人の年齢などが絡み合い、子どもの有無や家族形態が多様化している。また晩婚や高齢出産は自分が自信を持って選択した道であり、その結果現在の状況にある。

「で、2人目は?」と軽く尋ねる前に、あなたの見てきた家族構成が他の人の望む形とは限らないこと、子どもは望めば必ず授かり、育てられるわけではないということにもう少し想像力を働かせてくれる人が増えてくれたらと思う。

=参考統計=

*1 専業主婦世帯と共働き世帯

www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html

*2 合計特殊出生率

www.mhlw.go.jp/…/saikin/hw/jinkou/suikei16/dl/2016suikei.pdf (p.4)

東京大学特任助教

東京大学男女共同参画室特任助教。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社。14年、立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、15年4月よりフリージャーナリスト。厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員。著書に『「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?』『上司の「いじり」が許せない』『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』。キッズラインを巡る報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞。シンガポール5年滞在後帰国。

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