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「杖をつきながらでもビンタする」。蝶野正洋が語るプライドと覚悟

中西正男芸能記者
ストレートに思いを語る蝶野正洋さん

プロレス界の“黒のカリスマ”蝶野正洋さん(57)。年末恒例の日本テレビ「笑ってはいけない」シリーズでの強烈なビンタでもおなじみですが、YouTubeやインスタライブなど様々な発信も展開しています。新型コロナ禍でイベント出演などのキャンセルが続いていますが、その中で見出した自らの意義。そして、次なるファイトスタイルとは。

YouTube、SNSに力を入れる理由

 これまでは土日には何かしらのイベントがあったんですけど、去年からそれがほぼなくなってしまいました。

 そうなる少し前、2019年の秋ごろからYouTubeには取り掛かってたんです。当時はプロレスラーでYouTubeをやってる人はほとんどいなかったし、芸能関連の人でも、まだ珍しいくらいの時期でした。

 結果的には、少し早めにYouTubeを始めていたことがコロナ禍の中では役立ってくれたんですけど、オレみたいなジジイがやろうと思った理由が“啓発”だったんです。

 東日本大震災の際、アントニオ猪木さんと被災地を訪問したのがきっかけで防災減災に力を入れるようになりまして、啓発活動も始めたんです。

 3月6日から地域の消防団をPRするインスタライブでの企画「蝶野ネットワーク119〜20分一本勝負〜」も始めるんですけど、震災から10年が経ち、何かできることはないかという啓発の一環でやることを決めました。

 そういう形で、自分が“客寄せパンダ”的に働くためには、知名度も、発信力も高めておかないといけない。

 何かしら、そういう試みにオレが参加させてもらうことになったとしても「蝶野正洋?誰だそれ?」になっちゃうと、全く意味がないですから。そんなことを考えて、SNSだとかYouTubeにも力を入れてきたんです。

 これはね、非常に難しい問題なんですけど、地域防災とか救命救急というのは本当に大切なことなんだけど、そういう団体さんとかがPRをしようと思っても、なかなか注目が集まらないんです。

 YouTubeとかで動画をアップしても、限られた人数にしか届かない。大事なことなのに、テーマとして多くの人に興味を持ってもらいにくいというか、そういう部分を皆さんと連携する中で、肌で感じてきたんです。

 だから、まず、自分がSNS的な部分でもしっかりと数字を持っておく。そういう土壌を作った上で、そこにオレの色も乗せた上で防災の情報なんかも出していく。それができたらなと思って、続けてきたんです。

 若い人たちにもたくさん見てもらいたいし、あと、オレと同年代とか、もっと上の世代の方もYouTubeを見る時代になりました。

 そういう世代の方からすると、20代の人間がやってるYouTubeはあまり見る気にならないだろうし、オレみたいな人間がそこで発信をする。それはそれで、意味のあることだとも思ったんですよね。

歳をとるということ

 自分自身も、加齢を否応なしに実感します。40代とか50代前半の時の体調とは明らかに違う自分がいますしね。

 ひと世代上の長州力さん、天龍源一郎さん、藤波辰爾さんなんかとお会いすると、当たり前なんですけど、若い頃に戦っていた時の空気とは違ってきてる。ということは、オレもその分、歳をとってるということなんですよね。

 今までは「見栄を張らなきゃ」という自分が間違いなくいました。

 40代になっても50代になっても、30代の頃のバリバリの姿を見せなきゃいけない。ずっと、そんな思いもあったんですけど、YouTubeの企画で田上明さんや安生洋二君とも会ったんです。

 二人とも体を壊したりもしていて、細くなってました。ただ、心は変わらない。その姿を見た時に、もちろん、これは彼らを揶揄してるわけでもなんでもなく、オレ自身の考えとして「ジジイにはジジイにしかできない見せ方があるんじゃないか」と思ったんです。

 今、オレもね、かなりひどい坐骨神経痛なんです。ま、これはレスラーの職業病みたいなもんで、10人くらいレスラーのOBが集まったら、8~9人は坐骨神経痛です。

 良いお医者さんを紹介してもらってマシにはなりましたけど、それでも、正直、だいぶ傷んできてますからね。それが歳をとるということだろうし。

自らの立ち位置

 話がちょっと広がっちゃうけど、プロレスラーというのは、テレビに出る時にはボケキャラというか、そういう役割を求められてきたんです。

 それこそ、昔のザ・デストロイヤーみたいに。強くて、恐いレスラーが面白いことをしたり、茶目っ気のあるところを見せたりする。そのギャップに需要があったわけです。

 ただ、途中からそこがボクシングの人たちに移っていきました。ガッツ石松さんや輪島功一さんがそこに入って、具志堅用高さんらがその後に続いて。さらに、内藤大助君とか、また次の世代もしっかりいますからね。そういう流れに変わったんです。

 でも、今はまたそれがプロレスに戻りつつある。その代表格が長州さんですけど、またボケキャラの枠がプロレスに来てるんですよね。あとは藤波さんもそこに入っていかれるのかもしれないけど、そういったレジェンドレスラーが、また違う形でフィーチャーされてるのが今だと思うんです。

 オレも、昔は「ウッチャンナンチャン」の番組とかによく出たりもしてました。ただ、これはそれぞれのキャラクターなんだろうけど、オレはボケキャラを拒否したんです。

 以前、番組でガッツさんとご一緒した時、最初から最後まで全くスキのない形で求められているボケキャラを全うしてらっしゃったんです。それを見せてもらって、心底すごいと思ったし、オレにはあそこまでのことはできない。

 そんな思いもあって、オレは“バラエティーでのプロレスラー”の逆というか“テレビでもリングと同じものをキープする”という形を選びました。それが「笑ってはいけない」のビンタにつながってるのかもしれないけど。

 オレはそうやってやってきたし、これからも基本的にそのラインでいくとは思うんです。でも、歳とともに柔軟性だとか、ジジイになっていくことをみんなと共有するという要素は入れていこうと思っています。それがジジイの意味だろうしね。

 人前に出るプロレスラーをして、さらには、エンターテインメントの世界にも行かせてもらったわけだから。常に自分の状態と立ち位置を考えながら、発信力を持っておく。

 それこそが、その時、その時に自分がやりたいこと、仲間をサポートすることを実現するカギだとも思っているんです。

 だから、この先、杖をつきながらでも(月亭)方正君にビンタしますよ!

 その頃には、向こうもだいぶガタが来てるだろうから、杖をつきながらのビンタでもヒットするだろうしね(笑)。

(撮影・中西正男)

■蝶野正洋(ちょうの・まさひろ)

1963年9月17日生まれ。東京都出身。84年、新日本プロレスに入門。91年に「G1 CLIMAX」第1回大会で優勝。2002年、新日本プロレス取締役に就任。10年に退団してフリーになる。17年からプロレスを休業。ファッションブランド「ARISTRIST(アリストトリスト)」も手掛ける。日本消防協会「消防応援団」、日本AED財団「AED大使」などの肩書も持ち、19年には書籍「防災減災119」を上梓。蝶野がインスタライブiGTVを用い、消防団と意見交換、情報発信をし消防団のPRをする企画「蝶野ネットワーク119〜20分一本勝負〜」も行う。初回は3月6日午後9時30分スタート。毎月一団ずつピックアップし展開していく。詳細は蝶野オフィシャルブログ(https://lineblog.me/chonomasahiro/archives/1062460137.html)で見ることができる。また、YouTube「蝶野チャンネル」で東日本大震災から10年ということで、長州力、藤波辰爾、天龍源一郎、前田日明らレジェンドレスラーを中心に防災減災の啓発メッセージ動画を3月1日から配信している。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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