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『アバランチ』最終回 咆哮の綾野剛 正義の雪崩は起こるのか

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:関西テレビ

綾野剛主演のドラマ『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系列にて毎週月曜夜10時~)が今夜、最終回を迎える。

物語は、警視庁捜査一課から「特別犯罪対策企画室」へ左遷された西城英輔(福士蒼汰)がある日、上司の山守美智代(木村佳乃)がリーダーを務める謎の集団「アバランチ」と出会うところから始まる。

そこには3年前のテロ事件で仲間を失った元公安の羽生誠一(綾野剛)をはじめ、天才ハッカー・牧原大志(千葉雄大)、元自衛官の明石リナ(高橋メアリージュン)、元警視庁爆発物処理班の打本鉄治(田中要次)がいた。彼らの目的は3年前に偽装テロ事件を起こし、国民の危機感を利用して日本版CIA設立を目論む内閣官房副長官・大山健吾(渡部篤郎)たちが犯してきた罪を暴き出し、裁きを受けさせることだった。

大山に近しい政財界の有力者たちを失脚させていき、羽生たちの計画は順調に進むかと思ったが、大山の策略によってアバランチが正義の味方ではなくテロリスト扱いされるようになり、計画に暗雲が立ち込める。

そして、アバランチの仕業に仕立て上げられた爆弾テロを打本が命をかけて防いだのもつかの間、3年前のテロで死んだはずの羽生の先輩・藤田(駿河太郎)が突然、当時の婚約者である山守の前に姿を現す。一方、西城は週刊誌記者・遠山亮(田島亮)と協力し、県警の刑事部長である父が関与している大規模な警察の不正を白日の下に晒そうとしていた。

指名手配され追われる身となった羽生は、人気のない場所で藤田と二人きりで対峙する。鳴り響く銃声とともに、羽生の左肩を銃弾が貫く。“正義”はここで潰えてしまうのか……。

■自分の信念に妥協しない羽生=俳優・綾野剛

監督は藤井道人。俳優・山田孝之がプロデューサーを務めた映画『デイアンドナイト』や、松坂桃李主演で日本アカデミー賞をはじめさまざまな賞を獲得した映画『新聞記者』(2022年1月からは米倉涼子主演のドラマ版がNetflixで全世界同時配信)などで、見る側の心理を刺激するヒリヒリするような映像と展開を得意としており、本作でも本領を発揮している。なお、藤井監督は映画『ヤクザと家族 The Family』で綾野とタッグを組んでおり、そのことも今回のドラマの独特な空気感に大きく影響していることは間違いない。

全体的に抑えたトーンの映像の中で繰り広げられるソリッドなアクションとスリリングな展開は、あの海外ドラマの金字塔『24-TWENTY FOUR-』を彷彿させる質感だ。一方的な展開に偏らず、それでいてしっかり見させるストーリーもかなり練られており、息つく暇がない。

そしてなにより、綾野剛だ。

不器用ながらも真面目に、コツコツと生きている人たちをあざ笑うかのように、当たり前のように横行する不正、隠蔽、改ざん……。“正義”という言葉が形骸化して久しい現代社会だが、羽生は傷つきながらそれでもなお“正義”を貫こうとする。

第8話で大山とそれまで穏やかに話していた羽生が、途中から明らかに声のトーンを変えて凄む瞬間は羽生という人間を象徴しているとともに、非常に見ごたえのある、何度も繰り返して見たくなるシーンだった。

写真提供:関西テレビ
写真提供:関西テレビ

見る者を惹きつける優しい眼差しと、不意に突きつける鋭い刃物のような視線との絶妙な切り替え。綾野剛もきっと羽生のように自分の信念に妥協しない人なのだろう。最後まで決してあきらめることなく、全身全霊をかけて戦い抜く羽生の生きざまは、綾野剛という俳優の生きざまともオーバーラップするのではないだろうか。

■正義の雪崩は「起こる」ものではなく「起こす」もの

こうして迎える最終回だが、どんな結末が待ち受けているのかはまったくわからない。強大な権力の前にもはやアバランチに打つ手はないようにも見える。では、羽生たちがこれまで命を賭してまでやってきたことはすべて無駄に終わってしまうのか。それともーー。

このドラマを最後まで見終わった時、私たちの心には何が残るだろう。答えは私たち視聴者に託される。「世界は残酷だ」と諦観できるほどになるには人生はあまりにも短い。そう、“正義の雪崩”は「起こる」ものではない。「起こす」ものなのだ。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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