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『婚姻届に判を捺しただけですが』 繊細な演技を幾重にも重ねる坂口健太郎

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:TBS

今、最も注目されている俳優の一人といえば、坂口健太郎であることは間違いない。

彼が出演している『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系にて毎週火曜夜10時~)が本日、第3話の放送を迎える。

デザイン会社に勤める大加戸明葉(清野菜名)はある日、知り合ったばかりの広告代理店の営業マン・百瀬柊(坂口)から「僕と結婚してみませんか?」と、いきなりプロポーズされる。仕事にやりがいを感じ生涯独身も厭わない勢いだった明葉だが、あまりにも突拍子もない彼の提案にあ然とする。なんと百瀬の目的は「既婚者」という肩書きを手に入れることだったのだ。

しかし、そんな折、小料理屋を営む明葉の祖母・初恵(木野花)が心不全の発作で倒れ、さらに不渡りを出した叔祖父が自分名義の小料理屋と土地を売却しようとしていることを知らされる。祖母を悲しませたくないが、もはや自分一人ではどうにもならなくなった明葉は仕方なく百瀬に頭を下げ、婚姻届に判を捺すことと引き換えに彼から500万円を借りることにする。

ここに晴れて契約が成立し、偽装結婚とはいえ夫婦になった明葉と百瀬の同居生活が始まるが、当然のごとくライフスタイルや価値観をめぐって摩擦&衝突が発生。それに加え、百瀬が偽装結婚をしてまで想いを寄せる相手が彼の兄の妻・美晴(倉科カナ)であることが彼自身の口から告げられ、事態はさらに複雑になっていく。

ドラマは二人の偽装新婚ライフ同様、始まったばかりだが、当然、この先もさまざまな波乱が待ち受けていることは想像に難くない。

■後から効いてくる坂口健太郎の超微細演技

先日フィナーレを迎えた朝の連続テレビ小説『おかえりモネ』で、清原果耶演じる主人公・百音の恋人・菅波を演じていた坂口。

ツイッターでは「#俺たちの菅波」というハッシュタグと共に、彼が出演していない回でも盛り上がるという現象が起きたが、9月にゲスト出演した『あさイチ』で坂口は、自らの演技に関して興味深いエピソードを披露していた。

番組では視聴者からの問い合わせを受け、携帯電話を取り出す菅波のズボンのポケットの裏地が飛び出すシーンを紹介。MCは菅波のキャラクターらしいハプニングだったのでは? と水を向けたが、坂口はそれをあっさりと否定したのだ。彼によれば、リハーサルで偶然飛び出たのが「菅波っぽい」という話になり、それ以降は狙ってやったのだという。

そう考えると、おそらく彼のこれまでの演技にも、私たちが気づかない仕掛けがたくさんあったのではないだろうか。そう思って彼が出演した作品を見返すと、また新たな発見や気づきがあるかもしれない。

■坂口演じる柊の目線の変化に注目

先述のエピソードから私は彼が緻密な考えのもと、演じているのかどうかも分からないほど自然で微細な演技を積み重ねてキャラクターを作り上げていくタイプではないかと感じた。

それはまるでジグソーパズルを一つ一つ丁寧に組み合わせ、最後に壮大な絵が完成した時の感動とでも言おうか。視聴者は彼の類まれなる繊細な演技に知らず知らずのうちに引き込まれ、気がつくとその魅力から抜け出せなくなっているのだ。

『婚姻届~』をここまで見る限り、百瀬は明葉となかなか目を合わせようとしない。自分のエゴに巻き込んだことに対する負い目なのか、それとも彼女を異性として見ていないことの表れなのか、坂口は必要最低限の目線だけ彼女に送り、しきりに目を伏せ、逸らす演技を見せている。

あくまで予想だが、これから先、ストーリーが進み二人の関係に変化が訪れるのに合わせ、絶妙なニュアンスとタイミングで百瀬の目線の向きと強さが変わっていくことだろう。

写真提供:TBS
写真提供:TBS

最初の出会いが最悪だった男女が、ある条件・契約のもと擬似的結婚生活を送り、やがて本当の愛を育んでいくというシチュエーションは、どうしても『逃げるは恥だが役に立つ』と比較されがちである。

しかし、坂口の表現力をもってすれば、『婚姻届~』は最終回を迎える頃には『逃げ恥』とはまったく異なる素敵な作品に仕上がっているはずだ。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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