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稀代の名将サッキは日本勝利に驚きなし、その理由は? 「たいしたサプライズじゃない」

中村大晃カルチョ・ライター
2022年11月23日、W杯ドイツ戦での日本代表の森保一監督(写真:ロイター/アフロ)

日本のドイツ撃破は、世界の驚きを誘った。サウジアラビアがアルゼンチンを下したばかりだっただけに、連日の番狂わせに「サプライズのワールドカップ」との声は少なくない。

だが、イタリアの名将アッリーゴ・サッキは違う。11月24日の『Gazzetta dello Sport』紙コラムで、「なぜ驚く」「サプライズ? そうでもない」と、日本の勝利は順当だったと評した。

ゾーンプレスで知られるサッキは、イタリアの名門ミランで黄金期を築き、1994年のアメリカ・ワールドカップでイタリア代表を準優勝に導いた名将だ。

76歳となった辛口のご意見番は、日本やサウジアラビアが快挙を成し遂げた理由に「チームスピリット」「プレーというアイディア」「グローバル化したサッカー」を挙げている。

サッキは「W杯の試合はすべてバトルだ。選手たちはないエネルギーまで引き出す。国全体を背負っていると知るからだ」と指摘した。

「W杯で勝つのは、技術的により強い者ではない。大きなモチベーション、チームスピリット、そしてプレーがなければ、どうにもならないからだ。本当の集団として動かなければ、無名の11人でも自分たちを困難に陥らせることができる。リオネル・メッシたちはそれが分かるはずだ」

アルゼンチンはごう慢になり、サッカー的なインテリジェンスがなかったと批判したサッキは、ドイツについて「リズムを落とすや日本にやられた」との見解を示している。

「これは、今のサッカーにおいて気をそらすのは許されないということだ。力を出し惜しむことはできない。常に最大限にプッシュしなければならないのだ」

さらに、サッキは「出し惜しみしないこと、断固たる決意、謙虚さ」が重要とし、アメリカW杯で準優勝したイタリアのメンバーには「技術的な価値以前にモラル的な価値があった」と主張している。

「サッカーはずっと知性の集合体だった。そして、ますますそうなっていくだろう。アタマと謙虚さがなく、だいたいでやるのでは、成功することはできない」

最後に、サッキは改めて世界のレベル向上を指摘している。1990年のイタリアW杯で練習を見学した際、サウジアラビアは代表チームと思えないレベルだったと回想。そこからサウジアラビアが進化し、「継続的な革新を通じてのみ、重要な結果を残すことができると理解した」と綴っている。

「逆に立ち止まっている者、過去の成功と栄光にとらわれている者は、困難と失望に直面することが避けられない。大会は序盤だ。挽回する時間はある。だが、根本的にメンタリティーを変えることが必要だ。楽に倒せるチームなど、もう存在しないのだから」

サッキは日ごろからイタリアやビッグクラブのつまずきに厳しく、直近のミランのような「コレクティブなサッカー」を絶賛する。それだけに、日本やサウジアラビアを評価する以上に、大国の出来に対する批判の意味合いが強く感じられる。

そこに、彼自身の頭にも「大国と小国」のヒエラルキーが無意識に存在することがうかがえる。ただ、それは当然だろう。もう何十年も、W杯のベスト4は欧州勢か南米の強国ばかりなのだから。今は、その序列を覆そうとしている途中なのだ。

今大会がその舞台になるか、注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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