Yahoo!ニュース

伊2部で卑劣な蛮行、昇格候補サポが相手監督の18歳娘を脅迫・暴行 「恥じろ、もうたくさん」

中村大晃カルチョ・ライター
2018年3月、プロ・ヴェルチェッリで指揮を執っていた時のグラッサドーニア(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

22年ぶりの1部昇格のためなら、何をしても許される…わけがない。

セリエB(イタリア2部)のペスカーラを率いるジャンルカ・グラッサドーニア監督の娘が、5月10日の最終節で対戦するサレルニターナの“サポーター”に暴行された。指揮官の怒りは言うまでもない。母親は街に戻らないと憤った。

◆状況

セリエBで19位のペスカーラは、すでにセリエC降格が決定。一方、サレルニターナは3位モンツァに2ポイント差の2位だ。ペスカーラとの最終節に、2位維持が懸かっている。

2位はセリエAに自動昇格できるが、3位は8位までの6チームで行われるプレーオフを戦わなければならない。つまり、サレルニターナにとってペスカーラ戦は、1998-99シーズン以来となるセリエA復帰を決められるかどうかの大一番だ。

◆街から“逃げた”家族

その決戦を2日後に控えた5月8日、サレルニターナの本拠地サレルノの街に住むグラッサドーニアの娘が暴行の被害に遭った。グラッサドーニアはサレルノ出身で、現役時代にサレルニターナでプレーし、監督としても指揮を執った経験を持つ。

以下、拙訳で恐縮だが、フェイスブックでの母親の叫びだ。

「この5日間、私たちの娘に対する侮辱や脅迫がありましたが、今夜の狂気の沙汰は許せません。18歳になったばかりの娘が、突き飛ばされ、蹴られる暴行を受けました。父親が理解するまで…と脅されて。すべては、ひとつのサッカーの試合のためです」

「できるだけ早く、サポーターというにはほど遠い、これらの犯罪者たちが特定されることを願います。家族のひとりが暴力の標的になったのは初めてです」

「動揺し、悲しむ中で、連帯を示してくれたすべての人には感謝します。でも、これまでになく当然だと思いますが、私たちはサレルノから遠く離れたところで暮らしていくでしょう。礼節と敬意がすべての人の美徳となることを願います」

グラッサドーニアは、『Salerno Today』で「恥だ」と怒りをあらわにした。

「娘は突き飛ばされ、蹴られた。もううんざりだ。私の家族はタクシーで去った。いや、逃げた。私がアブルッツォ州で家族を待つ。もう十分、もうたくさんだ」

◆「サッカーの試合はサッカーの試合」

グラッサドーニアの会見での発言が、サレルニターナのサポーターを刺激したとの見方もあったようだ。だが、サレルニターナが声明で、指揮官の発言として出回っている情報はフェイクニュースだと発表した。

サレルニターナは「たとえ重要でも、サッカーの試合はサッカーの試合にとどまるべき」「すべてはピッチ上とスポーツの範ちゅうにとどまるべき」と、至極当然のことを強調しなければならなかった。

サレルニターナのウルトラスも、蛮行を働いた者はサポーターと無関係とし、声明で「悪い模範の結果である不快な行動であり、サレルノの名を汚す。恥じろ!」と激怒している。

ほかにも、セリエBのマウロ・バラータ会長が「サッカーにもセリエBにも市民権のない、卑怯で野蛮な行為」と非難するなど、続々と怒りの声が上がった。

だが、18歳の女性が、どれほどの恐怖を覚えたことか。本当に、その人が住む街のクラブを応援する“サポーター”なら、こんな卑劣な暴挙に出ることはないはずだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事