Yahoo!ニュース

「エリクセンよ、みじめだぞ!」 マドリー戦の屈辱的な敗戦処理は戦力外通告?

中村大晃カルチョ・ライター
9月19日、プレシーズンマッチでのエリクセン(写真:Maurizio Borsari/アフロ)

名選手でも、名将の下で常に輝けるわけではない。

名監督でも、名選手をいつも生かせるとは限らない。

移籍から10カ月、クリスティアン・エリクセンとアントニオ・コンテ監督の歯車はかみ合わないままだ。インテルでの冒険は終わりに近いとの声も聞かれる。

加入時は、必須だった中盤のクオリティー向上につながる補強と称賛されたロックダウン後は、希望の光もあった。だが、継続的な居場所を得られず。「魔法のタッチ」が消えたと嘆かれた

シーズンが変わっても、状況は改善していない。むしろ悪化している。公式戦12試合でスタメンは4試合のみ。フル出場はなく、最長でも79分のプレーにとどまっている。8試合で305分は、1試合につき約38分というプレー時間。特に11月に入ってからは、プレー時間わずか4分だ。

◆泡と消えた期待

10月と11月のインターナショナルウィーク中、エリクセンは出場機会がないことへの不満を漏らした。確かな地位を築くデンマーク代表にいる間は、特にイタリアでの現状との違いを感じるだろう。

ただ、コンテはよく思わないかもしれない。ロックダウン後、指揮官はシステムを3-5-2から3-4-1-2に変えたからだ。エリクセンが最も輝けるトップ下を置くためだったのは想像に難くない。

実際、システム変更直後、エリクセンは6試合のうち5試合で先発出場している。前述のように、ここがターニングポイントになるとの期待もあった。

だが、以降は再びベンチスタートとスタメンを繰り返す。リーグ戦最後の2試合は終了間際の投入。8月にドイツで集中開催されたヨーロッパリーグでも、チームが決勝まで勝ち進んだなか、エリクセンのスタメン出場は一度もなかった。

◆必要なのはチェロじゃなくてバイオリン?

うまくいかない原因のひとつを示唆したのが、チームメートのロメル・ルカクだ。代表戦でデンマークと対戦した際、エリクセンはイタリア語を向上させるべきと助言したのである。

ロックダウン直後は、言語習得への姿勢を評価する報道もあった。10月末のクラブ企画動画では、数字など簡単な言葉を使っている。

だが、ルカクによれば、十分なコミュニケーションをとれるほどではないということだ。

その影響かは別にして、コンテの起用法よりエリクセン自身の問題という批判もある。

マリオ・スコンチェルティ記者は、11月16日の『calciomercato.com』で「コンテが何をしたにせよ、もう十分だ」と、奮起をうながした。

「次はエリクセンの番。彼からの努力を一切見ていない。ずっと、リアクションせずにすべてを我慢してきたようだった」

確かなのは、コンテとエリクセンは合わないという見方が強まっていることだ。

20日の『PASSIONE INTER』によると、クラブレジェンドのジュゼッペ・ベルゴミは、『Radio Nerazzurra』で「プレーシステムと、イタリアのサッカー文化にハマっていない」と述べている。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙のステーファノ・バリジェッリ編集長は、24日の紙面で「すべてコンテのせいか?私はそうとは言わない」と指摘した。

「クオリティーがあるが、フィジカルな選手ではない。激しい気性もなく、監督が望む中盤で機能できない。オーケストラで、バイオリニストがいないからと、代わりにチェリストを置くことはできない」

◆名門相手の「理解しがたい処罰的恥辱」

しかし、25日のチャンピオンズリーグ・グループステージ第4節での起用法は、物議を醸すものだった。レアル・マドリーを相手に前半から退場者を出し、スコアは0-2。敗色濃厚の86分に、コンテはルカクとの交代でエリクセンを投入したのだ。

試合展開、スコア、エースをベンチに呼び戻したことからも、敗戦処理的な起用だったことは否めない。世界的なエリクセンのステータスを考えれば、気性の荒い選手なら、出場を拒否して問題になることもあり得るケースだ。

パオロ・コンドー記者は、『スカイ・スポーツ』で「非常に理解しがたい処罰的恥辱」と指摘。現在アゼルバイジャン代表を率いるジャンニ・デ・ビアージ監督は、『TUTTOmercatoWEB』で、エリクセンは「みじめと感じるべきだ。考慮されていない、だからベストを出せない」と述べた。

ルイジ・ガルランド記者は、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』で「欧州サッカーが必要とするクオリティーを増すには、エリクセンが適切と思われた」と、コンテを批判している。

「ラスト4分に何の意味がある? 特に優れた過去を持つ選手が失敗する時は、常にその責任は選手だけのものではない」

◆失敗補強に終わるのか

エリクセンは、1月の目玉補強だった。クラブと強化部門にとっては、「失敗」の烙印を押されたくないはずだ。だが、断念しつつあるのかもしれない。ジュゼッペ・マロッタCEOは22日の試合前に、去ることを望む選手を無理に引き留めることはしないと話した。

これを受け、各メディアは、インテルがエリクセンの放出も辞さないと報じた。実際、冬のエリクセンの去就を巡る噂は活発化している。

もちろん、先のことは誰にも分からない。インテルが不振だけに、コンテの責を問う声が多いのも確かだ。今季中かは別に、監督交代の可能性があるのなら、エリクセンという稀有なテクニシャンを簡単に手放す道理はない。コンテの契約は2022年6月まで。エリクセンは2024年6月までだ。

確かなのは、エリクセンを生かせていないだけで、コンテが「無能な監督」というわけではないこと。同様に、コンテの下で本領を発揮できないだけで、エリクセンが「無能な選手」になることもない。

インテル、コンテ、エリクセンの3者にとって、何が最善の道なのだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事