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「魔法のタッチ」が消えたエリクセン、自己ワーストシーズンで疑念を打ち消せるか?

中村大晃カルチョ・ライター
7月1日、セリエA第29節ブレッシァ戦でのエリクセン(写真:ロイター/アフロ)

シーズン中断が奏功した――再開直後は、そう思われた。それは幻想だったのだろうか。

インテルのクリスティアン・エリクセンが苦戦している。7月9日のエラス・ヴェローナ戦に続き、13日のトリノ戦でもスタメン落ち。試合終了間際に投入された。

◆ロックダウンでシステム変更

冬にトッテナムから加入したエリクセンは、新天地やアントニオ・コンテ監督のシステムへの適応に苦しんできた。そこでコンテは、3-5-2から3-4-1-2へとシステムを変更。エリクセンがトップ下で輝けるようにお膳立てした。

ナポリとのコッパ・イタリア準決勝セカンドレグ、エリクセンはイタリアサッカー界にとって再開後初となるゴールを決めるなど活躍。セリエA再開初戦のサンプドリア戦でも、アシストなどで勝利に貢献した。

ロックダウン中のイタリア語習得への姿勢も評価され、一部のメディアはエリクセンが逆転優勝への切り札になり得ると指摘。終盤戦の新たなる武器として、期待値は大きくなっていた

だが、6-0と大勝したブレッシァ戦で、途中出場から1得点1アシストをマークしたものの、この一戦からの4試合で3試合がベンチスタート。直近でコンテはベテランのボルハ・バレロをトップ下に起用しており、エリクセンの株はまた下がっている。

◆連続「ダブルダブル」も終止符か

データサイト『Transfermarkt』によれば、今季のエリクセンは、公式戦で6得点6アシスト。インテルでは3得点3アシストという数字だ。

『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のマッテオ・ナーヴァ記者は、過去3シーズンのエリクセンが、トッテナムで常に「ダブルダブル」、つまり得点とアシストでそれぞれ二桁を記録してきたと指摘する。

また、アヤックスでレギュラーとなった2010-11シーズン以降、エリクセンは常に17ゴール以上に関与している。12得点5アシストだった2014-15シーズンが、これまでの“ワーストシーズン”だった。今季はここまでそれを下回っている。

筆者作成、データは『Transfermarkt』参照
筆者作成、データは『Transfermarkt』参照

ナーヴァ記者は「求むクリスティアン・エリクセン」「魔法のタッチはどこへ?」と、デンマーク代表がこれまでの力を発揮できていないと評した。

同じ『ガゼッタ』のヴァレーリオ・クラーリ記者は、かつてインテルで能力をフルに発揮できず、その後アーセナルでレジェンドとなったデニス・ベルカンプのようになる恐れがあると指摘した。

◆能力に疑いの余地なし

だが、「魔法のタッチ」を持つエリクセンのポテンシャルは周知のとおりだ。トリノ戦でベンチスタートだったことを受け、正しい選択か尋ねた『ガゼッタ』電子版のアンケートでは、2700人超のユーザーの約73%が「No」と回答。タレントを生かすべきとの見解を示した。

インテルOBのリッカルド・フェッリも、『ガゼッタ』のインタビューで、ベルカンプとは違い、エリクセンがシーズン途中に加入し、異例の中断期間があったことを強調。「エリクセンには大きな可能性があり、まだシーズンは終わっていない」と擁護している。

「まだインテルはまだ2位の座を追うことができる。ヨーロッパリーグも忘れてはいけない。エリクセンには、疑念を打ち消すための可能性がたくさんある」

レジェンドのサンドロ・マッツォーラも、『TUTTOmercatoWEB.com』のインタビューで、重圧や新たな環境の難しさが不調の原因かもしれないとしたうえで「私は好きだ」と評価した。

「エリクセンを残すべきか? 優れた選手なら、常にとどめておく」

◆今後を左右する残り試合

それでも、去就を巡る噂は後を絶たない。エリクセンを獲得し、今後の核と考えるクラブと、自身の構想と異なる駒とみるコンテとの、相違の象徴という声も聞こえている。

不穏な空気をかき消すには、結果しかない。16日のスパル戦で、エリクセンはスタメンに復帰と予想されている。ユヴェントスの躓きで、勝てば勝ち点6差に迫ることができる大事な最下位との一戦で、エリクセンは喧騒を吹き飛ばせるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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