Yahoo!ニュース

ミランはまたゼロから再出発? イブラとピオーリを残すべきか、OBたちの見解は?

中村大晃カルチョ・ライター
1月6日、セリエAサンプドリア戦でのイブラヒモビッチ。数カ月で再び退団?(写真:ロイター/アフロ)

シーズンが再開されず、現時点での順位が最終確定となれば、セリエAで7位のミランは欧州カップ戦に出場できない。クラブにとって小さくないダメージだ。

あまりに先行き不透明な現状だが、この春という時期に、各クラブが未来に向けた計画をまったく立てないわけにもいかない。上層部でひと悶着があったミランは、まだ来季のチームの軸が定まっていない。ズラタン・イブラヒモビッチとステーファノ・ピオーリ監督の今後だ。

◆評価抜群も退団濃厚のイブラ

1月に復帰してから、イブラヒモビッチは公式戦10試合に出場して4得点。チームは5勝3分け2敗という成績だ。彼が出なかった19試合は7勝4分け8敗だった。出場10試合の『ガゼッタ・デッロ・スポルト』の平均採点は6.45と高水準だ。

リーグ戦に限れば、イブラヒモビッチ出場の8試合でチームは勝ち点14、不在の18試合で22ポイントだった。1試合平均勝ち点で1.75対1.22という差だ。

4月1日付『ガゼッタ』のインタビューで、アッリーゴ・サッキは「パーソナリティーと勇気を与えた」とイブラヒモビッチの活躍に驚きを表した。指導者として若いチームを指揮する際に求めていた「経験を持つ導き役」だと賛辞を寄せている。

当然、残留を望む声は少なくない。4月5日付『ガゼッタ』では、ジョゼ・アルタフィーニ、フィリッポ・ガッリ、ジョヴァンニ・ガッリ、アルド・セレーナのOB4人にインタビュー。様々な質問の中で、イブラヒモビッチはまだミランに必要か聞いている。

10月で39歳になるだけに、G・ガッリはフィジカル面の考慮が必要とした。そのうえで「技術とリーダーシップに議論の余地はない。あきらめるのは間違い」と述べている。アルタフィーニも「今のミランにはまだ必要かもしれない」との意見だ。

一方、F・ガッリは「自分なら残す」としつつ、すべては「オーナーのプラン次第」と話す。セレーナも、モチベーションがあるなら残すべきとしたが、自身を招いたチーフエグゼクティブオフィサーのズボニミール・ボバンが去り、今後が確実でない中でどうなるかは分からないと指摘した。

実際、イブラヒモビッチは今季限りでの退団を決めたとの報道もある。

ボバンはオーナーである投資ファンド「エリオット」の意向をくんで動くイヴァン・ガジディスCEOと衝突し、クラブを去った。事実上の解任だ。盟友パオロ・マルディーニも、テクニカルディレクターの職を今季離れるとの見方が少なくない。

自分をミランに呼び戻し、クラブのDNAを知り尽くす先輩たちが遠ざけられ、残る首脳陣は若手重視…イブラヒモビッチが退団する前提条件はそろっている。

◆ピオーリに賛辞も、続投は意見分かれる

ボバン(とマルディーニ?)の退団は、ピオーリの今後にも影響するだろう。そもそも、ボバン解任の決定打は、ガジディスがラルフ・ラングニック招へいに動いたことをボバンが『ガゼッタ』で公に批判したことにもあった。

ミランはピオーリに別れを告げ、まったく哲学の異なる(だが経営陣が望む)ラングニックを招くべきなのだろうか。OBたちの意見は分かれている。

G・ガッリは、ピオーリの手腕を評価して「どうして別の監督を探しに行くんだ?」と話した。「進むべき道を示すのはオーナー」としつつ、自分なら続投を選ぶと答えている。

F・ガッリも現監督を称賛した。「彼からリスタートするのが道理にかなっているだろうし、そうなったら素晴らしい」とも述べている。そのうえで、指揮官には上層部の完全なる支えが必要とし、「すべてはオーナーの考え次第」と指摘した。

セレーナも「チャンピオンズリーグ(CL)出場が目標なら、チームを育てるのにピオーリは適任」と回答。だが、オーナーが目指すのがCL出場権か疑問を呈し、「明確にすることが必要」と述べている。

「全体的な練り直しが必要」というアルタフィーニは、監督交代に賛成のようだ。自身の経験に基づき、「改革がうまくいくこともある」と語った。ただし、指揮官に決定権が必要とも強調している。

3月29日付の『ガゼッタ』でも、ふたりのOBがこのテーマを語っていた。ステーファノ・エラーニオとフルヴィオ・コッロヴァーティだ。前者は続投派、後者は交代派である。

コッロヴァーティはピオーリが続投に値するとしたうえで、ラングニック招へいが「非常に魅力的なアイディア」だと話した。一方で、エラーニオはピオーリがイブラヒモビッチの加入前からチームを成長させたとし、プレー、戦術、経験など、様々な理由から現指揮官をたたえている。

◆再出発の時なのか

エラーニオがピオーリ続投を支持する理由には、近年のドタバタを繰り返すべきではないとの思いもあるようだ。「毎年ゼロからリスタートしてはいけない。監督についてもフロントについても、ミランはあまりにも前からそうなっている」と指摘した。

実際、ここ6年強でミランは9人もの監督が指揮を執っている。ここ3年はテクニカル部門の責任者も毎年変わってきた。その都度、出直しを強いられたのは言うまでもない。

2020年の夏は、その流れに終止符を打つタイミングなのか。それとも、終止符を打つための布石としてもう一度、リスタートで我慢すべきときなのか。新型コロナウイルスの感染拡大で先が見えない中、ミランの模索は続く。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事