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ラツィオは最強コスパの「ドリームチーム」 欧州最長の連続無敗は20年ぶり優勝の吉兆?

中村大晃カルチョ・ライター
2月29日、セリエA第26節ボローニャ戦で得点を挙げたホアキン・コレア(写真:ロイター/アフロ)

ラツィオには、優勝するチームの空気が漂っている。経験者が言うのだから、それは確かだ。

2月29日、冨安健洋が所属するボローニャを2-0と下し、ラツィオは暫定ながらセリエAの首位に浮上した。シーズンを折り返してから順位表のトップに立ったのは、2000年以来20年ぶりだ。

その20年前、ラツィオはクラブ史上2回目の優勝を果たしている。現在のチームを率いるシモーネ・インザーギ監督は、その時の優勝メンバーだ。そして、そのインザーギはボローニャ戦後に「2000年のチームと同じ雰囲気がある」と口にした。

◆「スクデットにふさわしいファミリー」

ボローニャ戦で得点したホアキン・コレアが、ベンチのフェリペ・カイセドと抱擁したことも、ムードの良さを表すエピソードのひとつだ。

『コッリエレ・デッロ・スポルト』のファブリツィオ・パターニア記者は、6試合ぶりにスタメンから外れたカイセドに、代わって先発したコレアが駆けつけたことが、グループの現状を表していると指摘。「スクデットにふさわしいファミリー」と表現した。

かつて指揮を執ったズデネク・ゼーマンも、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』のインタビューで「チームとしてプレーしている。全員が互いを助け、互いがやることに注意を払う」と話している。

◆スタメン総額は1億ユーロ未満

最多得点の新記録を目指すチーロ・インモービレ、アシストランクで首位に立つルイス・アルベルト、強豪からの熱視線が絶えないセルゲイ・ミリンコビッチ=サビッチ、リーグを代表するセンターバックとなったフランチェスコ・アチェルビと、ラツィオには各ポジションに「顔」がいる。だが、加入時点からビッグスターだった選手はいない。

『スカイ・スポーツ』は、レギュラーの獲得に要した移籍金が、総額で8710万ユーロ(約104億5000万円)と、1億ユーロ(約120億円)にも満たないと伝えた。2000万ユーロ(約24億円)以上の選手はおらず、1000万ユーロ(約12億円)以上も4人だけだ。

『Transfermarkt』のデータを基に『スカイ』が算出したところ、ラツィオはチーム全体の評価額が3億2565万ユーロ(約390億7000万円)。優勝を競うユヴェントスの7億6250万ユーロ(約914億9000万円)、インテルの6億8240万ユーロ(約818億8000万円)と比べ、その差は一目瞭然だ。

この点については、ゼーマンも「ほかのチームと違ってそれほどコストがかかっていないが、ピッチではほかよりも良い」と、そのコストパフォーマンスの良さに言及している。

特に、インモービレは1500万ユーロ(約18億円)から6000万ユーロ(約72億円)、コレアは1900万ユーロ(約22億8000万円)から8000万ユーロ(約96億円)、L・アルベルトは400万ユーロ(約4億8000万円)から8000万ユーロ、ミリンコビッチ=サビッチは1500万ユーロから1億ユーロと、市場価値が爆上げだ。

◆リバプールに代わる「最長無敗チーム」に

ただ、OBのルカ・マルケジャーニは、ラツィオは以前から強いと強調した。2000年優勝メンバーの守護神は、『ガゼッタ』で「優勝候補でなく、最強でもないが、どこよりも良いプレーをしているから首位なんだ。この数カ月で勝ちながら自信を深めていった」と述べている。

「ただ、彼らは数年前から強い。継続性を見つけただけだ」

その自信につながっているのが、負けていないという事実だ。ラツィオが最後に勝ち点を得られなかったのは、9月25日の第5節インテル戦。以降、21試合にわたって無敗を続けている。リバプールの無敗記録に終止符が打たれ、ラツィオは欧州の「最長無敗チーム」となった。

これだけ負けていないという事実は、スクデットに向けての好材料だ。『スカイ』によると、21試合無敗だった過去の7チームのうち、6チームがそのシーズンの覇者となっている。

首位に立ち、得点王とアシスト王を擁して、欧州最長無敗…ダニエレ・リンドーネ記者は『コッリエレ』で「ドリームチームのラツィオ」と絶賛した。

◆再び育まれる優勝という夢

もちろん、首位浮上はあくまで暫定であり、リーグ戦はまだ10試合以上も残っている。何より、優勝候補はあくまで絶対王者ユヴェントスという見方は依然として少なくない。

ファブリツィオ・ラヴァネッリも、『ガゼッタ』で「回避すべきバナナの皮は多い」と、油断はもってのほかと警鐘を鳴らす。ルーカス・レイバも、まずはチャンピオンズリーグ出場権獲得という目標が最優先で、1試合ずつ集中するのみと強調した。

だが、マルコ・バロッタは「より決意や飢えがある」と、ユヴェントスにも上回るものがあると話した。ラツィオ陣営から優勝を意識するような言葉が出始めているのも事実だ。

確かなのは、夢は膨らむばかりで、それ自体がすでにラツィオにとって成功ということだ。ジュゼッペ・パンカロは「再びスクデットを夢見るようになったのはとても素晴らしい」と、成長を続けたクラブに賛辞を寄せた。

もともとスクデットを目指していた2000年と違い、シーズンが進むにつれて優勝候補となった今季の「ドリームチーム」は、3度目のタイトルという大きな夢をかなえることができるだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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